駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『阿弖流為』

2017年07月17日 | 観劇記/タイトルあ行
 シアタードラマシティ、2017年7月16日16時。

 8世紀。東北の権益を求める貴族たちは、朝廷の支配を広げるため、蝦夷征伐に取り掛かっていた。ある夜、朝廷に与する蝦夷、伊治城主・伊治公鮮麻呂(壱城あずさ)は蝦夷の長たちを集め、自らの命と引き換えに参議・紀広純(輝咲玲央)の首を取る計画を打ち明ける。それを聞く長の息子たちの中に、ひときわ逞しい若者がいた。彼こそ胆沢の長の息子・阿弖流為(礼真琴)である。鮮麻呂の遺志を継いだ阿弖流為は、ある日、黒石の長の跡継ぎ・母礼(綾凰華)と、嫁いだ里を朝廷の兵に焼かれた母礼の妹・佳奈(有沙瞳)に出会うが…
 脚本・演出/大野拓史、作曲・編曲/高橋恵、玉麻尚一、振付/峰さを理、平澤智。吉川英治文学賞受賞作である高橋克彦の小説『火怨』を原作にしたミュージカル。礼真琴待望の東上公演つき主演作。全2幕。

 事前に原作小説を読む暇が取れなくて、一応坂上田村麻呂(瀬央ゆりあ)との史実なんかも知っていたつもりではいたので、開演前にプログラムの人物紹介も読んだしなんとかいけるかな、と思っていたのですが、やはりさすが拓G作品は手ごわく、情報量ギュウギュウでガンガン話が進むので脳内補完に忙しく、予習してきた方が観易かっただろうな、と我が身の不明を恥じました。
 逆に言えば、もうちょっと整理してわかりやすく芝居を進める親切さはあってもいいと思いましたし、特に田村麻呂の描き方は未整理でもったいない気がしました。私がせおっちにNO興味だから、というのはあるにせよ、キャラクターとしては絶対にもっと好きなタイプなはずなんだよなー。だからもっと萌え萌えで見たかったです。
 蝦夷を都人たちと同じ人間とみなさず、自らの政争の手段としてしか考えていない貴族たちと違って、父の赴任について北の地で暮らしたこともあるという田村麻呂には蝦夷への偏見がなく、そのおおらかさやまっすぐさに好感を抱いていて同じ人間としてきちんと向き合いたいと思っているし、一方的に攻め滅ぼすのではなく共存できたほうがお上のため、世のためになるのではないかと考えている、広い視野と優しい心を持った賢い青年武官です。そのあたりがもっとクリアに描けていると、阿弖流為との友情や信頼、その後のせつなくしんどい展開…がもっと効いてきたかと思います。
 阿弖流為たち蝦夷もそういう相手には意固地になりすぎずに心を開くわけで、別に彼らは蛮族でも好戦的でもなんでもない、ただ同じ人間として正当に認められ扱われたい、人として誇りを持って生きていきたいということだけを願っているごくシンプルな人々なのでした。なのに欲や権力にまみれてきちんと向き合わない人間がいるから、悲劇が起きる。これはそんな話です。
 お話としてはわりとシンプルで、だからこそ阿弖流為と仲間たちとのドラマや阿弖流為と田村麻呂のドラマが中心になる、なんというかとても星組っぽいヒーローものというか主役ありきの物語になっていて、こういうのが星組は本当に似合うし上手いな、と組ファンでなくても観ていて気持ちが良く、胸が熱くなりました。熱くてすがすがしくて爽快感がありました。「星を継ぐ者」はこうでなくちゃね、とセンターで輝くまこっちゃんを頼もしく見つめたのでした。
 『かもめ』は私は嫌いではなかったけれどまこっちゃんのスター度を上げる作品になっていたかというと微妙かなと思ったし、『鈴蘭』は作家のデビュー作ということを考えるにしても出来の良くない作品だと私は思っているので、なんでもできてどこに出しても恥ずかしくない実力の持ち主のスター・まこっちゃんにふさわしい主演作がやっと来たねよかったね、ととにかく感動したのでした。
 ただ、映像の使い方は私は感心しませんでした。地名や人名の表記を出してあげるのは親切かなとも思いましたが、背景や心理描写の効果を頼りすぎるのは舞台作品として負けなのではないかと思うし、役者の画像を出すのは絶対にやめていただきたかったです。なら映像でいいじゃん、映画でいいじゃんってなっちゃいますよ。そこに生身の役者がいるのに、それを生で観るのが舞台なのに、大写しにされたらそっちに目が行っちゃうでしょう? それは悲しいことだし容認しがたいな、と私は感じました。

