油屋種吉の独り言

オリジナルの小説や、随筆をのせています。

ゆがむ その2

2017-07-17 17:37:07 | 小説

 その夜あゆみは昼間興奮したせいかなかな
か寝つけなかった。
 柵を乗りこえる羊を思い浮かべ一匹二匹と
かぞえはじめたが、そのうちなんと羊がたけ
しに変身する始末。
 考えもしなかったたけしの告白。
 あゆみの驚きは大きかった。
 彼の言葉やしぐさがいやでもありありと思
いだしてしまう。
 これだけ興奮しちゃとても眠れやしないわ
と彼女は足音をしのばせ階下におりた。
 目がさえ、喉はからからだ。
 つめたい水でも飲もうと台所に向かった。
 普段はめったに気にならない柱時計のコチ
コチいう音がやけに大きく聞こえる。
 ぽとりぽとりと音がするのは浴室だろう。
 かれこれ午前二時。
 自分の家でも夜間は怖いものだ。
 怖さをまぎらすために、彼女はどうでもい
いことをぐだぐだつぶやきはじめた。
 「両親は奥の間で寝ているから少しくらい
音を立ててもだいじょうぶだし、兄のようす
けは街の大学に行くため、春からうちを出て
しまって留守だ。いちばんのさわがせ屋は飼
い猫のマリだが、彼女はあゆみの部屋で寝て
いるはず、ドアを外からロックしたから外に
出たくても出られやしない」
 あちこち電灯をつけてまわるわけにはいか
ないから、小さな懐中電灯をもってきた。
 茶の間のガラス戸が少し開いていて、まめ
電球の淡いあかりが廊下を照らしていた。
 茶の間がしんとしている。
 昼間のにぎわいがうそみたいだ。
 彼女が苦手なのは仏壇。
 先祖さまの位牌がならんでいるだけなのだ
が、たくさんの眼が茶の間を見つめている気
がする。
 いつのお盆だったが、母のともこが寺の和
尚さま拝みにがいらっしゃるのを忘れた。
 すると彼女の夢の中にツヅミを持った祖母
がでてきて盛んにトントン鳴らした。
 うそのようなほんとの話だ。
 もうすぐあの鏡とご対面だ。
 彼女の胸のドキドキが激しくなる。
 見たいような見たくないような複雑な気持
で洗面所の見える廊下の角まできて彼女はそ
っと目を閉じた。
 意を決してうす眼を開けると洗面所から灯
りがもれだしている。
 電灯の明かりとは色がちがう。
 何がどうなってるのだろう。
 あゆみは怖くなったが好奇心の方がうわま
わり、懐中電灯のスイッチを入れると洗面所
につき進んだ。
 見覚えのあるしぶ茶色の着物の裾が右から
左にすうっと流れた。
 一瞬心臓がとまるかと思うほどに驚いた。
 (あれは亡くなったばあちゃんがよく身に
つけていたものだわ)
 と小声で言った。
 えいっと声をあげ、祖母の鏡の前に立った。 
 表面から淡い金色の光が放たれている。
 それは蛍の光のようで、ついたり消えたり
していた。
 次第に怖さは薄れてくる。
 彼女の胸になつかしさがこみあげてくる。
 鏡にうつった自分の顔が一瞬ゆがんで見え
たがすぐに幼女の頃のようなはりのある顔に
なった。
 「どう?元気にしてますか」
 祖母らしい声がどこからか聞こえた。 
 
 
 
 
 

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