神戸RANDOM句会

シニアの俳句仲間の吟行・句会、俳句紀行、句集などを記録する。

2007=伊丹探鳥忘年句会

2013-02-20 | 吟行句会


伊丹きぶくれ俳諧記




次回は、おにつらの伊丹、かきもり文庫―――
女性軍圧倒で終わった春の須磨寺雨中吟句会後の宴会がお開きになるころ、誰からともなく声があがり、案内役は伊丹の里人・蛸地蔵氏、幹事はだっくすさんで、伊丹句会の準備がはじまりました。
RANDOM発刊記念有馬句会から5年半。5回目にして初の冬の句会です。

昆陽池へ ――おもしろさ急には見えぬすすきかな 鬼貫

12月9日(日)12時過ぎの阪急伊丹駅。女性軍が昼食もそこそこに参加者配付用の案内パンフと短冊を用意して臨戦態勢の中、案内役の伊丹の里人・蛸地蔵氏がいつもの自然体で到着。

年の暮今年もものを思わざり    蛸地蔵

ぱらぱらとあとの男性軍が集まり、最後に播町氏が改札から登場。今回集まったのは7名。つきひ先生は本日学会出席のあと伊丹に来られ、句会からご一緒と、まさに師走のあわただしいスケジュール。

学会に身を委ねるも漱石忌    つきひ
短日や句座と学会振り分けて   つきひ


蛸地蔵氏の引率で、吟行スタート。
阪急伊丹駅はショッピングゾーン一体型の都心ビル。エスカレーターで1階に下り、外に出るとバスターミナルになっています。

本日は、バスで昆陽池に向かい、渡り鳥を観察した後、再び市街地に戻り、日本最古の酒蔵と日本3大俳諧コレクションの1つ「柿衛(かきもり)文庫」を訪ね、江戸時代の商家の座敷で句会、その後地ビールと伊丹の酒・白雪を味わう忘年会。かつての文人墨客さながら伊丹の文化にどっぷり浸る贅沢な日程です。

切れ目なく雲急ぎ行く冬近し   かをる

この日は晴れたり曇ったりの変わりやすい天気。今年は10月も真夏並みに暑く、12月になっても紅葉が残りまだ晩秋の気配。お互いの近況報告をし、車窓に映る整然とした住宅街に「住みやすそうなええ街やな」などと感心しているうちに、昆陽池公園西の松ヶ丘バス停に到着。

冬日中(ひなか)秋残してや樹々の枝  蛸地蔵
昆陽池をぐるりと囲み冬紅葉      だっくす
風に舞う色とりどりの落ち葉かな    だっくす
うっとしくてやがていとしき落葉かな  さくら


昆陽池をかこむ緑地は見事な散策路。紅葉した木々と地面をおおう落ち葉。まるでコローか浅井忠の絵の中にいる気分です。



水鳥たち ――水鳥の重たく見えて浮きにけり 鬼貫

さざ波の立つ昆陽の池冬隣     さくら
渡り鳥眼下に昆陽のやまと島    見水


上から見れば日本列島の形をしている島を中心に、寒々とした池の周囲を、時計と逆まわりに、たくさんの鳥が群がっている「野鳥観察橋」までぞろぞろ歩いていくと、いるわいるわ、そこは想像を絶する水鳥の楽園でした。

広げたる羽の白さや大白鳥      だっくす
白鳥のたわむれ遊ぶ美わしき     一風
鴨の群れより添い水面すいすいと   一風
池三つ静かに浮かぶ夫婦ガモ     一風
冬空に孫抱いて見るカワウ       一風


一風氏は冬の岸辺で家族のしあわせに思いをはせています。

鴨の子の羽搏(はう)ちて前へ進まざる  播町
逆上りせよと囃されかいつぶり      播町
冬鳥に交じりて集う野バトかな      蛸地蔵
よたよたと水鳥歩く重そうに       見水


よほど人間慣れしているのか近づいても逃げようとしません。鳥たちのかわいいしぐさに時を忘れて見入ってしまいます。
近所に住む子供たちでしょうか。エサをやりすぎないよう注意看板もあるのですが、ちぎったパンのようなものを上に投げ上げている。と、それを見つけて真っ白なゆりかもめたちがやってきて上手にエサをついばんでいきます。 