 というわけでまこっちゃん、鮮やかなスターっぷりですヒーローっぷりです。ちょっと不器用なところもあるけれど最終的にはみんなが仲間になってくれるのがよくわかる、ザッツ・リーダー、ザッツ・ヒーローなキャラクターが持ち味にぴったりで、それをただニンでやっているんでなくてちゃんと芝居として見せてくれていました。歌もダンスももちろん素晴らしく、不安なところがひとつもない、素晴らしい主役ぶりでした。大きく見えるしね。
 ヒロインのくらっちとの映りも良くて、お似合いだわ耳福だわで、いいカップルでした。佳奈のキャラクターも良かったなあ。男勝りで復讐に燃える…とかではなくて、最初から「里を再建したい」と言っているのがいいんですよね。男たちとは違う戦い方、違う仕事をしようとしている女。とても自然で、しなやかに強く美しく、ただ庇護されるだけの存在なんかではなくて、ちゃんと並び立ち、輝いていました。素晴らしい。
 飛良手(天華えま)は実は私は阿弖流為との最初のやりとりのあたりがよく理解できなくて、キャラクターとしてもちょっと捉えづらかったのですが、びーすけ自体は本当に明るいおおらかなオーラがあっていいスターさんになってきましたよね。多くを語らずとも常にそばにいる心強い腹心、というのがぴったりでした。
 でも私の萌えは圧倒的に母礼でした…! あやなが好きで参謀タイプのキャラクターが大好きなんだから当然ですよね、もう登場から麗しくて血圧上がりました。紫のキーカラーが似合うこと美しいこと! お衣装によっては線が細く見えすぎることを私はいつも心配しているのですが、今回はよかったなあ。そして長身で顔が小さいスタイルの良さが際立っていました。ノーブルでクレバーで優しそうなニンがよく生かされていて、すごくよかったです。ポジションとしておいしい役だったということもあるし、組替え前の餞めいた意味もあったかもしれませんが、それをきちんと大きく華のある役に見せたのは中の人の力だと思います。存在感とオーラ、ハンパなかった! 何より似合っていた。シビれました。スチールが出なかったのは本当に残念です。
 それからいーちゃんの諸紋(音咲いつき)がまたよかったなあぁ…! これまた私がいーちゃんがわりと好きっていうのと、キャラクターのポジションとして好みだしドラマがあったというのもありますが、転向前の大きなお役に感動しました。もったいない気もするけれど、きっと娘役になってもめっちゃ上手いんだろうなあ…! 期待しています。
 ひーろーはこういう役をやらせると本当にきっちり上手いし、天飛くんの達者さには度肝を抜かれました。
 そしてしーらんね! ホント仰天したね!! 実は私は彼女にはこれまであまり興味がなくて(『太陽王』なんかは上手いなと思ったし好きだったんですけれど)、『オーム』とかで老け役に回されているのとかを見るとちょっとこの先どうするの何やるの?とか思っていたくらいだったんですけれど、こういうポジションの役をこういうふうにやってみせるとは全然思っていなくて、素晴らしいなと感動したのでした。
 オレキザキとか夏樹れいちゃんとかかなえちゃんとかがまたきっちりいい仕事をしているのも頼もしいし、柚長が男役に回ってきっちり仕事しているのも頼もしい。そしていつでも本当に素晴らしい俺たちのはるこが今回も本当にたおやかで美しくいいポイントになっていて、素晴らしかったです。そしてあんるちゃんがまたこういう役が本当に上手い。でもはるこもあんるもフィナーレではニコニコ笑ってバリバリ踊っていて、本当に気が晴れましたし嬉しくなりました。
 桃堂くんも天路くんもホント上手いし手堅いし、今回は初めて台詞を言ったような下級生だっていたと思うんだけどみんなしっかり声が出ていて台詞ができていたのにも感心しました。
 そしてじゅりちゃんね、ホントに上手いよね泣かされましたよねうちに来てくれるの嬉しいわ!!
 来週には『オーム』も観てきますが、あちらはこういうふうには役がないミュージカルなので、芝居ができる子はみんなこちらに集めたのかもしれませんね。でもあちらも楽しみです。

 フィナーレがまたカッコよかったなあ…てかあやなの扱いにはホント仰天したし声出たし震えたわ私もう本気でファンだわ。千秋楽にはご挨拶があるのでしょうか…組替え後も楽しみです。
 お芝居のお衣装のままのデュエダンも、踊りにくかったかもしれませんが息が合っていてとてもよかったです。せおっちパートとかも嫌いじゃない、いいと思いました(笑)。

 現代にも通じるような人種差別とか民族差別とか、内乱・内戦・紛争の物語でもあり、人が自分と相手をともに尊重し愛と敬意をもってつきあっていくことの大切さと難しさを訴える部分もあり、この先さらに進化して、単なる熱血漢冒険譚でもお涙ちょうだいの人情悲劇でもない作品に仕上がるのではないかなと思っています。通う人は楽しいだろうなあ、いいことです。私は早めに観られて、新鮮でよかったです。楽しい観劇になりました。


 

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