神戸RANDOM句会

シニアの俳句仲間の吟行・句会、俳句紀行、句集などを記録する。

見水自選句集『二万世紀』2015年5月

2015-04-25 | 句集

 

 

雲さわぐ天に夏の木茂りあがる

 

金網の向うにもそよぐ夏草あり

 

ホチキスを握れば冷たし針かたし

 

絵の具つくわが手のひらも冬の色

 

照る月のやたらまぶしき熱帯夜

 

夏草にふと秋の空見つけたり

 

 

「風」 1977

 

吹き上げる谷風は

かぶと虫の好きな

甘い木の葉の

においがする

 

くぬぎの林を

なぎたおし

あわい朝の光を

かきまぜたあげくのはてに

 

得意満面に

わたしに

ほほえみかけ

 

首に巻きつけたタオルを

青空に

泳がせるんだから

 

      

 

堀割に浮かぶれんぎょうゆきやなぎ

 

きぬさやが大豊作の三四日

 

もえあがる木もれ陽の下ペダルこぐ

 

夏服のメイとサツキが走り去る

 

子を空へヒコーキをする夏畳

 

「ただいま」と麦藁帽脱ぐまっ赤な子

 

水遊び習った歌を鼻唄に

 

 

「まーくん」 2011

 

家族がそろっているのに

まーくんがいない

まーくんはと聞いたら

汗びっしょりで帰ってきた

 

妻がバスタオルで

しっかり汗をふいてやると

まーくんは

みんなと野球してきたと言っている

 

野球なんかできるのかと感心して

あれえ家族は三人だったのでは

と思ったとたん

 

二十六歳のまーくんが

ネクタイをして

ソファで日経新聞を読んでいた

 

 

   

     

八月の馬なでてゆく草嵐

 

振り向けば二万世紀を抜けた夏

 

火の国を行く八月の馬となり

 

芝刈って暮れる時間を愛おしむ

 

寒さ沁む乗換駅の看板字

 

そよ風に消えるいら立ちシャボン玉

 

ほっとして枝豆の皮山に盛る

 

 

「にこにこ」 ―2000―

 

ねこにこにこ

からすにこにこ

はっぱにこにこ

かぜにこにこ

 

くもにこにこ

おひさまにこにこ

ほしにこにこ

よっぱらいにこにこ

 

こんなににこにこ

していていいのか

なんていわない

 

にこにこにこにこ

ずっと一生

にこにこ

 

 

   

   

風も樹もミミズもボッティチェリの春

 

風止んでしだれ桜に人溜まる

 

路地ぬけて人もツバメも風になる

 

空蒼くカラス群れ飛ぶ麦の秋

 

兄弟の墓に降り積む青い雪

 

屋根裏の絵に南仏の夏の風

 

旅人に角ふりわけよ秋蝸牛

 

秋時雨バナナ一盛二百円

 

行く秋を莫山先生の字と惜しむ

 

参道の穴子香ばし雨の午後

 

須磨の海つつじの花の蜜香る

 

風強し青葉の山の大掃除

 

ゆりかもめ舞い空中都市出現す

 

澄みわたる清酒こんこん冬の空

 

着ぶくれて酒蔵の郷徘徊す

 

春風を背に源氏の間覗き見る

 

お聖さんの直筆原稿春のどか

 

とうとうと春の湖水は唐橋へ

 

泥に足とられて見上ぐ小春の日

 

柿食へば百年のちも鐘が鳴る

 

ひさかたの冬日が包む畝傍山

 

 

「むぎわらぼうし」 ―2005

 

むぎわらぼうしを

買いました

ホームセンターで

買いました

 

かぶるととても

なつかしい

 

夏の休暇の

キャンプ場

薪のにおいが

してきたよ

 

沖本真彦が笑ってる

三十五年の時を越え

若いみんなが

笑ってる

 

 

    

 

花群れを追いかけてゆく春列車

 

用水路みな美しき花の町

 

しょうゆもちしょうゆまんじゅうさくらもち

 

揖保川の瀬音切りさく群れつばめ

 

ほろ酔ひて春はわが身にとどまらず

 

はふはふと蛸ほおばりて冬楽し

 

子午線の冬青空を鳶が飛ぶ

 

海峡の流れは早し冬の雲

 

さざんかの花びら一つ石手川

 

焼餅を二つ買い込む冬遍路

 

吾輩は元気ぞなもし椿の湯

 

かなしみを燃やし尽くしていまは春

 

 

「啄木」  2010

 

とんでもない奴だった

一言で言えない悪党だった

いやな奴だった

みんな煙たがった

 

人のいい金田一京助も

金の無心が続き

悪い友達を持ったものだと

少し後悔した

 

啄木が死んで

みんなせいせいして

何年も忘れた

 

よせばいいのに

本にまとめた馬鹿がいて

もうだれも忘れられない

 

 

    

 

春うらら湯けむり交番今日は閑

 

花見客睨みつけてる鬼瓦

 

金の湯を一口含み春の坂

 

桐の花ところかまわず落ちており

 

閑かなる駅を抜ければ蝉しぐれ

 

コスモス揺れ空には雲の天使達

 

秋時雨雨アルトキハ雨ニ酔フ

 

スピードを落としてみれば冬案山子

 

神戸では桜の海を河馬がゆく

 

