内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

愛するための必要十分条件としての〈知ること〉― エンリコ・マラト『ダンテ』仏訳刊行に寄せて

2017-05-18 13:53:17 | 読游摘録

 私の好きなフランスの出版社の一つは老舗 Les Belles Lettres 社です。今年に入っても次々と良書を刊行してくれています。しかも、造本がしっかりしているのに、価格設定が良心的なんですよね。ただ、こちらとしては、あれもこれも欲しくなってしまって書籍購入費がどんどん嵩んでしまうのは困ったことなのですが。
 先日同社のメルマガが送信されてきて即注文し、一昨日入手した先月の新刊の一冊が、Enrico Malato, Dante です。著者は現在のダンテ研究の世界的権威の一人であり、本書は、著者の数十年に渡るダンテ研究の成果に基づいた、現代のダンテ研究の最高峰に位置する業績です。イタリア語原版の初版は1999年に刊行され、2009年に第三版改訂増補版が出ています。仏訳はもちろんこの最新版に拠った訳です。日本語訳はまだのようですね。
 本書は、全部で二十章からなっています。その前半第一章から第十二章までにおいて、まず、第一章でダンテが生まれた当時のフィレンツェの政治的・経済的・社会的・知的状況を簡潔に描出してから、知的伝記という体裁を取ってダンテの詩人としての形成過程を詳細に辿り、次いで、『神曲』に至るまでの文学的・文献学的諸問題を丁寧に検討しています。後半をなす八章のうち六章が『神曲』の精密な作品分析に割かれており、第十九章がダンテの散文とダンテにおけるラテン語についての考察に充てられ、最終章第二十章で時代の証人としてのダンテの偉大さと『神曲』の後世への影響と作品に込められたメッセージを読み解くことで本書は閉じられています。
 まだところどころ覗いただけですが、著者の己の学問研究に対する厳格さゆえのどこまでも謙虚な姿勢と、それゆえにこそ向けられる他の研究者たちの恣意的な断定に対する厳しい批判とに強烈な印象を受けています。
 初版の前書きの最後の段落の仏訳を引用します(p. 13)。

Les solutions qui nous ont à chaque fois permis de résoudre les divers problèmes abordés ne prétendent pas être la solution. Toutefois, ce sont des propositions réfléchies, fondées sur une étude assidue des textes — menée toujours avec l’aide du « conseil fidèle de la raisons » —, et nullement dictées par le désir narcissique de proposer une solution originale à tous prix. Si, grâce à la lecture de ces pages, les jeunes lecteurs peuvent acquérir une meilleure connaissance de Dante et de son œuvre, alors ce travail aura atteint son objectif, car je suis persuadé que connaître Dante est la condition nécessaire et suffisante pour l’aimer.

本書で取り組んだん様々な問題を解くことをその都度可能にしてくれた諸々の解決法は、それが唯一の解決法であるなどと主張することはありません。しかしながら、それらの解決法は熟慮された上での提案であり、長年継続されてきたテキスト研究に基いています。それは「理性の裏切ることなき助言」にいつも助けられながら続けられてきました。独創的な解決法を何が何でも提示したいという自己満足的欲求などにはいっさい引きずられていません。もしこれらの頁を読むことで若い読者たちがダンテとその作品についてよりよく知ることができれば、この仕事はその目的を達したことになります。なぜなら、ダンテを知ることがダンテを愛するための必要十分条件である、そう私は確信しているからです。












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