子等の声おこる羽音にかき消され   かをる
鳥どりが群れて騒がし冬の池     蛸地蔵
児に従いて水鳥の群騒がしい     蛸地蔵
冬空をなほ低くするゆりかもめ    播町
ゆりかもめ舞い空中都市出現す   見水


各人思い思いに浮かんだ言葉をメモ。そろそろ移動です。

寒禽の翔び立ち影を残しけり     播町

公園の出口近くに、市民会館のスワンホールがあります。暖をとろうとレストランでコーヒータイム。テーブルを囲むと、蛸地蔵氏が思いつくままに伊丹の歴史を語り始めます。古墳(塚)が多いこと。行基のこと。稲野(猪名野)のこと。昆陽池のこと。鴻池善右衛門のこと。京都や大阪との文化交流のこと。清酒の誕生秘話(小僧が灰を投げ入れた?)のこと。話は尽きません。長く暮らしている土地への愛着のこもったお話でした。

昆陽の里歴史ひもとき冬ぬくし    かをる
郷の人歴史を語る冬の句座      かをる
落葉踏み歴史の郷を案内さる     さくら

 
私たち一行は、このあと再びバスで市街地に戻ります。
この頃、入れ違いにつきひ先生が伊丹に到着しタクシーで昆陽池へ。ところが降ろされたのは私たちが楽しんだ野鳥観察橋とは対岸の昆虫館の場所でした。

逆光の昆陽池黒く鴨浮寝        つきひ
二羽の鴨二羽の引きゆく水尾明かり  つきひ
波自在更に自在に鴨の首        つきひ


「水尾(みお)明かり」とは、水鳥が水面を進むときにできる航跡が陽に反射して明るくなることをいうのだそうです。俳句独特の言葉なんでしょうね。「自在」も最近特にこだわって使っている言葉だとか。「二羽、二羽」、「自在、自在」と言葉を重ねられたのも、熟慮の末の高度なテクニックなのだそうですが、句会の場では心無い悪童たちに「ニワ、ニワ、ニワ!」、「テクニシャン!」と、けちょんけちょんにされてしまいました。



鬼貫句碑 ――にょつぽりと秋の空なる富士の山 鬼貫

メインストリートの伊丹シティホテル前バス停で下車すると、三井住友銀行前の鬼貫句碑に出会います。ここが上島鬼貫の出生の地、酒造家油屋の場所。

「これ何て書いとんや」石碑の裏を見ても説明書きはなさそうです。
最初に「ふ」に似た文字があり、読めない。
中の句に「秋」があり、下の句に「富士の山」があるので、「にょつぽりと…の句でしょうね」と言ったものの、「ふ」がなぜ「に」なのか、「二」が「ふ」のように見えるだけなのか、わからずじまい。

鬼貫は富裕な酒造家の三男坊でしたが、俳諧に親しむ一方、医学や経済を学んで、筑後三池、大和郡山、越前大野の各藩に数年間ずつ武士として出仕もし、後年は、俳諧に専念して、「ひとりごと」などの本を書いて名を馳せましたが、弟子をとらず、77歳で亡くなると忘れられてゆきました。

今から300年前の芭蕉とほぼ同時代の人で、貞門、談林そして蕉風へと俳諧が発展していく華やかな元禄の時代を生き、「東の芭蕉・西の鬼貫」と並び称された俳人です。珠玉のように言葉を磨き上げたのが芭蕉なら、技巧を嫌ってありのままの言葉をよしとしたのが鬼貫でした。のちに、蕪村や炭太祇が鬼貫を高く評価しました。

よく知られた句に行水の捨てどころなし虫の声」、「秋風の吹きわたりけり人の顔」、「冬枯れや平等院の庭の面」などがあります。



酒蔵の郷 ――ひうひうと風は空ゆく冬ぼたん 鬼貫

銀行の通りを一歩中に入ると、「山ハ富士、酒ハ白雪」(頼山陽)の小西酒造本社や、本日の忘年会の会場となる古い酒蔵を改造したレストラン、法専寺などがあり、町並み保存の石畳の道が広がります。伊丹も阪神・淡路大震災の被害は大きかったのですが、いまはきれいに整備されています。

冬空のビルの谷間に古き寺      一風
熱燗があとに控えし伊丹句座     だっくす
飲み干してみたし伊丹の秋の酒    さくら
澄みわたる清酒こんこん冬の空    見水
着ぶくれて酒蔵の郷(さと)徘徊す   見水


