いつもの床屋さんで、人生を語り合いました。
この床屋さん、まだ30代前半と若いのですが心根が立派な青年で、いつも感心させられるのです。
こちらの床屋さんはかくいう青年が経営者で、普段はもう二人と仕事をしているのですが、一人の姿が見当たりません。
「あれ?今日はKさんはどうしたの?」
「今日は、うちの営業分野の一つで、散髪の派遣事業に行っているんです」
「へえー、どこかの施設か何かへ出かけて髪を切ってあげるんだ」
「ええ、今日は病院なんです。うちのお馴染みさんが入院してしまって、もうこちらのお店には来られない状態なのです。そうしたらその方が看護師さんに、『馴染みの床屋さんに来てもらって髪を切りたんだけどどうかな』と相談してくださって、それで行かせてもらっているんです」
「よく病院が許可しましたね」
「ええ、最初は向こうも認めたものの、(どんな手際でやってくれるんだ)みたいな感じだったと思うんです。でも僕らって、以前に福祉施設で出張散髪をした経験があるので、最初からブルーシートを持って行くとか、病院の中を汚さないように気を遣いました。そうしたら、それが良かったらしくて看護師さんが、『床屋さんが来てますよ』と宣伝してくれるようになって、お客さんが増えちゃいました」
彼の話を聞いていると、ただお金のために髪を切るというのではなく、散髪を通じて企業として成功しつつ社会に貢献したいという気持ちが伝わってくるのです。
今の理容業を俯瞰すると、お客さんが減っていて、それに伴ってお店を構える理容業はどんどん縮小しているのだそう。
その結果、お店で修行するという床屋さんが減って、募集に応募して横のつながりの中で仕事をするという職人が増えているのだと。
「そういう状況なので、親方について鍛えられるという経験が少なくなって、人としての成長とか育成ということが疎かになっていると思うんです」
「なにか自分の人生の目標ってあるんですか?」
「最初は、とにかく経営者になろう、自分の店をもって自分の思うような店の運営をしたい、と思いました。でもそれが、実際やってみると、人の育成が大事だな、と思うようになりましたし、今では理容業が社会の役に立つということを追求したいな、と思ったりしています」
市場が少なくなるから儲からない業態だ、などと知った風なことを言ってビジネスの行く先を暗く思うのではなく、自分のビジネスでお客さんに喜んでもらう、ということに使命感を感じている姿がとても爽やかに映りました。
経済をマクロな見方でとらえずに、自分の努力でなんとかなるととらえる見方が立派です。
とても勉強になりました。床屋談義も馬鹿にできませんねえ。