EAST ARTな日々

えっちらおっちら綴ります。

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ワルツ〜片足人形のロイ

2017-06-22 16:39:55 | 小噺



朝です。
美しい陽の光は丘を照らし 木々を照らし、花を照らします。
さざめく風は昨日の悲しみを丘の彼方へ吹き飛ばしてくれます。

丘の外れには、ぽつねんと佇む 小さな小屋。
壊れた古時計と、アンティークな彫刻が、
埃をかぶって置いてあります。
彫刻師をやっていた老人の家なのですが、今では人影など一切ありません。
窓際に、青い眼をした、道化のマリオネットのロイが窓の外をじっと見つめていました。
「はあ。外に出たい。昔のように、
この暖かい草原を駆け回りたい。
森のみんなを、道化のサーカスで
笑顔に出来たらどんなに幸せだろうか
月明かりの下 大好きなワルツを踊れたら
どんなに幸せだろうか」
ロイはもう3年間もこうして窓の外を見つめています。
「この足さえ直ってくれれば…」
ロイの足には木目に逆らった亀裂が入り、今にも取れてしまいそうです。
そんなロイの唯一の楽しみといえば、
窓際に飛んで来る 青い小鳥のジェニファーとお喋りをする事です。
この日も小さな木の実を咥えてジェニファーはやってきました。
「ロイ おはよう よく眠れた?」
「ジェニファー!今日も来てくれたんだね!ありがとう。さあ!いつものようにお話を聞かせてくれ!」
「いいわ!森の音楽会のお話をしましょう!この日は朝から大忙し!私は
隣の森まで招待状を届けに行ったの。」

この瞬間だけは足の事を忘れる事ができます。物語は、何処へでも連れて行ってくれるのです。
ロイは、ジェニファーのお話をうっとりと聞いています。しかし、お話が終わるとまたいつもの小屋の窓辺
ロイは自分の足を見つめると また、
「はあ」
と、ため息を吐きました。
「ロイ、そんな悲しい顔をしないで?
きっとまた外に出れるわ」
「そうだよね!そうだよね!」
ロイは笑いました。
でも、本当はもう道化や、ワルツはおろか、このままでは満足に歩く事すら出来ないんだと、諦めていたのです。

夜、月明かりが小さな小屋を照らします
静まり返った丘には 風の音がいつもより大きく聞こえ、森ではうるーう うるーうと鳴き声が響いてます。
遠くでは、薄暗い影がゆっくりと空を覆っていました。
ロイは月明かりに照らされながら
スヤスヤと眠っています。
そんな夢の中で…

丘の上でロイは飛び跳ねていました。
「みんな!みんな!歩ける様になったよ!星さん!ごらん!僕の足だ!
こんな事だって出来るぞ!ヤーレッホ!」
ロイは上手に逆立ちをしました。
「どんなもんだい!まった、これじゃあ
足使ってないや。」
星空はキラキラと光の拍手を贈ります。
「月明かりをスポットに僕は夜風とワルツを踊ろう
フクロウの歌声と共に道化のサーカスを届けよう」
月も風も星空も皆、ロイに笑いかけます。
丘や草木がロイの一人芝居のアンサンブルになり、美しい舞台を作りました。
ロイは大きく手を広げ歌をうたいます。

ゆらゆらぱっぱ ゆらぱっぱ
未来が示す 一輪の花
愛に溢れ凛と咲く
道化と言う名の一輪花

ゆらゆらぱっぱ ゆらぱっぱ
マリオネットのリーディング
クラリネットのミュージカル
道化の涙は一輪花

ゆらゆらぱっぱ ゆらぱっぱ
道化の涙は笑いの雫
最後は必ず笑顔になるさ
道化の笑顔は一輪花

「はぁ、星空はこんなにも美しい
あの星に向かって手を伸ばそう」
ロイは、ぐーっと背伸びをします。
足がプルプルと震えると
突然足元に亀裂が走り、
地割れの間に落ちて行ってしまいました。
「わー!!助けてくれー!」
星空は雨粒に変わりロイにめがけて降り注ぎ、
風は嵐へと変わり丘の野花をまくしたてます
ついにロイは地割れた暗闇に落ちて行ってしまいました。

