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谷崎潤一郎「恐怖」

2016-01-23 22:11:28 | 谷崎潤一郎
 谷崎潤一郎に「恐怖」という短編小説がある。

初出は、大正2年1月の『大阪毎日新聞』(未確認)とのことで、谷崎の初期の作品である。

「刺青」や「麒麟」のような強烈な作品ではないが、何だか当時の雰囲気がよく伝わってきて、好きな作品ではある。

 主人公は、徴兵検査を(嫌々)受けるために、京都から兵庫へ行かなければならないが、実は極度の鉄道恐怖症なのである。鉄道に乗ると〈体中に瀰漫して居る血管の脈搏は、さながら強烈なアルコールの刺戟を受けた時の如く、一挙に脳天へ向かって奔騰し始め、冷汗がだくだくと肌に湧いて、手足が悪寒に襲われたように顫えて来る〉のだそうだ。

 毎日、満員電車に揺られ、通勤通学する私たちにはわからなくなってしまっている感覚だが、近代的な装置=鉄道に馴染むことができない野性の身体が悲鳴を上げている姿を描いているのかもしれない。

 私たちにはわからなくなっているが、たとえば、赤ん坊が電車に乗ると泣き止まなくなったりするのは、その名残なのではないかと時々思う。
そもそも私たちの身体は、時速何十キロで移動することに向いてないのではないだろうか。


 主人公がその〈恐怖〉をまぎらすために、酒をかっくらって電車に乗る様子がとても愛らしい。

 主人公が乗るのは、私が馴染深い京阪電車であるのも嬉しい。京阪電車は明治43年開業だから、まだ開業間もない頃の京阪に乗っている。(主人公は怖いからなかなか乗らないのだけど。笑)
当時は、五条-天満橋間で営業されていたようだ。

 「大阪へ行くんだから」という言葉を「もう直死ぬんだから」と同義で捉えていたり、電車が動き出す時の心境を〈断頭台へ載せられる死刑囚の気持ち〉に似せていたりするのが滑稽だ。

 最後、京都市街が尽きたあたりの郊外の青葉や樹木や丘陵の景色に、少し安寧を取り戻しているが、八幡あたりかな? と思うとなお嬉しい。



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