ぞうキリン惨禍を知るや春風に

 

北上の岸辺の無残啄木忌

 

しっかり人しっかり仏桜散る

 

人に皆没年のあり夏の河

 

夕映えの丘をくだれば花いばら

 

秋の雨静かに海に浮かぶ街

 

ゆずり葉の一枚となり館を辞す

 

 

「三十八億年」 2010

 

ぼくは父母から生まれ

父母は祖父母から生まれ

祖父母は曽祖父母から

生まれた

 

どんどんさかのぼっていくと

たどりつくのは

三十八億年前に

この星に生まれたいのち

 

ぼくのいのちは

五十年や百年のいのちでなく

三十八億年のいのち

 

ご先祖様バンザイ

きょうの日

バンザイ

 

 

     

 

震災の記憶も戻る寒戻り

 

せせらぎに春の電車の音混じる

 

夏雲に誘われてゆく伯耆みち

 

ゲリラ雨あがり夏空ただ西へ

 

湖わたり涼しさ天守吹き抜ける

 

ひぐらしの声に聞き入る露天の湯

 

緑陰を抜けて二ノ沢三ノ沢

 

鬼女台(きめんだい)大山蒜山夏姿

 

鵬の翼ひろがる秋の空

 

舟屋よりゆらり漕ぎいで春の海

 

春耕を山猿たちと眺めおり

 

ジオパーク息づく春の暮らしあり

 

波寄せる浜の草にも春は来て

 

人類の滅ぶ日もあり春渚

 

かたばみの種はじけ飛ぶ小宇宙

 

しあわせな気分胡瓜の花黄色

 

 

「りんご」 ―2012―

 

あの水浴図を見て

うまい絵描きと思うか

セザンヌって

へたくそやで

 

金もうけの得意な父は

町一番の大金持ち

母は息子に苦言した

なんで絵描きで苦労をするの

 

少年の日まぶしい緑の中で

親友ゾラがりんごをくれた

親友ゾラは知らずに死んだ

 

未来の少年たちはみな

セザンヌのように

りんごを描くことを

 

 

    

     

ランドセル横一列の枯葉道

 

桂宇治木津吹きわたる秋の風

 

彫り終えて志功夜寒の大笑い

 

広告で紙の舟折る冬日向

 

かかさんの名はゆみ春の人形座

 

ときめきを乗せ観潮船出航す

 

寅さんがふらり立ちよる夏の海

 

UEDA-CHO夏の砂丘は人まばら

 

かけのぼる姿残して道に蝉

 

本堂の朱は落剝す朱紅葉

 

幽閉の身にも紅葉の華やいで

 

朝の駅蟹客乗せてキハ止る

 

クルーズの春待つ港照り返す

 

この国の終わり始まり春一番

 

 

「ポンペイ」 2013

 

パン屋の夫婦

と名付けられた

知的な女と陽に焼けた男が

しっかりこちらを見ている

 

二千年前のフレスコ画は

火山灰に含まれるシリカゲルで

色鮮やかに保たれた

 

二人は

さっき起こった出来事を

いまにも話したい様子だ

 

ポンペイの幸福と

ポンペイの不幸と

そしてやってきた

最後の日のことを

 

 

  

 「さじなめてーわらべ たのしも なつ ごおりー」

 悪童ども大はしゃぎしながら、中学校の授業ではじめて俳句を作った。俳句に興味を持ち、「夏草に汽罐車の車輪来て止る」や「ピストルがプールの硬き面にひびき」などの句に引かれて、新潮文庫の「誓子自選句集」を買った。                            

                                           

 息子が生まれてからは、北六甲の自然に親しみ、休暇は九州の筑後で暮らした。

 1995年1月の阪神・淡路大震災。突然家が激しく揺れ、街は壊滅した。復興20年。神戸は何事も無かったように再生した。

                                          

 2002年の春、有馬での第1回RANDOM句会へのお誘いを受けた。その朝、家を出る前に庭で草を引いていたらミミズに出会ったので、俳号を「未見」「見水」と付けた。

 心優しい先輩たちと俳句に遊んで10数年。昨年、先輩たちがネットで句集を発表された。当方も250の駄句から99の句を選び、絵や写真や詩もこき混ぜて句集に。                  

                                          

 「二万世紀」はシュペルヴィエルの詩「運動」から拝借。

 振り向いて、200万年の間、誰も見たことのないものを見て、また草を食い続けた馬のように、悠々淡々と残日を過ごしたい、の思いを込めた。

                                                見 水  

   見水・プロフィール…1951年生まれ。神戸で育ち、働き、今日に至る。  

********************

見水自選句集

二万世紀

著者:見水

2015年5月1日

発行 KOBE@RANDOM

naka.kobe@nifty.com

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2 コメント

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句詩画集 (播町)
2015-04-25 21:14:56
 初句会の衝撃句、

風も樹もミミズもボッティチェリの春

 から、もう13年になるのですね。

 これは句集というより、見水ワールド全開の句詩画集です。すばらしい。
思想家俳人見水さん (つきひ)
2015-04-27 21:39:57
 二万世紀 という句集名に驚き、 年代ごとのタイト

ル、イラストに惹きつけられました。

ぼくのいのちは三十八億年のいのちというフレーズ・・・

などスケールの大きさ、深さに圧倒されました。


 

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