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グローバル工場−−−機能の階層(5)

2012-02-25 | ことばとコンピューター
前回のグローバル工場−−−機能の階層(4)の続き。

                         工場機能の階層図


(3)レベル2:MRP、工程管理
このレベルでは、MRP(資材所要量計画)が作成する生産計画を工場で生産する、すなわち、計画と実行のレベルである。整理・整頓がこのレベルのキーワードである。

1)レベル2の位置づけ
レベル2のMRPは、レベル1が把握した在庫数を将来の需要から差引き、生産計画を立案する。その生産計画を生産オーダー(指示書)として工場に生産を依頼する。生産指示で出来上がった仕掛品や完成品の数量は、レベル1の在庫管理が把握し、次の生産計画にフィードバックする。同時に、工程管理は生産実績データをレベル3に引渡す。

2)生産計画
生産計画の計画期間と方法は業種で異なるが、ここでは日用品や機械製品などの計画方法を説明する。

一般に計画期間は当月、翌月、翌々月の3ヶ月の日次計画である。計画は月末に立案するので、カレンダー上の翌月を当月という。この当月を確定月、翌月と翌々月を計画月という。この3ヶ月計画は、仕入先、外注先、顧客(製造業が顧客の場合)に共通で、世界に広がっている。

次に、主な計画法を説明する。

A.MRP
MRPは、完成品(製品)の3ヶ月計画にもとづき、BOM(部品表)で生産に必要な資材の所要量(必要数)を計算する。その計算には、総所要量と純所要量という概念がある。また、生産オーダーの着手日と完成日を計算する。着手日と完成日を約束として、その“約束を守る”、これがMRPの原則である。約束は、自工程(自分の工程)と前後工程との約束である。ある日時に待合せを約束したが、自分の都合でその時間前に行って相手がいないと怒るのは、怒る方が悪い。

ここでMRPの総所要量、純所要量、着手日、完成日を例題で説明する。
 例:
 ある完成品(製品)または部品または直接材料をAとする。
 2月15日のAの必要数を100個とする。⇒Aの総所要量=100
 2月15日のAの在庫数を30個とする。⇒Aの純所要量=100(総所要量)−30(在庫)=70
 Aが完成品または部品のとき、生産オーダー⇒生産指示数=70、完成日=2月15日
  Aの製造リードタイムを2日(稼働日)と仮定すると、着手日=2月15日−2日=2月13日
 Aが直接材料のとき、購入注文書⇒注文数=70、納入日=2月15日
  Aの購入リードタイムを5日(稼働日)と仮定すると、発注日=2月15日−7日=2月8日
  (5稼働日+土日=7日)

 もし、着手日または発注日が過去日付、たとえば昨日であればこの生産計画は手遅れである。
 解決方法:2月15日の総所要量を30個以下にするか、100個はそのままで日付を先送りする。

以上がMRPの基本的な計算方法であるが、MRPは安全在庫を考慮しない。もし安全在庫が必要な場合は、材料や部品をMRPからはずして、在庫管理システムで在庫を補充する。たとえば、手配日数が3ヶ月を超える材料は、再発注点法や定期発注法で在庫を補充する。また、為替や気候の変動で価格が大きく変わる材料は、相場を見ながら購買部門の判断で発注時期と数量を決定する。

B.MRP以外の計画法
製品の製作工数を工程ごとに積算する方法や手持ち在庫を事前に用意して生産変動に対応する方法、製造リードタイムを短縮して受注即時生産で対応する方法など、千差万別である。

バンコク周辺の日系中規模工場6社の経験では、エクセル/アクセス(Access)の生産計画だった。担当者の勘と経験で多めの完成品を生産し、顧客からの注文に対応していた。この内、2社はMRPの導入を試みたが、在庫管理システムで失敗、MRPも断念した。これらのケースは、日系ソフトハウスの支援で在庫管理からシステム化に着手するが、在庫管理も一朝一夕で成功するものではない。根気良く諦めずに工場現場を指導して在庫の精度を改善する。在庫管理の精度が安定したとき、MRPの導入を検討する。“根気良く諦めず”の努力がなければ、高価なMRPパッケージは真価を発揮しない。

C.線形計画/マルチタイムピリオド計画(Linear Programming:LP/Multi-time Period LP)
筆者の経験だが、石油業界の生産計画は時間(Time Period)を考慮したマルチタイムピリオドLPだった。

変数(未知数)の数は約3000〜4000、数式(不等式)の数は約2500〜3500の連立方程式をコンピューターで生成し、最適解を求めていた。1970年代初頭の大型汎用コンピューターで1回8時間前後の計算、この計算を何回も繰返して生産計画を最終化した。LPはコンピューターを占有するので、会計などの業務処理が終わった深夜の仕事だった。

