油屋種吉の独り言

オリジナルの小説や、随筆をのせています。

いやな予感 その1

2017-06-15 17:23:46 | 小説

 イサムの住居は、一戸建ての町営住宅。
 活性化を図ろうと、町が低い山を切り開き
苦労して造り上げた工業団地に、採算ありと
都会からいくつかの企業がのりこんで来た。
 彼の父はそのうちの一企業の管理職につ
いていることもあり、優先的に住めた。
 それは彼が小学五年の時のことで、もう三
年が経っている。
 タケルはイサムの勉強部屋に入るなり、
 「いい家に住んでるね。おれの部屋なんて、
昼間でもうす暗いんだ、裏手に竹藪があるし」
 と言った。 
 「この辺は田んぼや畑が多いし、きみんち
昔からの農家なんだろ。しかたないさ。家っ
てねそのうちの仕事にむいたようにできっち
ゃうもんだし」
 「ああそうだよ。しかたないね。じいちゃ
んとばあちゃんが苦労して建てたんだ。何回
も母ちゃんは、その話を身うちや親せきの人
に聞かされたって言ってた」
 「すばらしいじゃん。ぼくが代わりにそん
な家に住んでみたいくらいだよ」
 「そうか、そんなもんかな。でもさ、住ん
でみたらいろいろあるんだぜ」
 「いろいろって?」
 「まあ、それは古いしさ」
 タケルはそれ以上何もいわない。
 イサムがじっとタケルの眼を見たものだか
ら、タケルはあらぬ方を向いてしまった。
 タケルの様子がおかしい理由が、そのあた
りにありそうに思え、イサムはそれ以上彼を
追求することをやめた。
 イサムはつくり笑いを浮かべ、
 「喉がかわいたろ。歩きで来たんじゃ。け
っこう時間がかかったろ。ずいぶん離れてる
し。コ―ラでも飲もうや」
 と言ってから、台所に向かった。
 タケルはイサムの部屋を見まわした。
 だれの写真だろう。
 若い男の写真が、机の上に飾られている。
 眼鼻立ちがイサムに似ているように思える
から、ひょっとしたら、彼の祖父かもしれな
かった。
 机の上の本棚には、タケルが見たこともな
いような厚い本がずらりと並んでいる。
 百科事典や図鑑のたぐいだ。
 壁には世界地図や年表などとならんで、人
気アイドルの女の子たちの写真が二、三枚貼
られている。
 小学校でもらったのだろう。
 絵画や書道の表彰状が額に入れられ、いく
つも展示されていた。
 「さあ飲んで。冷蔵庫にしばらく入ってた
から、よく冷えてると思うんだ」
 イサムがコーラの入ったグラスを、タケル
に差しだすと、タケルは、
 「どうもありがとう」
 と受け取り、ゴクゴクとのどを鳴らして飲
みほした。
 「ああ、おいしかった。ごちそうさま」
 「どういたしまして。タケルの元気な声を
聞くと、ぼくは嬉しいよ」
 「ほんと?」
 「ほんとだよ。だってぼくたち親友なんだ
もの」
 タケルはきっと何かで悩んでいるに違いな
かった。
 小学生の頃は、ぜんぜんそんなふうには見
えなかった。
 そのわけが知りたいと思うが、簡単に切り
出せない。
 あえて話題にのぼらせない方がお互いのた
めになると、イサムは思った。
 タケルが、あのね、イサムと言いだすのを
待つことにした。
 ふたりは畳の上に敷かれた、舶来の絨毯の
上にすわりこんでいる。
 「ずいぶん高そうだね。このじゅうたん」
 「ぜんぜん知らない。お父さんが中東へ出
張したときに買ったんだって。それよりこれ
食べる?ぼくお小遣い少ないし、いつだって
食べれるようなものしかないんだ」
 イサムが出した駄菓子は、黒砂糖でくるん
だふわふわしたものだった。
 「ああ、おれも好きなんだ、それ」
 「良かった」
 タケルは右手でそれを持つと、大きく口を
あけ、がぶりとやった。
 粉々になった菓子が、ぽろぽろと絨毯の上
にこぼれ落ちる。
 「ごめんごめん。上等のじゅうたん、よご
しちまった」
 タケルはそう言いながら、左手を器用に使
い、粉をひろいはじめる。
 「そんなことしなくっていいよ。あとで掃
除機かけとくからさ」
 「うん、でもなんだかわるいからさ」
 「わるかないよ。あんまり気をつかわない
でね」
 「うん。イサムんちってさ猫いないんだね」
 「そう、あちこちひっかいたりするしね。決
まってんだ。犬や猫はかっちゃだめだって」
 「ふうん。おれんちなんていっぱいいるよ。
ねずみなんてくわえて来るから、大さわぎさ」
 「いっぱいって、なん匹くらい」
 「五、六匹だと思うけど」
 「はっきりわかんないんだ」
 「うん。母ちゃんや妹が好きで、もらって
きたり、ひろって来たり」
 「へえ、驚いた、わざわざ拾ってくるんだ」
 「そうだよ、まったく。俺はあんまり好き
じゃないんだ。にゃおにゃおうるさいしね、冬
なんてふとんに入れてくれって、ごろごろね
だるし。のみをあちこちにまき散らしたりす
るもんだからかゆくてかゆくて」
 「へえ信じらんない。かわいいじゃないか。
ぼくなんて一匹もかえないんだよ」
 ふたりは、それから一時間くらい、テレビ
に線をつないで、今はやりのゲームを楽しん
だ。
 「そろそろ帰らなくっちゃ」
 「まだいいじゃないか。母さんがもどって
くるまで、まだ一時間くらいある」
 「うん。そう言ってくれるのはありがたい
んだけど」
 タケルはそれだけ言うと、持参したゲーム
ソフトをビニル袋にしまい、立ち上がった。
 「忘れ物はない?ほかには」
 イサムは、それとなく、タケルが言いたかっ
たことがしゃべりやすいようにしむけた。
 「あっ、そうだった。わるいけど、もうい
っぱいコ―ラのましてくれる?」
 「オッケー、ノウプロブレム」
 「今なんて言ったんだい、おぼっちゃま」
 「問題ないって、おかわり自由ってことさ」
 「ふうん、イサムって英語できるんだ」
 タケルは上がり口に腰かけ、グラスを空に
すると、それじゃと言いながら、玄関のドア
ノブをつかんだ。
 ドアの表面を見つめたまま、しばらくたた
ずんでいたが、
 「あのね、イサム。ちょっとそこまで出ら
れないかな。うちの中じゃ話しづらかったん
だ。写真の人に聞かれてるようで」
 と言った。
 


 
 
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