ゴツン

ロイが目を覚ますと、
窓辺から部屋の地べたに落ちていました。
いつもと違う冷たさがロイの心も冷やしていきます。
夜空には月の光がありません
窓は風でギッタンバッタンと音を立て開いたり閉じたりしています
そこに強い雨が部屋いっぱいに降り注いでいました。
真夜中に起きた嵐は 小さな小屋を
これでもかと、痛めつけます。
びしょ濡れになったロイはゆっくりと
雨の当たらない部屋の隅へ動こうとしました。
ところが、
「あれ?僕の足が無い…」
そうです。窓辺から落ちた衝撃で、
足の亀裂はすっかりと割れてしまい。
ロイは 片足を 失いました。
雨水に濡れたロイの足
湿った木のカケラは無残な姿です。
もう、本当に歩く事が出来ません。
「どうして僕ばかり…」
涙の出ないマリオネットのロイ
顔を濡らす雨水は涙の代弁者のようでした。


朝です。
薄暗い雲は太陽を覆い
パラパラと雨を降らせます。
森の動物たちもじっと木陰に身を寄せ合います。
「 なんてこった。もう3日も雨が降り続けている」
「いつになったら雨はやむのかな」
「僕もお外で元気に遊びたいよ」
小動物達は口々に言葉を洩らします。
雲は一向に空から どこうとはしません。
雨が止んだかと思えば、
冷たい風が強く吹き、
風が止んだかと思えば、また雨が降る
この丘にも梅雨がやってきたのです。
ジェニファーは、ロイの事が心配でたまりませんでした。
「ロイはどうしているかしら、こんなにも雨が降っては、小屋に行くことはおろか、
空も飛べやしないわ」
ジェニファーは空を見上げました。
そのころロイも同じように小屋の中で空をじっと見上げていました。
すると、小屋の外から人の足音が聞こえてきました。

コンコンッ

静かに扉を開けます。
杖を持った、若い紳士風の男の人が部屋の中に入ってきました
「ごめんください、旅の者です。雨宿りをさせてください。」
もちろん返事はありません。
「誰も、いないのかな」
男は部屋の奥までゆっくりと入っていきます。

コツン ギシッ コツン ギシッ コツン ギシッ

足音にはスレた軋む音が混じっています
部屋の奥の腰掛けに座ると、
ゆっくりと自分の右足の裾をまくりました。
その光景を見つめていたロイは、
思わず言葉を飲み込みました。
男の右足は、膝から下が
木で出来ていたのです。
男はゆっくり木の足を取り外すと
布切れで染み込んだ雨水を、丹念に拭き取ります。
「雨の日はあんまり遠くへは行けないな
でも、良いさ、ゆっくり旅が出来れば」

ロイは不思議に思いました。
片足が無いのに、男は、ずっと微笑んでいるのです。
「おかしいな、おかしいな
なんであんなに楽しそうなのかな」

男は部屋の隅にぽつねんと座っている
マリオネットのロイに気がつきました。
「あんな所に美しい道化のマリオネットが、
いるじゃないか」
男は片足で立ち上がると、
杖を手に部屋の隅までやってきて、
ロイを拾い上げました。
「おやおや、この人形は、僕と同じで
片足が無いじゃないか」
男は腰掛けイスに座り、ロイに語りかけました。
「僕も足は一本しかない。
でも、決して不幸だとは思わないよ」
ロイは黙って男の話に耳を傾けました。
「僕は、今1人で世界を回って行く先々で
軽業師をやっているんだ。
いつかは大きなサーカス一座を立ち上げるんだ!そして、世界中で旅公演をするのさ!
だから、ほら片足で歩くなんてな、
お手の物だ!」
男は片足で立ち上がると、
片足だけで美しく飛び跳ね、
ロイが夢で見ていたあの逆立ちをいとも簡単にこなしました。
「ははっ 人形に話しかけても返事はないか、
でも、不思議だ、この人形はまるで生きている目をしている、悲しみも喜びも感じた事のある目をしている。…美しいな」
ロイの目から涙が溢れました。
雨水ではなく、キラリと光る一筋の涙です
「これは驚いた!」
男は目をこすりました、しかし、
もう一度見たとき涙はありませんでした。
「どうやら光の錯覚だったようだ。」
男は人形を置くと、部屋の隅で丸まって寝てしまいました。



「僕も、あの男の人のように、片足でも美しく飛び回りたい
こんな片足のクラリネットの僕でも出来るかな」
そう願うと ロイも静かに眠りにつきました。

翌日の事でした。
シトシトと雨が降り続けています
小屋には、男の姿はありませんでした。
朝早くに荷物をまとめてま旅へ出かけていったのです。
ロイは男の姿を見送ると、
よし!っと立ち上がって
あの男のように歩く練習を始めました。

