小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

日本からはもうノーベル賞受賞者は出ない?

2017年10月10日 21時28分59秒 | 思想



今年もノーベル賞が決まりました。

巷では、日系イギリス人のカズオ・イシグロ氏が
受賞したというので評判になっています。

それは結構なことですが、
残念ながら自然科学部門では、
日本人受賞者がいませんでした。

この数年、物理学賞、化学賞、医学・生理学賞で
矢継ぎ早に日本人が受賞してきました。
ところが今年はゼロ。

ちなみに自然科学部門以外のノーベル賞は、
受賞した方や団体には失礼ですが、
あまりその価値が信用できません。
人文系は基準があやふやだからです。
特に平和賞はいいかげんですね。
でも自然科学部門では、かなり信用がおけます。

ところで、21世紀に入ってからの日本人受賞者は
自然科学部門で16人もいます。
毎年一人の割合ですね。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E8%B3%9E%E5%8F%97%E8%B3%9E%E8%80%85

この人たちの受賞時の年齢を調べてその平均を出してみました。
すると、68歳と出ました。

これから、いささか悲観的な予測を述べます。

どの分野であれ人間が一番活躍するのは、
30代から50代にかけてでしょう。

日本のノーベル賞受賞者の方たちが研究に一心に打ち込んだのも、
おそらくこの年代だったと思われます。
ですからこの方たちがわき目もふらずに、
寝る間も惜しんで研究に没頭したのは、
おおよそ1970年代から2000年代初頭くらいと
いうことになります。

もちろん受賞時の年齢には相当なばらつきがありますので、
若くして受賞し、いまなお活躍されている方もいます。
しかし平均的にはそうだと思うのです。

ところで言うまでもないことですが、
長年研究に没頭するには膨大な研究費が要ります。
企業研究の場合は応用研究ですから、
それが利益につながると経営陣が判断すれば
その費用は企業がもってくれるでしょう。

しかしノーベル賞を受賞するような研究は、
多くの場合、大学や研究所に身を置いた基礎研究です。
すると、研究費を大学の研究資金や政府の補助金に
頼ることになります。

先ほど述べた1970年代から2000年代初頭という時期は、
日本が今日のような深刻な不況に陥っていない時期で、
間には、一億総中流のバブル期もありました。

調べてみますと、それ以後の失われた二十年の間に、
科学技術研究費の総額はそれほど減っているわけではありません。
しかし文科省の「科学技術関係予算等に関する資料」(平成26年)の
主要国等の政府負担研究費割合の推移
および「主要国等の基礎研究費割合の推移
というグラフを見てください。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/034/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2014/04/21/1347062_03.pdf

八十年代初頭から、前者は下がり気味、後者はずっと横ばいです。
しかも他の先進国と比べるとたいへん低いことがわかります(前者では最低)。

このことは、政府が、
国家的な基礎研究にろくに投資してこなかったことを意味します。
それでも好景気の時は、民間や大学の資金がある程度潤沢だったのでしょう。

上の資料は2013年までのものですが、
その後、消費増税などもあり、デフレが深刻化しました。
内閣府が出している「科学技術関係予算」という資料の、
【参考】科学技術関係予算の推移」というグラフを見ますと、
安倍政権成立以降、この予算がさらに削られていることがわかります。
http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/h29yosan.pdf#search=%27%E7%A7%91%E5%AD%A6%E6%8A%80%E8%A1%93%E9%96%A2%E4%BF%82%E4%BA%88%E7%AE%97+29%E5%B9%B4%E5%BA%A6+%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E6%8E%A8%E7%A7%BB%27

大学でも、すぐ実用に適さない研究はどんどん削られる傾向にあります。
こうした傾向が続く限り、もう今後日本からは、
自然科学部門でのノーベル賞受賞者は出ないのではないか
そう危惧せざるを得ないのです。

