油屋種吉の独り言

オリジナルの小説や、随筆をのせています。

みゆ。十五歳。 エピローグ 

2017-04-24 21:10:57 | 小説

 「そうだよな。そう言われても、返す言葉
が見あたらないよな。普通なら、学校にいる
時間だもの。なのに、俺ったらこんなかっこ
うでさ」
 山上太郎は、みゆの目を見ない。
 いくぶん顔を青白くし、所在なげに左手を
動かす。
 花の香りでも、かごうというのだろうか。
 ゆらゆら揺れる、彼の左手が、店先に置か
れているバケツのひとつに近寄っていったか
と思うと、ほかの花よりぬきんでて長い、ピ
ンク色の百合のくきを、左手でもちあげ、ひ
ろしよりかっこうのいい鼻に、そっと近づけ
た。
 「なんだか変だわ。以前のたろうくんじゃ
ないみたい。この前、駅で見かけた時は、あ
んなに生き生きしてたじゃない」
 「そうだっけ。ご想像におまかせします」
 彼はそう言ってから、突然後ろ向きになり、
きょろきょろ首をまわした。
 「誰か、待ってるの。目つきが急に変わっ
たけど」
 「べつに、そんなわけじゃないけど」
 「これから、映画でもみますっていっても
おかしくないかっこうだしね」
 「そうかよ」
 彼の顔がふいに赤みをおびた。
 「あれっ、ひょっとして、オールフリ―で
も飲んでるとか」
 「ばかいえ。川上だって、人のこといえる
かい。花屋の店先で何やってるんだ。学校ど
うしたんだよ」
 「まあね」
 「まあね、じゃないだろが」
 ほんの短い間に、彼の話し方がとてもくだ
けた調子になっている。
 いったい、何が、彼をそうさせたのだろう。
 みゆの心の中で、彼への関心が、急速に高
まってくる。
 彼とむじゃきに遊んだ小学校時代のことが、
まるできのうのことのように思い出してしま
う。
 太郎が入学した高校は、県下一の進学校。
 授業が始まったばかりで、彼は、あまりの
レベルの高さに驚き、自分はついていけない
と感じたのだろうか。
 だったら、家にじっとしているはず。
 明るいうちから、街なかをうろつくなんて
考えられない。
 わたしだったら・・・・・・。
 みゆの心の中で、彼への関心が、急速に高
まって来る。
 ひろしのことは、今だって好きだけど。で
もこのままじゃ、ぜったいだめ。あいつは女
子高の先輩の彼氏だっていうし。もう二度と
彼の前に顔をだせないわ。
 ぽっかり空いた心のすき間を、うずめよう
とするかのように、彼女はなんとかして、こ
れからの自分の行動を正当化しようと思った。
 「よし、わかった。よかったら、今からわ
たしと付き合って」
 きっぱりと彼女はそう言い、いきなり彼の
左腕に、自分の右腕をからめた。
 「なんで、なんで。俺が川上と付き合わな
くちゃならないんだよ」
 「あらそう。太郎くん、好きな子を待って
たんだ」
 「違うって、いってるだろが」
 「だったらいいでしょ。久しぶりに会った
んだから」
 まわりにいる誰もが立ちどまり、ふたりの
言い合いを、ものめずらしそうに眺めた。
 「ほら、見なさい。みんながわたしたちを
見てるわ」
 「だったら、こんなことするなよ」
 みゆが歩きだしたが、太郎は、あえて彼女
の手をふり払おうとはしない。
 彼女の歩調に合わせはじめた。
 とこやの店先で、青と赤の曲線が交互にく
るくるまわっている。
 ふたりは立ちどまると、それをじっと見つ
めた。
 ぬいぐるみなんて、もう卒業するんだ。生
身の男の子の方がずっといいもの、女みたい
にねちねちしてないし・・・・・・。
 苦労したせいだろうか。
 みゆの考え方が、妙に大人びてきた。
 「なんか、俺、目がまわりそうだ」
 真剣な顔で、太郎がそう言うと、
 「そうね、わたしも」
 みゆはそう言ってから、にこっと笑った。
 
 
  

 

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