丘の森では小動物達が空を見上げ、
青い空を待ちわびています
「ロイ…」
ジェニファーの心配もやむ事はありませんでした
小屋のある方を見つめては
あっちへ うろちょろ、
こっちへ うろちょろ
「ジェニファー、少しは落ち着いたらどうだい?」
他の小鳥が怪訝そうに言いました
「でも、もう4日間も顔を見合わせてないわ。雨も少し弱まったし、私行ってみる」
「馬鹿な事を言うんじゃない!こんな雨の中空を飛んだら大怪我するぞ!
悪い事は言わないから、雨が止むまで待つんだ!」
しかし、ジェニファーは、聞き入れませんでした。翼を高く広げると、小屋に向かって
一目散に飛んで行ってしまいました。
雨がジェニファーに向かって叩きつけます
なんどもユロヨロと風に飛ばされては、
力いっぱい翼を羽ばたかせ、
丘の空を飛んでいきます。

小さな小屋が見えました。
最後の力を振り絞り小屋をめがけて飛んでいきます。
ジェニファーは小屋の窓辺にとまると、
その場で倒れこんでしまいました。
霞む視線のその先には、
片足で何度も立ち上がっては、転び
また立ち上がっては転び、
ゆっくりながらも歩こうとするロイの姿を見たのです
「ロイ…」
あの男が居なくなってから、
ロイは、自分にも片足で歩く事が出来るんだ、
飛んだり跳ねたりして、またあの草原の上で美しく駆け回る事が出来るんだ
と強く願い
必死に歩き続けて居たのです。
ジェニファーは、何も言わずにその姿をじっと見つめて居ました。
そして時折翼を高く広げては
「頑張って」と声をかけます。
そんなジェニファーの声にも気づかず、
ロイは、必死にユロヨロ歩いてはゴロン
また、ユロヨロ歩いてはゴロンと、
転びながらも少しずつ歩き続けていました。

もうどれほどの時間ロイは歩き続けていたのかわかりません。
日はすっかり沈んでいます、
とうとうロイはその場で倒れこんでしまいました
ジェニファーがすかさずロイの元へ駆け下ります。
「ロイ」
「ジェニファー、来てくれたんだね」
「ずっといたわよ、こんなになって、
あなた、もう一本の足は?
一体どうしたって言うのよ」
「あの足はもうないよ、
雨の夜にとうとう壊れてしまった。
でも、良いんだ。
例え、片足だけでも、努力次第でまた歩けるって知ったから
沢山練習して、片足道化になって、
森のみんなに美しいサーカスを見せてあげるよ」

それからと言うもの毎日毎日
ロイは歩き続けます
練習の成果は徐々に現れてきました。
ロイは一度も転ぶ事なく、部屋を歩き回る事が出来るようになったのです。
「どうだい!この通りだぞ!
僕もまた!あの草原で走り回れるんだ!」
ロイは嬉しそうに飛び跳ねました!
ジェニファーも小屋の中を飛び回り、
喜びを分かち合いあったのでした。

それから数日、空を見上げると
雲間から太陽の光が差し込んできました。
風はソヨソヨと吹いて
暖かい夏の香りを運びます。
森の動物達は 梅雨が明けた丘を
自由に駆け回り、夏の訪れを
みんなで祝いました。

その頃ロイは
まるで見違えたように片足を巧みに使って
歩き回ります
サッタラ サッ!
クルリと回って逆立ちをすると
高く飛び跳ねて部屋中を歩き回ります、
それはまるでサーカスの軽業師のようでした。
「ジェニファー!今日は外に出てみるよ!」
そう言うと、
窓から勢いよく飛び跳ねて
丘の草原を駆け回りました。

「見ろ!ジェニファーがよく話していたあのマリオネットだ」
ロイは森の動物達の前で華麗に草原を駆け抜けました
その姿に動物達は大きな歓声を与えます
「みて!すごいや!片足道化のサーカスだ!」
口々に話すといつの間にか
ロイの周りには沢山のお客さんでいっぱいになっていったのです。

夜になり月明かりがロイを照らします。
小鳥達は、歌を歌い
ロイはその歌声に合わせて美しいワルツを踊りました。
星も月も森の動物も
その華麗な姿に大きな拍手を送ります
「ごらんよ!願いが叶ったんだ!
ヤーレホッ!ハーサホッ!」
月明かりのサーカスは
朝まで続きました。

そしてその後、
あのマリオネットは小屋の中から忽然と
姿を消したのでした。

それから長い年月が過ぎ
風の噂で
大きなサーカス一座が旅公演をしていたそうです。
そこでは、片足道化のマリオネットが
片足の男の人と一緒に世界中の子供達に
笑顔と勇気を与えていましたとさ。

おしまい。
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