九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

クロヒカゲの生活史

2017-06-03 06:42:21 | 日記

クロヒカゲの生活史
(図版1:1~3、図版2:9)
 クロヒカゲLethe dianaはヒカゲチョウ亜科(=ジャノメチョウ亜科)の普通種で、滋賀県でも大分県でも低地でよく見かけるチョウである。この仲間は日の当たる明るい場所ではなく、日陰に出没し、まるで悟りすました僧侶のように止まっている。もっとも早朝の日光浴は嫌いではないらしい。裏面の後翅に美しい瑠璃色の斑紋に囲まれた目玉模様を持っている。
学生時代、古代ギリシャ文明に熱中し悲劇や喜劇などを愛読したが、60年後の今はすっかり忘れてしまった。私がギリシャ古代文明の魅力に引き付けられたのは、神話の不死の神々はトロイ戦争の最中もお気に入りの英雄の肩を持ち人間世界の争いに介入するが、その中で真の英雄たちは神々の干渉を運命として受け入れ、あくまで死ぬべき人間として生まれた自分の信念、生き方を貫き通す。負けることがわかっていたトロイの王子ヘクトールがあえて応じた、アキレスとの一騎打ちはその典型である。友の敵討ちに勝ったアキレスもそうすることで、やがて自分が死ぬ運命を知っていた。夜陰に紛れてトロイの老いたプリアモス王が息子の遺体を引き取りに来る場面、アキレスが怒りを鎮め遺体を返す場面は今も覚えている。本種の属名はギリシャ神話の三途の川である。その川を渡る船の船頭はカロンと言う名だったと思う。
クロヒカゲは幼虫で越冬する。例の通り武田滋さんが大津市伊香立本地町でササの1種を食している本種幼虫見つけ届けてくれた。届いた時は約30mmの終齢の一つ前の幼虫(第1図版1~3)で、細長く淡褐色で頭部に突起があり、胸脚3対、副脚4対、気門の下方に淡色の側線、その下部に白線がある。尾脚は細長く後方に伸びている。愛用のペンタックスが壊れ、代わって買ったオリンパスを使った撮影に慣れず、結局、3枚も掲載することになった。写真3は体表全体が良く写っており、体表面に小さな黒点が散乱している。頭部は写真1に良く写っている。
2~3日後、図版2:1~3のように少しずんぐりした体型の終齢幼虫になり顔面の様子も変わった。そして体が丸くなり4月19日、写真4と6に示す前蛹になった。その日の夜11時35分蛹化した。写真7は蛹の側面、8は腹面、9は背面である。まだ使い慣れていないカメラなので、写真7~9のようにプラスチック容器の天井にぶら下がった小さな蛹を同じ条件で撮影できなかった。
4月29日雄が羽化した。
ところで本種に似たチョウとしてヒカゲチョウLethe sicelisがある。たまたま羽化したクロヒカゲの裏面を見てふと気付いたのだが、九重昆虫記第1巻(改定新版)125ページ図版24:1に大分県九重町地蔵原で撮影しクロヒカゲとして写真を掲載した静止しているチョウを思い出した。早速、第1巻を見ると、その写真はやはりヒカゲチョウが止まっている写真だった。エッチエスケー社社長はチョウに詳しい人だが、この間違いには気づかなかったらしい。その間違いは大分合同新聞2005年6月27日の記事に由来する。止まって口吻を伸ばしているチョウの写真が必要だったので写しただけだから、ついクロヒカゲと思い込んでしまったらしい。どんなに気をつけていても小さな間違いは避けられない。難しいものだ。





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