金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(戸倉村)2

2017-08-27 07:08:22 | Weblog
 俺の視線が動かないのに気付いたのだろう。
祖父が尋ねてきた。
「ダン、どうした、何か珍しいものでも見つけたのか」
 咄嗟に、思わぬ言い訳が口をついて出た。
「川の水は、どこから来て、どこに、流れているのかな」
 幼児口調で問い返すと、祖父は口元を綻ばせた。
「向こうを流れる川を、ようく見な。
西の山々に降った雨が、あの川に流れ込み、流れ流れて、
ずっと東にある海に流れて行くんだ」
「そうか、東の海に、雨が溜まるんだね。でも海ってなあに」
 勘違いした祖父が海の話をしてくれた。
川沿いに東へ下ると海がある、と言う。
東の集落の更に東、途中で道が途切れているが、
山を越えて三日も進むと海なのだそうだ。
入り江や砂浜があって港や塩田を造るのに適している、とか。
初耳だった。
 祖父の話しを聞きながらも、俺は行商人から目を離さなかった。
すると行商人がこちらに足を向けて来た。
橋を渡って中央の集落を目指すつもりらしい。
と、気になる別の人影を見つけた。
行商人から少し離れた後方に二人。
よくよく見ると、村人であった。
二人は時折、耳打ちしながら、行商人を尾行していた。
 あれは十日ほど前のことだった。
村を訪れた領内巡視の役人が父に、
「このところ隣領にも盗賊団が出没するようになった」と語り、
「こちらの領地に流れて来るかも知れん」と注意を促した。
 父はその日のうちに村の主立った者達を集めて、
盗賊団対策を話し合った。
その中に今、尾行している二人の顔があった。
 盗賊団の下見の者が行商人に扮している、
とすれば全てに納得がゆく。
俺は安堵して視線を祖父に向けた。
「お爺さま、お腹が減った」
「そうか、そうか。屋敷に戻るか」
 夜半から雨が降り始めた。
翌朝には本降りとなって、二日降り続いた。

 六日目の深夜を過ぎた頃合いであった。
俺は胸騒ぎで目を覚ました。
なにやら・・・、勘を信じて五感を解放した。
 脳内にモニターをイメージした。
巨大画面に村の全景を映した。
俯瞰図。
情報量が多すぎた。
そこで人のみの表示に切り替えた。
大勢が緑色で表示された。
動きがないことから寝ている、と分かった。
村内に怪しい動きはなく、平和に寝静まっていた。
侵入して来るとなれば西か北だろう、と当たりをつけた。
その西の集落の外側に見つけた。
多数の緑色と茶色、二色が点滅していた。
点滅は動いていることを裏付けていた。
緑色が人、茶色は馬。
三十数人と三十数頭。
賊の一団、と判断した。
賊は馬から降りて、手綱を引きながら進んで来る様子。
物音が一つとして漏れていないのは、
声を出させないために人と馬に枚を銜えさせている証。
熟れた連中のようだ。
 どうやら連中には魔法使いがいないらしい。
通常、敵中を進軍する時は、
探知魔法が使える者を同道するのを常とするが、気配が全くない。
賊風情では雇えないのかも知れない。
まあ、それも無理からぬこと。
探知魔法を使える者は希少で、引く手数多なのだ。
代わりに偵察要員として獣人を雇うのだが、それもない。
 賊の一団は村で飼っている犬・猫に騒がれぬように、
気配を消して侵入して来た。
西の集落を音もなく通過した。
連中の目指すところは分かっていた。
屋敷の蔵に違いない。
下見しているせいか、迷いがない。
 下見の者が見逃している点が一つあった。
村には人ばかりではなく獣人もいる、ということだ。
数こそ少ないが、五家族を村人として迎え入れていた。
獣人の特徴は屈強・俊敏な戦士というだけではない。
目・耳・鼻が優れているので偵察・警備要員としても使えるのだ。
 すでに獣人達が蠢き始めていた。
村人のうちの点滅する緑色が、それだ。
勘働きで賊の侵入に気付いたのだろう。
段取りに従い、夜目の利く彼らは灯りを点けず、
小声で村の家々を起こし回っていた。
前もって賊の襲来を想定していたので、無用の混乱は生じていない。
 下の二階に寝ている父が、獣人の一人に起こされた。
屋敷内の長屋の男達は既に身支度を整え、
内庭で迎撃の準備を行っていた。
 村人の一人が青い点滅に変わった。
場所からすると神社の宮司。治癒魔法の使い手。
獣人に起こされなくても漂う雰囲気から、それと気付いたのだろう。
彼は宮司としての役目柄、治癒魔法に特化しているのだが、
他の魔法が使えない分けではない。
ただ、本人が自覚しているように、何れもが低レベルなのだ。
おそらく今、この瞬間、探知魔法を発動したに違いない。
 俺は低レベルの魔力を読み取った。
困った。
探知魔法が俺の五感開放に接触するかも知れない。
居場所の特定までは難しいだろうが、興味を持たれたくはない。
慌てて自分のスイッチをオフにした。
 階下から上がってくる足音がした。
軽い足音からケイトと知れた。
獣人の娘で俺より二つ上。
 ノックもなく、ドアが開けられた。
俺も夜目が利いた。
両手を上げて彼女を迎えた。
「まあまあ」とケイト、視線を合わせ、
「変な子よね。私達みたいに耳も夜目も利くんだから」呆れながら、
愛おしそうに俺を抱き上げた。
 二つ上でも獣人の成長は早い。
見た目は、俺の五つ上の次兄・カイルと同じ体躯であった。
獣人は全身毛むくじゃら、という分けではない。
特徴は耳と尻尾、毛髪の色にあった。
男は尖った堅い耳と、長くて太い尻尾。
女は長くて柔らかい耳と、丸くて短い尻尾。
毛髪は男女ともに黄色。
他の部位は人と変わらなかった。
 ケイトは俺を胸元に抱えながら、二人の兄達を起こして回った。
「声を出しては駄目だそうです。
分かったら、静かに一階まで下りますよ」

 月明かりが盗賊団に味方した。
足元が見えるので誰一人躓くことなく、侵入は滞らずに行えた。
 先頭の首領の口元は綻んでいた。
内心の喜びが隠せなかった。
なにしろ戸倉村はお宝の山のようなもの。
辺境の地にあるので今まで気にも留めなかったが、
領都で仕入れた情報によると、
戸倉村は米・麦だけでなく、牛・馬を飼い、その上、
木材・石材の加工に鍛冶をも行っているとか。
そして村最大の収益源は馬車の製造。
台数こそ少ないが、
製造される荷馬車・幌馬車・箱型馬車は最高の仕上がりなので、
商人達は高値でも喜んで仕入れるのだそうだ。
 彼は村長の蔵には、お宝が眠っていると確信した。
それに時間が余れば、集落全ての家捜しも出来る。
略奪品を積む馬車もあるとなれば、さらに欲をかくもの。
馬車に余裕があれば、村人を拉致して奴隷としても売りさばける、と。
 中央の集落は目前、彼は命じた。
「馬に乗れ。これより突っ走り、蔵を襲撃する」
 一斉に鬨の声が上がった。
鼓舞する為だけに荒っぽい手段をとった分けではない。
手下一同の怒号と馬の嘶きで村全体を恐慌に陥れる目的もあった。
これまでは、この手法で相手側の士気を挫いた。




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