駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『エレクトラ』

2017年04月19日 | 観劇記/タイトルあ行
 世田谷パブリックシアター、2017年4月17日19時。

 戦禍渦巻く中、ギリシアの地アルゴスの王アガメムノン(麿赤兒)は自分の長女イピゲネイア(中嶋朋子)を生贄に差し出すことでトロイアとの戦争を終結に導く。帰国したアガメムノンは妻クリュタイメストラ(白石加代子)とその情夫アイギストス(横田英司)によって暗殺される。アガメムノンの次女エレクトラ(高畑充希)は父の死や弟オレステス(村上虹郎)の不在を嘆きながら、母と情夫への復讐を胸にひどい暮らしをしている。エレクトラの妹クリュソテミス(仁村紗和)は姉を説得しようとするが…
 原作/アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデス、上演台本/笹部博司、演出/鵜山仁、作曲・演奏/芳垣安洋、高良久美子。りゅーとぴあプロデュース公演第2弾。全2幕。

 何度か書いていますが私はギリシア神話というかトロイア戦争オタクで、このあたりのネタが大好きなので(たとえばこちらとか)いそいそと出かけてきました。
 とてもおもしろかったです。まったく退屈しませんでした。古典劇となると変に詩的で意味不明瞭な台詞が連なることもままあるものですが、今回の台本はそういうことはなかったし、それでも長く饒舌で膨大な台詞を七人の役者が類まれなる力量と集中力で明晰に感情豊かにしゃべり、飽きさせず芝居に集中させてくれました。
 高畑充希はいい女優さんですね。声がいいし、集中力が素晴らしい。歌もいいミュージカル女優さんでもありますが、こんな芝居のタイトルロールができるんだからたいしたものです。ウザ可愛い主人公をチャーミングにまた苛烈に演じきっていました。
 仁村紗和はこれが初舞台だそうですが、とてもよかったです。この人が一番まともなキャラクターなんだけれど、だからこそ後半出てこなくなっちゃうんですよね。ひどいなギリシア悲劇!(笑)
 二幕からの登場となる中嶋朋子もさすがでした。彼女たち姉妹からするとオレステスの村上くんにはもう一息アクがあってもよかったと思うけれど、これは女の物語として描いているようなところもあるんだろうから、これはこれでいいのかな。
 その意味ではアイギストス、アガメムノンの存在感のなさも同様ですね。ふたりとも他の役の方が出番が多いというか舞台にいる時間が長いくらいでした。でもそういうのもいい。
 そして白石加代子が圧巻となりすぎていなかったこともよかったと思いました。やはりタイトルロールはエレクトラですしね。クリュタイムストラはもちろんヒロインに足る魅力的で豊かな女性キャラクターだなと改めて思わされましたが、今回はやはりヒロインの母親であり父の仇、というポジションをきちんと務めていてとてもよかったです。あともちろんアテナ役ね! てかアポロンとかまで出てきちゃうの、いいよねギリシア悲劇! もちろんもっと神と人との距離が近かった時代の物語だからかもしれないし、神様が出てきてバン!と裁定して話にケリをつけるというのは乱暴ですがなかなか爽快でもありました。
 そしてオチは意外と単純なんですよね。父を愛し母を憎んだ娘に、人の妻となり母となる未来が提示され、愛と憎しみは表裏一体で不可分であること、だから許せ、愛せ、未来の命に希望を託せ…と神に命じられて人もそれに応えようとし、そうして幕は静かに降りるのでした。
 クリュタイメストラはアイギストスとの間に子供もなしていたようだし、そこがまたオレステスたちに復讐したら本当に連鎖は避けられないわけです。だからどこかで止めるしかない。その勇気を持てるかどうかが勝負なのです。
 2500年も前にそんな真実が書かれ、しかし人類は残念ながら未だその域に到達できていないようです。世界は争いに満ち、愛は足りていないように思えます。しかしだからこそ戯曲は繰り返し上演され、人は劇場に詣でるのでしょう。神の託宣を聞くかのように。それで少しでも前進できると信じて。その助けになると信じて戯曲もまた上演される。そんな美しい営みに想いをはせたりも、したことでした。



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