本日の吟行の最終目的地、柿衛文庫・伊丹市立美術館、江戸時代の町屋である旧岡田家住宅(酒蔵)・旧石橋家住宅などの一画は「みやのまえ文化の郷」という魅力的な愛称がつけられています。
最初に、1674年に建てられた現存する日本最古の酒蔵、旧岡田家の酒蔵を見学。ボランティアらしき方が案内をされていて、伊丹の文化財マップなどいただきました。

「柿衛文庫」は、頼山陽も飲酒の後、酔い覚ましに好んで食べた岡田家自慢の柿にちなんでつけられました。「奥の細道」の草稿や蕪村の書画など10000点に及ぶ貴重な俳諧の資料が所蔵され、一部が展示されています。
この日は美術館を中心に一画全部を使った子供たちに人気の特別展示のため若いお母さんと子供連れでにぎわっていましたが、私たちの目当ての柿衛文庫はひっそりと静かでした。

柿衛に冬鵙(もず)をきく昼下がり   播町
文庫守る柿二世なり実のたわわ   さくら
歴史継ぐ柿衛文庫残り柿       かをる


柿衛文庫の展示室では館内放送でモズの鳴き声を流していたそうです。



冬の座敷 ――ものすごやあらおもしろや帰り花 鬼貫

午後3時30分が一人5句の投句の締切時刻。蛸地蔵氏が予約していた旧石橋家住宅の奥座敷に一人また一人と集まってきます。
「あ、つきひ先生こんにちは。よろしく」
つきひ先生は、みんなのおやつに手作りのクリスマス菓子シュトーレンを用意してお待ちでした。

酒蔵のまちの旧家の冬座敷      だっくす

8名5句ずつ40句と、今回は投句のみで参加のひろひろ氏の4句の合計44句を順不同・作者不明で清書し、それから各人が5句ずつ選び、うち1句を特選句として2点に換算するのが本日のルール。総点数48点の争奪戦となります。

冬来たり蝋梅の葉が散り急ぐ     ひろひろ
木漏れ日にうとうと昼寝風邪まねく  ひろひろ
行きたしや酒くらのまち伊丹句座   ひろひろ
白雪の酒飲み干して友集う      ひろひろ


各人選句が終わり、つきひ先生の進行で選句の発表が始まります。
「きょうはいい句がたくさん出来ています」と、つきひ先生が前置き。
その言葉に励まされ、みな点者気取りで、にぎやかに句会は進みました。

 結果発表。
  優勝=見水氏・10点
  二位=だっくす氏・かをる氏・ともに9点
  四位=つきひ氏・8点
総点数48点のゆくえでいえば、女性軍4名で30点、男性軍5名で18点で、
今回も女性軍が圧倒しました。高得点句は再掲となりますが次のとおり(○印の数字は獲得点数)。

着ぶくれて酒蔵の郷(さと)徘徊す  見水  (6)
波自在更に自在に鴨の首       つきひ (4)
昆陽の里歴史ひもとき冬ぬくし    かをる (4)
ゆりかもめ舞い空中都市出現す   見水  (4)


句会を終え、場所を替えて忘年会。少し歩き、ブルワリービレッジ長寿蔵へ。小西酒造の古い酒蔵をリニューアルした建物で、黒くどっしりして天井が高く、ドイツレストランのような風格があります。
隅の予約席を陣取り、パーティーが始まりました。

「白雪は結婚式には出したらあかんねん。とけて流れるゆうて」
「ひろひろさん来たかったやろな」
気の利いた小鉢や料理が運ばれてきます。ビールや清酒もいろんな種類を少しずつ組み合わせて出してくれるので、女性軍も満足そうです。

酔わないうちに表彰式を、と、見水氏に賞品の白雪のボトルが手渡されます。「一言」と言われて、「鬼貫の水鳥の句に挑戦した『よたよたと…』の句に一番苦労したんですけど0点でした」。
つきひ先生、「本歌取りも句会ではやることがあるけど、きょうは伊丹での句会なので鬼貫さん風の奇抜で大げさな句に点が入ったようね」。

12月9日は俳句の世界では漱石忌ですが、見水氏56歳の誕生日でもありました。優勝は、鬼貫さんからの誕生祝いだったのでしょう。

最後に、鬼貫の「歳暮」の一句。
 

惜しめども寝たら起きたら春であろ 鬼貫 

お世話いただいた蛸地蔵氏とだっくすさんに心から感謝。

                                      (2007歳末 mimizu記)

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