油屋種吉の独り言

種吉が今と昔のお話をいろいろに語ります。

ちょっと変わったやつだけど。 (1)

2016-10-16 13:14:21 | 小説

 首都圏からほんの少し離れた都会のマンショ
ンの一室。
 ひと組の若い男女が電気ごたつをはさんで
向かい合っている。
 ふたりともこの県にある私立大学にかよっ
ている。
 男は左手にスマホをもち、ゲームに夢中。
 女のほうはこたつの中に両足をのばし、部
屋の片隅に置いてあるテレビを観ているがど
ことなくうわの空。
 時々窓の外をながめてはため息をついた。
 「ねえ、こんなにいいお天気なのよ。たま
には公園にでも行かない」
 「・・・・・・」
 「ねえったら、ゆうき、聞こえないの」
 彼女は右足で彼の脚をかるくつついた。
 あまりに返事をしないので、彼女は尻に敷
いていたざぶとんを彼に向かって投げた。
 彼が持っているスマホを直撃し、彼の手か
ら畳の上に落ちた。
 憤って自分にむかってくることを期待した
彼女だったが・・・・・・。
 「みかったら、まったく個性的なんだか
ら」
 彼はそう言っただけで一向に怒らない。
 おもむろにスマホを拾いあげ、ふっふっと
息を吹きかけると再びゲームを続けるのだっ
た。
 「どこへも行かないのね。どうしても」
 「ああわるいね」
 「わたしにはぜんぜん興味ないのね。これ
でさよならしても悔いはないんだ?」
 彼はそれにも何らの返事をしない。
 ちらと彼女のほうを向いただけで、右手で
ちゃぶ台にのったコーヒーカップを取るとゆ
っくり口に運んだ。
 「どこかのおじいちゃんみたい。まるっき
り草食系。もうこれきりにしようね。今まで
ありがとう」
 彼女はさっさと立ち上がると自分が飲んだ
カップだけ持ち、洗い場に運んだ。
 スポンジに液体状の洗剤をふりかけ、カッ
プをごしごしふいてから蛇口をひねり、水を
ジャアジャア出した。
 「どいつもこいつもどうしてこんなつまら
ない男ばかりになってしまったんだろう。私
が望むのはもっと強い男。そんな人が目の
前に現われないかしら」
 と小声で言った。
 彼女は上がり口に立つと、彼がいる四畳半
の部屋に向かってかぶりを振った。
 ドアをあけると一匹の小ぶりの恐竜が立っ
ていた。
 肉食獣らしく、ぐわっとあけた口から薄汚れ
たとがった牙が見えた。
 彼女は驚いて腰をぬかし、マンションの壁に
もたれてしまった。
 どのくらい時間が経ったろう。
 部屋の中で言い争う声がしばらく聞こえて
いたが、ぎゃっと叫び声が上がったのを最後
に静かになってしまった。
 再びドアが開いた。
 今にも食われるかと、彼女がぶるぶる震え
ていると、
 「何か用だったのかい」
 と、あの恐竜が野太い声をだした。
 彼女はぽかんと口をあけ、相手をじっと見
つめた。
 霧が晴れ、山ひだがはっきりしてくるよう
にそいつの正体があらわになってくる。
 改めて観察しようと、彼女は両の目をこす
った。
 見るからにこわもてで、髪の毛が長い。
 きちんとせずぼさぼさである。
 一応いけめんの仲間に入るゆうきとはまっ
たく違うタイプだ。
 裾の長い時代物のオ―バ―コートを身に
つけていた。
 あたしが草食系なんて思ったから、神様が
見せてくださったのかしら?
 思わぬまぼろしに、彼女は自分の言動を改
めようと思った。
 しかし、彼女は大の面食い。
 えらがはり、団子っ鼻で無精ひげの男には
興味がなかった。
 どういうわけか、彼の体からすえた匂いが
漂ってくる。
 彼女はきっとしたまなざしをし、彼から顔
をそむけるとさっさと立ち去ろうとした。
 十メートルくらい歩いたところで、誰かが
むんずと彼女の肩をつかんだ。
 今出逢ったばかりの恐竜男だった。
 「おい、俺ひまなんだ。ちょっとつきあえ
よ」
 「だってあなたはゆうきに用があるんでし
ょ」
 「もうあいつに用なんかないよ」
 どうしたわけか彼は舌をだし盛んに動かす。
 彼女にはそれがひとつの生きもののように
思えた。
 「あいつはこの中さ」
 彼はぽんぽん出っ張った腹をたたいた。
 「ばかみたい。そんな冗談言ってさ」
 思わず彼女は笑った。
 「笑ったね。こりゃいいや」
 彼は地上に降りるまで、エレベーターを使
わず階段を使った。
 「いい所に連れてってやるよ」
 彼女は引きずられるように彼の車に乗り込
んだが、おいそれと助手席にすわるわけには
いかない。
 後部座席のドアをあけようとすると、
 「いいじゃないか。前にすわれよ」
 「ばかね。知り合ったばかりじゃないの」
 彼は慣れないのか発進に手間どり、ノック
をくり返す。
 「ほんとにだいじょうぶ?これドイツ車み
たいだけど、まじであんたのなの」
 「ああそうさ。おやじが買ってくれたんだ」
 どことなく胸がわくわくする自分がいるの
に気づいて、彼女は驚くのだった。
 
 
  

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2 コメント

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拝読していて大阪旅行を思い出しました (松庵)
2016-10-18 18:04:34
種吉さん、こんばんは。
掌編、拝読いたしました。
読んでいてふと、二年ほど前に大阪に行った時のことを思い出しました。
近距離電車の車内で、駅の改札で。とにかくカップルがくっついて、互いの方を見ていたことが印象的だったのです。
東京では、おそらく付き合っているのではないかと思わしき男女でも、電車の扉を挟んで両側にたち、それぞれがスマートフォンをいじっている光景も珍しくはないので、とても面白い違いだなと思ったものです。
コメント、ありがとう。 (種吉)
2016-10-21 11:34:13
コメントいただいていたのを今気づいたばかりです。感謝いたします。あまり考えることなしに書いてしまいましたので拙作になりました。たまには肩の力をぬいてみることも必要かな思います。歳も歳ですから若者のことが気になったしだいです。

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