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農民の世界歴史(連載第35回)

2017-03-15 | 〆農民の世界歴史

第9章 南北アメリカの大土地制度改革

(2)ラテンアメリカの半封建的大土地制度

 スペインとポルトガルの侵略・植民によって形成されたラテンアメリカでも、当初は黒人奴隷がプランテーション労働力として使役されたが、奴隷制プランテーションはブラジルを除けば、定着しなかった。それはスペイン領で黒人奴隷が導入されたのは先疫病などで激減した先住民奴隷の代替手段であったところ、18世紀頃になると、先住民数が回復し始めたためであった。
 そうしたスペイン領―ラテンアメリカの大半―では、アシエンダ制と呼ばれる大土地所有制が立ち現れる。これは北アメリカでは絶滅対象でしかなかった先住民(インディヘナ)を主要な労働力として使用する農場経営の形態であった。
 その起源はいったん激減したため無主となった先住民の伝統的保有地をスペイン当局が改めてスペイン入植者に恩貸地として与えた一種の封土に由来するため、アシエンダ地主は裁判権・警察権まで掌握する封建領主的な存在となった。
 従って、その構造はプランテーションよりは中世の荘園に近い旧式のものであり、農奴的な零細小作人に耕作が委ねられた小作地と農業労働者を使用する直営地とから構成されていた。ただし、地主は現地不在のことが多く、いわゆる寄生地主的である点では近代的地主制度に近い面も備えるなど、複雑で過渡的な構制を持つ制度であった。
 19世紀に独立運動を担ったラテンアメリカ生まれの白人(クリオーリョ)らの多くもアシエンダ地主であったから、彼らが築いた独立諸国においてもアシエンダ制は当然温存され、近現代のラテンアメリカ農業経済の基層を成すこととなった。それは白人系の地主階級と先住民系の農民階級というかなり鮮明な階級格差構造を諸国に形成する要因となった。
 一方、ブラジルでは先住民が広大なアマゾンの密林で文明未接触の伝統生活を送っていた特殊性から、先住民を労働力として動員することが困難であったため、19世紀末までアフリカのポルトガル植民地から移入した黒人奴隷を使役する北アメリカ型のコーヒー栽培プランテーション(ファゼンダ)が構造化された。
 ファゼンダは奴隷制がようやく廃止された後も、改めて南欧やアジアから徴募した契約労働者を使用する形態に移行してなおも持続していった。ただし、ファゼンダにおいても地主は私的な裁判権・警察権を留保する封建領主的な性格を保持していた。
 こうしたラテンアメリカの大農場は19世紀後半以降、順次近代的プランテーションに更新されていくが、その階級的構造が本質的に変わることはなかった。そのため、20世紀に入ると、いくつかの国では革命ないしは革命に近い非常措置の形で強制的に改革の手が入るようになる一方、守旧勢力やその後ろ盾に座ったアメリカの妨害・反撃により失敗に終わるケースも少なくなかった。

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