近年のスケジューリングシステムはどのように発展したか、興味がある。そこで、2003年秋にアメリカの大学で聴講を試みたが、結果は前回のブログの通りだった。

なお、参考までに述べると、MRPの着手日と完成日はカレンダー日付で時間を考慮していない。このためMRPの結果を実行すると、一つの工程に負荷が集中することもある。

負荷の集中を避けるためには、その工程の生産オーダーの開始時間を調整する。この調整でスケジューリングシステムが必要になる。しかし、一般にスケジューリング問題は未知数の数が数式の数より多く、LPによるシミュレーションや人工知能を援用すべき分野である。実際には、工場長や生産計画担当者の直感と経験で生産計画を調整する。調整した計画をMRPで再計算し、試行錯誤で実行可能解を見つける。

3)工程管理
今から40年前、生産管理の師と仰ぐヤマハ発動機製造担当、根本文夫専務から工場の本質を教わった。それは、定位置・定員・定速の原則だった。

加工物を機械の上で正確に“位置決め”をして加工する。これは定位置の原則である。正確な位置決めは、高品質製品の生産に欠かせない基本動作である。

次に、工程設計では、工程間の作業工数を均等化/平準化する。これは定員の原則である。一連の作業を分割して、自動化を促進する。また、人手作業では担当者の習熟度を高める。A.スミスの分業(1776年)やF.ギルブレスの動作研究(1911年)は、近代的な工程設計の先駆けとなった。

さらに、コントロールを失った機械の急加速や急減速は故障や事故に結びつく。これは定速の原則である。定速は加工時間のムラやブレを防ぐとともに、安定運転と無事故に必要な条件である。

この定位置、定員、定速の原則は、整理・整頓という形で工場のいたるところに見られる。また、異物の混入を避けるために清潔も大切である。加工物の位置決めだけでなく、あるべきところに“もの”をキチンと収納する。在庫品も決められた棚にキチンと格納する。工具やフォークリフトも使った後に元の位置に返しておく。これが、工場の基本動作である。

安全基準を満たす通路に立てば、前後左右の壁面まで見通しが利く。そこには視界を遮る障害物はなく、床にビスやワッシャ、切り屑などの異物もこぼれていない。人の動きも整然とし、服装は清潔、駆け出す人もいない。これとは反対に、通路に仕掛品がはみ出し、材料置き場も乱雑、人はあわただしく働いている。このような工場は、忙しいにもかかわらず売れ筋製品は欠品勝ち、財務諸表も複雑で収益性は悪い。この工場では、休憩所、トイレ、食堂など従業員の出入りするところも清潔とはいい難い。

この“整理・整頓”は工場や事務所だけの問題でなく、従業員一人ひとりのこころの持ち方、精神論でもある。制服のボタンをかけていなかったので機械に巻き込まれたケースもある。折角の五体を傷つける痛ましさと同時に、これで連続無事故日数がリセットされる。

日系工場は、どこの国でも整理・整頓と従業員の躾けが進んでいる。当然ながら、製品の品質も信頼に値する。この日本流の整理・整頓は、和歌や俳句などの無駄のない整然たる文章に端を発していると信じている。それらの作品に共鳴する日本人の感受性は、日本特有の玄関先の掃き掃除や打ち水にも通じるところがある。タイの現場改善でも、時々機械周りの掃除ができるこころの余裕を持つように指導してきたし、またオペレーター達はそれに応えてくれた。

整理・整頓・清潔の点では、日系工場はどこでも光っている、しかし、そこには影もある。その影について一言説明する。

確かに日系工場のハード面やものづくりの職人技は良好(Excellent)である。目に見えるハード面はさておき、現在の工場経営者は、目には見えないソフトと人材への投資を忘れている。特にタイで見た日系工場のシステムとIT部門は人材面が脆弱、これは日本本社の投影図である。本来は、日本本社がサポートすべきだが、本社の人材不足(頭数の不足でなく能力不足)と言語障害が重なって、支援の手を伸ばせず現地任せ、すなわち、放任になっている。

このような事情で、バンコクには日系ソフトハウスが多い。当然の成り行きだが、多くの日系工場は日系ソフトハウスに支えられているといっても過言ではない。言い方は悪いが、いつまで松葉杖で歩くのか?と問いたくなる。

ソフトと人材の開拓と生産管理システムの改善、これで材料のロスと従業員の作業時間のロスを大幅に改善できる。また、ここに着目すれば日本の製造業の将来も開ける。この点で、一つの参考として次の事例を紹介する。