筆者は去る9月18日にある情報に触れ、愕然としました。
ノーベル賞受賞者で京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥さんが、
「ご支援のお願い」として寄付を募っているのです。
それだけならさほど驚きませんが、何と次のように書かれていました。
「iPS細胞実用化までの長い道のりを走る弊所の教職員は、
9割以上が非正規雇用です。
これは、研究所の財源のほとんどが期限付きであることによるものです。」

とっさに「財務省よ! 竹中よ!」と、怒りがこみ上げてきました。
単年度会計、短期決戦での利益最大化。
長期的な見通しや雇用の安定など知ったことではない。
ノーベル賞級の基礎研究までが、この風潮の犠牲となっているのです。

こういう状態がこのまま続くと、日本の科学技術は、
確実に世界に遅れを取ってしまうでしょう。

寄付に頼るというのはやむを得ない手段と言えますが、
そこにばかり依存してしまうようになるとしたら、まことに切ない話です。
国民経済の立場からは、政府の間違った経済政策に対して
もっともっと怒りの声を発するべき
なのです。

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3 コメント

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>iPS細胞実用化までの長い道のりを走る弊所の教職員は、 9割以上が非正規雇用 (反孫・フォード)
2017-10-12 17:31:14
(いつもクドい同じような独り言ですが失礼します。)

 これは小泉政権時代からだったのでしょうか。安倍政権からだったのでしょうか。いずれにしても破壊が好きな人達ばかりです。
オラなんかの貧脳(なので威厳の在るコメントなぞではないのではありますけど)が考える派遣と言う言葉は、昔はバイリンガルを思い浮かべ今で言う高度人材的な意味を持っていました。今ではまったく派遣の意味が代わってしまいました。
そもそも普通にインフレ(通貨価値下落)の世界であれば、竹中南部等が政商な悪事に手を染めることなく、派遣業界が潰れてしまう経済になることはないように思います。政商な奴等がのさばるのが日本経済を駄目にしている元凶です。

 一時期は共産党等も派遣について血眼な時期も在りましたが今ではメッキリ熱が冷めたようにしか受け取れません。
規制緩和至上主義(バブルを起こしたのもこれが起源と思えます)の基に反られてきた法律を元に戻さないことには埒が開かないように思えました。

 オラのコメント自体こそ埒が開かないのですが書き込まずにいられませんでした。失礼しました。
二極分化はさけるべき (エイリ)
2017-10-13 14:12:29
こんにちは。
ほんとうにその通りですね。
多国籍企業にちゃんと課税をする国際的な機関が必要ですね。あとは、国内でも、累進課税がちゃんと機能するようにするべきですね。
平社員と社長(代表取締役)の年収格差はだいたい一〇倍から二〇倍ぐらいにおさまるべきです。二極分化は極力、避けるべきだったのです。しかし、実際には竹中さんが音頭をとって、二極分化傾向を促進してしまった。極力格差が広がる方向で、努力してしまった。これは、日本経済にとって、大きなマイナスだと思います。
>竹中さんが音頭をとって、二極分化傾向を促進してしまった。 (反孫・フォード)
2017-10-17 19:58:48
 それを助長したのは政治家  なんですね。
と庶民の私が考えても仕方がない   のですが。

 以下、大変(な妄想で)失礼しますが、エイリ様 がもしかして私の考えている方であると仮定して失礼します。脳の新皮質が古い皮質を被っている構造と同じように動物的な体の意識は植物的な体のこころを被い隠してしまうのでしょうか。
彼(等)のこころを見透かされないように意識が政を・・・。

 ヒトは意識だけかのようにAIを解釈する近代科学になってしまった気がしてならないのです。植物的な体のことが抜け落ちている気がしてならないのです。
 話は跳びますが帯びにある養老氏の“著者の解説が素晴らしい”、 本を読んでいて・・・(どう描けばいいか解りません)。美術批評家ならではの文章なのでしょうか。他の著作も読みたくなりました。

 大変訳のわからない跳んだコメントをしてしまいました。お許しください。

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