油屋種吉の独り言

種吉が今と昔のお話をいろいろに語ります。

みゆ、十五歳。 その11

2017-04-20 15:14:28 | 小説

 みゆが校門を通りすぎようとした頃には、
それはすでにほぼ閉じられ、人ひとりがやっ
と通りぬけられる程度。
 あたりを見るが、誰もいない。
 ほっとして彼女は足早に歩み去ろうとした。
 「ちょっと待て。そんなあまいものじゃな
いぞ」
 ふいに横合いから野太い声がかけられ、み
ゆはぎょっとして立ちすくんだ。
 「遅れてすみません」
 彼女はうつむいたままで言った。
 「すみませんで、すまないぞ、理由を言え、
理由を」
 「はあ、それが」
 つづきを言いたいが、うまい具合に言うこ
とができない。
 ブルドックに似た顔をした、小柄でずんぐ
りむっくりの中年教師が、校門わきにいるか
ら注意して、と、みすず先輩が教えてくれた
ことがあった。
 彼が差しだした黒い手帳に、学年、組、氏
名を書き、彼女はやっと学校の敷地に入るこ
とができた。
 教室に入るのは、もっと困難だった。
 すでに、朝の会は始まっている。
 担任の美術教師、森山玲子が、出欠をとっ
ているところだった。
 みゆは、教室のうしろのドアを、できるだ
け音を立てずに開けようとしたが、ボンと音
がして、何かが彼女の肩に当たった。
 チョークの粉をいっぱいにまぶした黒板消
しだった。
 いっせいに、クラス全員の視線が彼女にそ
そがれてしまい、彼女はどうしていいか、わ
からない。
 彼女の顔までが、白くなっている。
 思わず彼女は鞄をかかえ、床にすわりこん
だ。
 クス、クスッという笑い声が、教室のあち
こちで起こった。
 「静かになさい。川上さんだって、何かわ
けがあって遅れたんでしょ。みんなして笑い
ものにするもんじゃありません」
 元おにゃん子で、歌手の城の内早苗さんに
似ている八頭身美人が、甲高い声でいった。
 えこひいきせず、ものごとを素直に表現す
る彼女を、みゆは入学当初から尊敬している。
 「遅れてすみませんでした」
 みゆはそう言いながら、演台のすぐ前の席
にすわり、左手に下げていた鞄を、机の引き
出しのなかにしまった。
 何かあったら、担任に相談しようと思うが、
きっとそんなことはできまい、と思う。
 チクったら、最後。徹頭徹尾、ハブられる
こと、間違いなしだった。
 みすずが自分に告げたことは、間違いない
だろう。
 この女子高に入ったばかりのくせに、もう
先輩の彼氏をとろうとするわるい奴。
 そんな評判が、あらゆる生徒の間で、立っ
ているはずだった。
 このクラスじゃ、誰がリーダーだろう。
 それを見きわめるのが大変だ、と、彼女は
うしろをふり返った。
 そのとたん、きりきりともみ込むような視
線が束になって、彼女のもとに飛んできた。
 四時限目の現代国語がおわると、昼休みだ
った。
 みゆは昼食をとる気にならず、ひとり、教
室をぬけだし、運動場にでた。
 自分の影がないのに気づき、彼女は空を見
あげた。
 いつの間にか灰色の雲が垂れこめ、今にも
雨が落ちて来そうだった。
 現在の自分の心境をあらわすような天気に、
彼女は自分なんかずぶ濡れになったっていい、
どうせわたしなんて・・・・・・。
 彼女はそう思い、運動場の隅にある、林に
向かって走り出した。
 
 
 
  
 
 
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