4)MRPの開発事例
1970年代中頃のヤマハ発動機、当時の国連加盟国より多い166ヶ国に製品を輸出しビジネスは急速に拡大していた。この拡大に対処するため、経営陣はコンピューターシステムの刷新を決断した。

当時の欧米では、IBMのMRPパッケージが爆発的に広まっていた。そこで、アメリカのMRPユーザー数社を調査した。しかし、当時の欧米のパッケージは日本のきめ細かな生産管理にはピタリとは思えなかった。パッケージのカスタマイズか否か、答えは自社開発だった。

そこで、本社と関連工場を含む素材加工、機械加工、表面処理、最終組立のシステム再構築がスタートした。当時の国内工場は8000人程だったと記憶している。システム部門から約30名、工場部門や関連会社から約30名をプロジェクトに人事異動、合計約60名の社員がフルタイムで参加する混成プロジェクト(Joint Project)だった。メンバー達は、システム仕様と運用方法を固めるために現場に入り込み、文書管理の専任者もアサインした。むろん、日単位のMRPが目標だった。

プロジェクトの目的は、第一にシステム開発による工場の業務改革と次世代の工場を担う人材の育成、第二にオンラインデータベースやバーコードの利用による社内システムの近代化、第三に関連会社や主要取引先とのデータ交換による緊密な業務提携だった。

このようなプロジェクトが6年の歳月をかけて開発した日本初のMRPは、1980年頃、本社工場で稼動し始めた。その工程は、職場単位で新システムと旧システムの並行運用、職場の安定とともに旧システムの切り離し、まさに工場機能の階層ピラミッドのレベル0、レベル1、レベル2の階段を一歩一歩登る歳月だった。

システムが全面的に稼動したとき、仕掛在庫が半減した(会計監査報告)、素材加工から最終組立までの製造リードタイム(所要日数)が短くなった、生産計画の修正が容易になり機会損失が減少したなどの効果があった。さらに、製造リードタイムの短縮で、部門間の風通しが良くなったのは予想外の大きな副産物だった。やがて、工場は機動力を回復し始めた。

また、人材開発の結果、元システムエンジニアの生産管理課長、元生産技術のシステムエンジニアなどが生まれ、今も活躍している。

このプロジェクトは、日立システム事業部とアーサーアンダーセンの全面的な協力を受けた。特に、レベル0の構築にはアメリカのアーサーアンダーセンからBOM専門家1名とデータベース専門家1名を招き、世界トップレベルの技術指導を受けた。さらに、ヤマハ発動機の技術提携先、マーキュリーマリーン(Mercury Marine, Brunswick Corp, Fond du Lac, WI)のシステム部からMRP開発の経験にもとづく実務的なアドバイスを受けた。この話は、両社のトップ同士の話が発端、メンバー達は日米を行き来して非常に友好的な支援を受けた。

ちなみに、バーコード読取端末の開発と設置を含む数十億円の開発費は、システムのフル稼働で一年以内に回収した。また、MRPのネットチェンジ法とデータベースの処理時間の改善でレンタル料月額約4千数百万円の大型汎用コンピューターの追加導入を回避した・・・システムトラブルによる再計算を想定して、MRPの目標処理時間を最大12時間とした(1日は24時間、再計算で24時間が必要)⇒エラーによる工場の混乱防止策。しかし、この目標を達成したので追加導入は不要と判断した。これは、コンピューター技術の日米専門家たちの成果だった。

このような金銭的なメリットはある程度は予測したものだった。しかし、最大のメリットは、旧態依然としたコード体系とシステムという将来の暗雲を払拭したことだった。当時の経営陣の「コード体系を刷新したい」との願いに十年近くの歳月で応えた。

システム、原価企画、購買、生産部門連名の稟議書を、社長をはじめとする5人の経営陣に説明したときのことを今も鮮明に覚えている。承認に当たり、当時の小池久雄社長のコメントは「君たちは苦労して投資に見合うメリットをはじき出したと見たが、それはそれで良い。しかし、企業は目先のメリットだけを追うものではない。このプロジェクトはやるべきこと、自信をもって進めなさい」だった。このとき、戦略システムの開発に踏み切る経営陣の姿を目の前に見た。

この事例は、関係者に改めて敬意を表すために実名で紹介した。

次回は、レベル3の原価・利益管理の説明に続く。
ジャンル:
ビジネス実用
キーワード
リードタイム ヤマハ発動機 アンダーセン 汎用コンピューター ネットチェンジ マーキュリー コンピューターシステム ものづくり 連立方程式 資材所要量計画
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