九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

クロモンキリバエダシャクの幼虫について

2017-09-01 18:53:36 | 日記
クロモンキリバエダシャクの幼虫について
以前、私のブログ:九重自然史研究所便りに「大津市でシキミに発生した後腹部背面に一対の角を持つシャクガ幼虫」の正体がわかったので訂正する。
 シャクガ科の幼虫は食樹の小枝や茎に擬態している。その結果この科の幼虫の多くは小枝のような色彩や形を持っている。しかしこの図版に示すシャクガ幼虫の腹部表面両側から生えている1対の立派な角状の突起を持つ例は、私も初めて見るものだ。この図版の幼虫は2016年5月9日武田さんが大津市和邇の自宅近くでシキミ(シキミ科)から見つけ届けてくれたものだ。
ただ講談社版「日本産蛾類生態図鑑」にはフタキスジエダシャクGigantalcis flavolineariaの幼虫の写真が3枚掲載されており、シキミのエダシャク幼虫もそれと幾分似ているが明らかに別種である。またその種はマメザクラ、ズミ、アズキナシなどバラ科に固有の種であるという。
 今日お見せする図版の幼虫は、バラ科固有のフタキスジエダシャク幼虫と同じくシャクガ科幼虫としては異例の腹部第7節背面両端に立派な角状突起を持っている。両幼虫は明らかに別種である。なぜならバラ科固有の幼虫の突起は先端に向かってまるで剣のように細くなっている。
一方、シキミの幼虫の突起は鹿の角のように頑丈で、先端部が二股に分かれている。特に写真6では明瞭に二股になっている。角の枝は正面から見ると前後に並んでおり写真5では一本の角に見える。この突起は武器として使うことはなさそうだが、腹部背面前半は黄色に彩色されており、その面を見ると写真3と5のように敵を威嚇する効果はあるらしく、黄色部を前方に向けて静止していることが多い。
 写真1と2は他の写真よりもやや小さく5月14日に体長20mm以下でおそらく3齢幼虫らしい。他の4枚はもう1齢進んだ5月17日の撮影で体長40mm4齢幼虫らしい。届いたときのシキミは硬い去年の葉がついている枝の先端部に新芽が伸びつつある状態であり、届いた幼虫は新芽ばかりを食べていた。この幼虫は同時期に体長が違う数幼虫がおり、明らかに独居性で5月24日最大体長約40mmに達した幼虫が5月30日にまでに順に3幼虫が蛹化した。蛹は黒みがかった褐色で、本来は葉を綴り合わせた繭内で尾端を糸で繭の天井に固定し蛹化するらしく、順調に育った1幼虫はそのように蛹化した。しかし飼育下では残りの2幼虫は容器底で葉の下で蛹化していた。
 幼虫戦争と呼ばれるガの幼虫研究者がしのぎを削った時代にシャクガ科幼虫を続々と報告された佐藤力夫博士に送って、ご意見を求めるとクロモンキリバエダシャクかもとメースが来たが自分が幼虫を続々記録したのは昔のことで怪しいとあった。図鑑類にはこれと一致する写真がなかった。角の生え方など良く写っていないからだ。残念ながらこの蛹は羽化せず、正体不明なので私の昆虫記に掲載するのは止めようかと思った。最後にインターネットで探してみると、時間が経過したせいか「私の違う」という強い思い込みが薄れており、クロモンキリバエダシャクとして掲載する。本種は早春に出現する種で、私は彦根付近の山地で採集している。既知食樹はクヌギなどブナ科、ヤナギ科、クスノキ科、バラ科、カエデ科、草本植物のタデ科も上がっている。シキミ(シキミ科、モクセイ目)は初めて記録される食樹である。
 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