九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

大分県九重町九重山系のカメムシ2種の記録

2017-04-23 08:06:13 | 日記


冬の間、私は休眠していました。今年は草津市も寒い日が続き、桜の開花も遅く、昆虫と接する機会はベニシジミとクロヒカゲの幼虫が届いただけです。相変わらず出版できるかどうかわからない九重町地蔵原での観察記録を書いています。今年7月で80歳になりますが、相変わらず元気です。妻と鴨川上流や哲学の道の桜を見に行きました。哲学の道は日本人より外国人が多く、楽しんでいました。少し暇ができたのでブログを再開します。
大分県九重町九重山系のカメムシ2種の記録
(図版)
 大分県九重町に産することは間違いないが、写真のみ撮影し採集していないカメムシ類が2種ある。図版の写真1はその一つでヒイロオオモンキカスミカメムDeraecoris erythromelas Yasunaga et Nakatani, 1998である。この写真は2007年6月16日早朝、長者原から黒岳方向に下りる道路脇で、夜間採集用白布を張り灯火をつけたまま車の中で眠っている人の白布に止まっていたので撮影した。カスミカメムシは何十種も標本を作っていたから当然採っていると思ったので採集しなかったらしい。しかし琵琶湖博物館に収めた標本にはその種はなかったので写真を公開しておく。なおこの種は「日本産原色カメムシ図鑑第2巻」(全国農村教育協会)の図版44、173にオオモンキカスミカメムシ♀として出ている。以前はその種の色彩変異と考えられていたが、別種と判明し1998に記載された。四国と九州に分布し、ヤナギやミズメなど広葉樹の葉上でハムシ幼虫を捕食しているという。
 写真2は九重町地蔵原で2004年8月11日クチブトカメムシと信じて撮影した交尾しているカメムシの写真である。旧九重昆虫記の記事を再読し誤植を直すなど再版に向けて作業をつづけている過程でこの写真が見つかった。2008年9月28日地蔵原で撮影した。博物館にはクチブトカメムシは7頭ありそのうち5頭は地蔵原産である。しかし2004年8月11日に採集した標本はないので、交尾個体は写真を撮ったが採集しなかったらしい。こういうことはよくあることで、交尾しているペアを見てもすでに標本があれば採集しないことが多い。しかしこの場合は写真の雌雄がどうやらクチブトカメムシでないらしいと気づいた。そこで調べるとオオクチブトカメムシPicromerus bidan (Linnaeus,1758)らしいとわかった。オオクチブトカメムシの綺麗な写真は2012年に出版された日本原色カメムシ図鑑の図版112、429に出ており、またクチブトカメムシの写真はカメムシ図鑑の1巻327ページに出ていた。これで一件落着しめでたし、めでたしとなるはずだったが、オオクチブトカメムシは図鑑の説明によると旧北区系の種で旧北区と北アメリカに分布し、日本では北海道と本州に分布するとある。つまり九州初記録なのに採集していなかったのだ。地蔵原は旧北区系の昆虫が数多く遺存しており、未記録であってもオオクチブトカメムシが採集されても不思議ではない。標本はないけれど、交尾していたのだからこの地域で今も繁殖を繰り返している、つまり土着種に数えなければならない。旧北区系の希少種はどこからも侵入してくる可能性がないからだ。
この地域では偶産蛾のオオルリモンクチバの雌雄が一緒に採れたことがある。この場合は一緒に採れても、もし交尾していても、土着しているとは言えない。なぜなら東南アジアから飛来する遇産昆虫の場合は、九州のチベットと言う人がいるほど寒冷な地蔵原の冬を越すことができない。しかし旧北区系の種の場合は地蔵原の気候は彼らにとって好適なので、新しく侵入したと考え難いから後氷期に分布を広げた種の遺存種だと考えられる。つまり地蔵原は旧北区系の昆虫の最後の砦のような場所であり、九州北部の昆虫相がもっとも面白そうな土地だから私が目をつけたのだ。


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