駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『君が人生の時』

2017年06月17日 | 観劇記/タイトルか行
 新国立劇場、2017年6月14日18時半。

 1939年10月のある日の昼下がり、サンフランシスコの波止場のはずれにある、ショーを見せるニック(丸山智己)の酒場。ピアノの名人、ダンサー、港湾労働者、哲学者、警察官、娼婦…さまざまな事情を抱えた客たちがやって来ては去っていく。ジョー(坂本昌行)はいつからかこの店にやってきて、毎日朝から晩までシャンパンを飲んで過ごす不思議な男だった。ジョーの弟分となったトム(橋本淳)は、客のひとりで自称女優の魅惑的な女性キティ(野々すみ花)に恋をしているが、想いを打ち明けられず…
 作/ウィリアム・サローヤン、翻訳/浦辺千鶴、演出/宮田慶子。1939年初演、ピュリツァー賞を与えられるも辞退。

 サローヤンは、私は名前だけは知っていて読んだことはない作家で、スミカ目当てで出かけてまいりました。
 一幕は、私は退屈しました。第二次世界大戦開戦直前のアメリカ合衆国の西海岸の空気や、そこで暮らすアイルランド、ポーランド、アラブ、アッシリア、ギリシャ、イタリア、イングランドなどなどからの移民たちの暮らしや生き様を表すべく、日常的なやりとりを言うなればだらだらと見せる構造になっていて、私にはそれらを正しく読み取れている自信がなくて、不安だったし退屈したのでした。ストーリーがないタイプの、このまま最後まで淡々と終わる群像劇だったらどうしよう、スミカの出番はアタマしかないし…とちょっと呆然となっちゃいましたよ。
 でも、二幕になったらちゃんとお話があったのでした。というかそのための前半の日常の積み重ねの描写だったのでした。そしてスミカはまごうことなき物語のヒロインでした。それは主人公であるジョーの恋の相手ということではありません、でも彼と彼女を中心に戯曲はクライマックスを迎えたのでした。
 以下ネタバレで語ります。
 キティは女優だと言い、かつてはバーレスクで踊って全米を公演して回り、ファンにはやんごとない方々も大勢いたと言います。生まれは田舎に大きな農場と邸宅を持つ名家だったとも。でも今は安宿に暮らし部屋で客を取る娼婦です。トムはそれでも彼女を愛しています。
 ジョーは三つ揃いを着た紳士で、本当ならこんな安酒場に来るような身分ではなく、なのにメニューにないシャンパンをニックに仕入れさせてまでこの酒場に入り浸り、ただ酒を飲み新聞を読みトムを使い走りにして日々を送っています。遺産なのか株か何かなのか、どうやら使い切れないほどのお金を持っているらしく、そのお金を使いあぐねてもいます。それで、トムにほだされたりキティが泣くのを止めたかったりそれとも単になんとなく気まぐれだったりで、キティの住まいを安宿から上流の紳士淑女も集うちゃんとしたホテルの一室に移させ、服から何からすべて買い与え変えさせます。
 だからスミカは、一幕の長いくしゃくしゃした髪と派手な花柄のワンピース姿から一転して、二幕後半では結い上げた髪に小粋な帽子を乗せた清楚なツーピース姿で現れます。そのどちらも美しくちゃんと似合うのが素晴らしい。そしてどちらのときも居心地悪そうな演技がちゃんとできていて素晴らしい。
 高級ホテルの暮らしにおちつけず、結局ニックの酒場に来てしまうキティ。そこに、いわゆる悪徳警官であるブリック(下総源太郎)が現れて、キティをねちねちといたぶります。そしてまさかの『グラホ』展開…! ブリックはキティに舞台に上がるよう強要し、踊れと指示し、服を脱げと命令するのです。
 激昂したジョーは拳銃を手にしますが、安物だったのか弾は出ませんでした。カーソン(木場勝己)が上物だとほめていたのは、単なるおべんちゃらだったのでしょうか。それとも拳銃なんか扱い慣れていないジョーが撃鉄を上げ忘れていたのでしょうか。ともあれジョーはブリックを殺せませんでした。
 そして銃が暴発してジョーが死ぬとか、撃鉄を上げ忘れていたことに気づいて今度はちゃんと撃てるようになったジョーがそれで自死するとかの私が恐れた展開もまたありませんでした。ブリックを殺したのはカーソンでしたが、彼の罪が問われることはないでしょう。それはもちろん正しくないことなのかもしれません、でもブリックがキティにしたこともまた正しくなかった。彼が町の人々にずっとずっとしてきたことは本当に正しくないことで、だからその死は仕方がないとは言えないまでも、町のみんなが真相に対し口をつぐみ誰も彼の死を悼まないのは仕方のないことでしょう。
 正義がきちんと存在しづらいこの世の中で、先なんか全然わからないけれど、キティはトムと旅立ちました。そしてジョーもまたニックの店から出ていきました。また別の酒場で飲んで暮らす日々を過ごすのかもしれないし、やっとお金の正しい使い方や今までとは違う生き方を見つけるのかもしれません。それはわからない、でも確かに変化は起きた。そのささやかな奇跡…それを描いた物語だったのかな、と思いました。

 スミカに取っていただいたお席でラインナップがスミカの真正面で、とても嬉しかったです。いい女優さんだなあ、この先も楽しみです!




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