【エンジニアの野外手帳】
知人から「この本、面白いよ」と送られてきたのが「エンジニアの野外手帳」という本。
編著は北海道を代表する総合建設コンサルタントであるドーコンに勤務するスタッフによる、「ドーコン叢書編集委員会」の皆さん。
総合建設コンサルタントと言えば、道路、河川、橋梁、環境、生物などの専門家たちで、文字通り道路や河川、都市施設などの社会的インフラの計画、設計、などを生業とする集団です。
そんな工学的技術者の集団である総合コンサルタントの社員としては、社会の中にちょっと不思議なものやことを見るたびに、「それはなぜか」を探求したくなる職業的な癖があるよう。
そしてその謎を解くことが社会をまた一つよくする提案に繋がるという確信があるからこそ世の中を見る目が養われ、腕の良い目利きになると普通の人ではわからない微細な事柄が分かってくるのです。
この本には、そんなエンジニア魂にあふれた、「北海道の謎解き話」や「未来への提言」など12編が含まれていて、そのどれもが、単なる苦労話ではなく、技術者が課題に正面から取り組んだ軌跡だと言えるでしょう。
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魚の生態を知りたくて、どんな酷寒にもめげずにドライスーツに身を包んで水中で魚を見、写真を撮る潜水調査に注いだMさんの人生がそこにあります。
かといって魚に対しては「焼いて食べよう、掴まえてやろうなどの下心を持っていると、魚は岩陰や糖流木の中に身をひそめて二度と出てこない。産卵期のカップルに不用意に近づくと、産卵放棄してしまう恐れがある。技術者として、決して許される行為ではない」という姿勢で敬意を持って真摯に付き合うことを貫くのだと言います。
私自身、以前長野県にいた時に潜水調査のプロのNさんという方と仲良くなり、ダイビングを始めました。ダイビングを始めた頃は面白くて、いろいろな調査にも誘ってくれたNさんについて回り、海でのダイビングだけではなく河川調査や湖水調査にも良くいきました。
Nさんは、「魚の気持ちが分からなければ河川整備などできない」といつも言っておられましたが、「お役人でダイビング免許まで取って自分で潜ろうとする人はそんなにはいないねえ」と苦笑い。
「河川屋さんは環境が大事というけれど、誠実に川に向き合うというのはどういうことだと思っているのだろう」と、豪快に笑いながら、実にいろいろなことを教えてくれました。
役人はそんなことまでしないというのならば、やはりできるだけ正確な知見を提供するのが調査のプロということのはず。北海道には潜水調査をする人はなどいないと思っていましたが、立派に活動されていることに安心しました。
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また別な章では、北海道の道路に関して「まっすぐな道路のミステリー」を挙げています。
道内をドライブしていると、まっすぐな直線道路をしょっちゅう走ることが多いものです。その理由は、歴史的な経緯さえなければ道路はまっすぐに作るのが一番安上がりだということ。
ところがこの直線道路が、しばしば遠くの山の山頂を目指して作られていることが多いのだと言います。
なぜだろう?
そのことを調べ始めると道内には山にぶつかる道路が40本以上もあることがわかったのだそう。それも大きな山だけではなく、地域にある小さな山にまで向かう道路が多いのだ、とも。
この章の著者は、調べてゆくうちに「どうやらこれは当時の測量技術に関係があるらしい」という考えにたどり着きます。
考えてみると、うっそうたる原生林に覆われた北海道で、まず道をつけるために測量をしようと思うと、山を基準にいた測量を行って、そこに道を計画するのが一番合理的だったのでしょう。
そういう視点でさらにみてみると、運河や排水路、人工河川や鉄道にまでそうした直線が含まれているのだそう。
そうした道路を実際に走ってみると遠くの山の頂は、直線を遠くまでどこまでも見てゆくと、ある一点に収束する「ビスタ」という手法そのものであることに気が付きます。
筆者はこれを、「まるで大地に彫刻をしたかのようなこの大きなスケールの『絵になる風景』は『百年前の土木技術者からの贈り物』というべきだ。これから作る道路では求め得ない機構な土木遺産であり、磨けば光る北海道特有の景観資源だ」と述べます。
私もまっすぐな道路だと思ったことは何度もありますが、その先が山の頂を目指していたかどうかは記憶にありません。これからは改めて視野を広げて道内をドライブして、その景観の資源性を探ってみたいものです。
土木技術のプロが見ると世の中はこう見えるという、視野を広げてくれる一冊に仕上がっています。
「エンジニアの野外手帳」というタイトルも良いですね。
ぜひ本屋さんで一度手にしてみてください。今までとは違った北海道が見えてきます。
こちらの訴えたいポイントを的確に押さえたご紹介に敬服しました。
本書はドーコン叢書①とあるように、第二弾も作成の予定でおりますが、このように取り上げていただき、次回作への意欲も高まります。
本当にありがとうございます。
多くの方にこの紹介文を読んでいただければと思います。当社のHPにリンクを張らせていただいてもよろしいでしょうか? 厚かましいお願いですが、許可をいただけますと幸いです。よろしくお願い申し上げます。。
HPで拙文をご紹介したいというお申し出ですが、こんな文章でよろしければどうぞリンクを貼ってください。読み返してみるとあまり文章として練られていないので却って恐縮です。機会を見てリライトしておきます。
それでは、今後とも良書を世の中に出されますようご期待申し上げます。