近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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平成29年6月12日 坂口安吾「木枯の酒倉から」研究発表

2017-06-13 23:28:02 | Weblog

 こんにちは。
 6月12日の例会の様子をご報告いたします。
 先日の例会では坂口安吾「木枯の酒倉から」の研究発表を行いました。
 発表は3年の吉野さん、1年の岡部さん、中島くんが担当し、司会は4年の山内が務めさせて頂きました。

 発表者は副題を「矛盾を許容する『聞き手』」と設定し、作品の構成や「僕」と狂人と行者の関係性に着目した分析を行いました。
 「木枯の酒倉から」は「発端」「蒼白なる狂人の独白」「附記」の順で構成されていますが、出来事の発生した順序としては「蒼白なる狂人の独白」→「発端」→「附記」であると発表者は推定しました。ゆえに「発端」と「蒼白なる狂人の独白」の表現は似通っているのであり、「僕」は狂人の影響を受けていると言えるのではないかということが考えられると検討しています。
 また狂人が「僕」を「詩人」と称したことに注目し、「僕」は狂人だけではなく行者にも通じる部分があるという可能性も見出しました。
 さらに狂人と行者の対立については、彼らは飲酒については正反対の意見を持っているものの、共通の見解を持っている部分もあり、論を戦わせながらも完全な敵対関係が成立しているわけではないと分析しました。
 
 そして狂人が禁酒を失敗したことについては、以下のようにまとめています。
 作中で狂人は禁酒を決意するもののその試みは失敗に終わり、「附記」を読むと禁酒の非達成は永遠に続くと考えられます。しかし発表者は、狂人が理性の痺れている飲酒中に「煩悶と化す」ことができたという記述があることから、この「聖なる禁酒の物語」は狂人にとって特別な意味を持っているという見解を提示しました。ここから、狂人と行者の対決は一見すると狂人の敗北に終わるけれども、完全な敗北ではないということを発表者は主張します。
 また、この部分では「僕」の存在が重要視されていました。「僕」は先述したように狂人と行者の中間に位置する存在です。この「僕」が登場することで狂人は「僕」に「聖なる決心」を話し、話すことで「聖なる禁酒の物語」もまた永遠のものになり、その内容に矛盾などが見られるとしても、狂人の語った内容を「木枯の酒倉から」というテクストにすることで聞き手は「僕」だけでなく作品の読者にまで拡大し、「聖なる決心」は強度を増してくというのが発表者の結論です。

 質疑応答では、発表者が狂人の「想像力」と行者の「幻術」を、前者が「あくまでも自身の認識のみを変容させる」もの、後者が「現実を詩そのものにする(=第三者にも自分の想像したものを見せる)」ものと区別していたのに対して、本文中に狂人の「見給へ」という(「僕」に空想の風景を見せようとする)言葉があることから、この二つに大きな違いがあるのかという疑問があがりました。
 他の会員からも「想像力」と「幻術」が綺麗に切り離せるのかについては意見がありましたが、岡崎先生からは「違いにこだわり続けること」に着目することの重要性についてお話を頂きました。

 そして発表者は作品の結末を「狂人の一方的な敗北ではない」としていましたが、これについては岡崎先生から飲酒をした後に煩悶をするのは行者の術中にはまったことにはならないのか、酔っ払った狂人の言う「煩悶の塊」に論理的な信用性はあるのかということについてご指摘がありました。さらにこの作品は勝利を見出すよりも狂人が失敗を続けていることを読むべきであり、そのように読むことの意義についてもご指導を頂き、会員一同で作品の読み方を学びました。

 他にも「酔う」ということの多様性や「灰色」の意味、「発端」の必要性を問うご意見などを会員の方からは頂きました。
 今回もたくさんの論点があがり、それぞれの論点について会員同士で意見を交わし、岡崎先生から作品構成の明晰さについてもお話を頂いたことで、作品への理解を深めることができたと思います。
 

 ご報告は以上です。
 来週は堀辰雄「聖家族」の研究発表を行います。

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3 コメント

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初めまして (高橋直美)
2017-06-21 00:26:13
近研ブログ:研究発表を大変、興味深く拝見いたしました。
突然で不躾な質問をお許しください。
このサークルは國學院に通う学生さんが参加
可能なサークルなのですよね?
トンチンカンな問いかけで、困惑させてしまったでしょうか。
そもそも、このようなデジタルなダイローグは苦手なので、どなたに向かってこのメールを書いているのかも、よくわかっておりません。
ご返信いただけましたら、幸いです。
高橋直美
Unknown (近研幹事)
2017-06-21 16:32:12
>高橋直美様
コメントありがとうございます。國學院大學近代日本文学研究会幹事です。
当研究会の活動は、國學院大學の学部生及び院生が対象となっており、一般公開はしておりません。しかし、過去に他大学の学生が所属していたことはあります。いずれにせよ、学生会員以外には活動を公開しておりませんことをご了承ください。
その他詳しい活動内容についてはホームページ(https://www9.atwiki.jp/kbk1948/)をご覧ください。
これからも近研ブログをお楽しみいただければ幸いです。
近研幹事
ありがとうございます (高橋直美)
2017-06-22 12:02:07
國學院大學近代日本文学研究会幹事様
不躾な質問に対し、ご丁寧な回答コメントありがとうございます。
やはり、部外者の参加は無理のようですね。学内のサークルですから、当然のことでしょう。大変失礼致しました。
私は学生時代に日本文学を十分には読んでおりませんでした。
読んでおくべき名著がたくさんあることに、今更ながら気づき、日本文学や詩の奥深さ、日本語の美しさなどを再発見しているところです。
また、文学の素晴らしさを語り合う仲間がいることが、うらやしです。
ですから、見ず知らずの方にメッセージを送ることは、ためらわれましたが、思い切って送ってしまいしました。
これを書いている今も、気恥ずかしです。
近代日本文学研究会の活動は、とても素晴らしいですね。旅をしたり、恋をしたりするのと同じくらい文学的体験をなさっていることでしょう。
どうぞ、これからもお励みください。
高橋直美

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