『ライフ・シフト(Life Shift)~百年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著 東洋経済新報社)を読みました。
著者のリンダ・グラットンは、ロンドンビジネススクールの教授で、人材論・組織論に関して今最も活躍している学者の一人です。
この本の問いかけの主旨を一言でいうと、人間が高齢化、つまり長寿化し長寿社会になっているという事実を踏まえ、ではどういう生き方をしなくてはいけないか、ということ。
今の我々の社会は、20世紀になってから私たちの寿命をもとに、人生を三つのステージに分ける考え方が定着しました。
①学業のステージ ②仕事のステージ ③引退のステージ という三つです。
ところが21世紀を迎えて、日本では少子高齢化が進んでいることが叫ばれるようになって、少子化によって人口減少や年金を支える世代の人口不足が問題視されるようになりました。
少子化への対応はもちろん必要ですが、もう一つの社会変化、すなわち高齢化の問題も捨ててはおけません。
医療の進歩や衛生状態、栄養状態の改善によって、人々がなかなか死なない社会になりました。そのため、寿命が70歳程度だった時に適していた三ステージの社会制度では、寿命が80歳になった今日に対応しきれず、しかも今後我々の半数はおそらく百歳まで生きる時代になると予想されるのです。
そうなると現代のような三ステージの社会制度も、我々自身の人生に対する考え方も変えなくてはならないのは当然です。さて、一体どうしたらよいでしょう?
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考えなくてはならないポイントはいくつかあります。
一つには寿命が延びたことで、引退後の生活時間が長くなり、仕事のステージで稼いで貯めた資金では引退後の長い時間を暮らしていけないという問題。かつては60歳で引退して70歳で寿命が尽きてしまう社会であれば、40年稼いで貯めたお金で10年暮らせばよかった。
しかし人生が百歳の時代になれば、引退後30~40年暮らすには現役の時に相当な割合を貯金に回さねばならず、そうでなければ70~80歳まで働くというように社会制度を変革させていかなくてはなりません。
二つ目には、一つのスキルを身に着けていればまあ40年という現役世代を生きていけた時代から、労働年数がこれまでよりも長くなりかつイノベーションが激しくなるこれからの時代、人生の仕事のステージの間に『学び直し』をして、職業を変えられる自分になっていなくてはならない時代になるのではないか、ということ。
単に20代中盤まで学べば、あとは仕事、という時代ではなく、仕事をしながらも新しいスキルや資格を学び取り、次に来る時代でも求められる人材になり続けなくてはならないのではないか、という問題意識。
一つの会社や職能で稼いで暮らしてゆく人生ではなく、職場も仕事の内容もステージが変化するようなマルチステージの人生を想定しなくてはならないだろうという予測です。
三つ目には、高齢化と言うのは決して暗い時代が長く続くネガティブなイメージではなく、「健康寿命が延びる」ということ、つまり何かをする時間は結構豊富にあるのであり、死ぬまでの長い時間をどのように生きるか、という生き方が問われるようになるということ。
ここで大切になるのが、貯金や財産のような『見える財産』だけではなく、家族や友達、スキル、信頼といった『見えない財産』を持たなくしては、金銭面での成功もできません。
四つ目には、とはいえ、『見えない財産』だけでなく、『見える財産』である自分の金融資産も必要な額を見極めて、堅実に運用するような金融リテラシーも意識をしスキルを獲得しておいた方が良いという事。
五つ目には、これらのことをこなそうと思うと、仕事中毒な人生を過ごしてしまって、引退以後は友達もおらずできる趣味もなく、濡れ落ち葉とさげすまれかねない生き方は止めようということ。
強い気持ちをもって、目的的な暮らし方を自分で選択しなくてはならないということ。
そうなると趣味といっても、単に時間を潰すだけのものではなく、自分を変化させ、自分のアイデンティティを変え、新しいライフスタイルを築くための有用な時間として過ごすべきです。
レクリエーションで過ごすのではなく、リ・クリエーション(=再創造)のための過ごし方を選択しなくてはなりません。
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世の中が一斉行進で進む時代ではなくなって、あなた個人のオリジナリティが問われるようになる。みんなと同じ生き方では、しかもそのオリジナリティすら、勉強と生涯学習によって変化をさせる必要があるかもしれません。
社会の変化に柔軟に対応できるような、柔らかい考え方と様々なことができるマルチなスキルを持っておいた方がなお良い。
健康の保持も重要な要素になります。若いときの無理が長寿を妨げるようなことはない方が良い。
今60歳を目の前にする【私】にとって、百年ライフのこれからはいかにあるべきか。
今30歳の子供たちの世代に対して【私】は何をすることになるのでしょう。
『Life Shift』
この本は、誰かのための本ではなく、【私】のための本でした。
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…とまあ、実際興味深い本ではありましたが、こころのどこかで(なんとなく僕自身既にこれに近い生き方を実践しているのじゃないかな)と思うところがありました。
それはつまり、生涯学習的生き方の実践ということ。
人生百年時代を誰かの高齢者問題などととらえずに、我が事して考え、自分の生き方を考え、実践する。それが生涯学習的人生、生涯学習的生き方です。
生涯学習が提唱されてから四十年。ようやくこういう本が世界を舞台に登場したか、という感慨深いものがあります。
これからの自分自身の人生のあり方を考えることの背中を押してくれる本ですよ。
『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 』 楽天ブックス