内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「超人間」あるいは「人間以後」を考えるためのエンサイクロペディア ― Encyclopédie du transhumanisme et du posthumanisme

2017-02-07 06:43:14 | 読游摘録

 Gilbert Hottois, Jean-Noël Missa, Laurence Perbalの監修による L’humain et ses préfixes. Une encyclopédie du transhumanisme et du posthumanisme, Vrin, coll. « Pour demain », 2015 は、大変野心的かつ極めて興味深い企画である。
 科学技術が人間の生存の仕方に現在もたらしつつあり、今後ますます多様かつ発展した仕方で引き起こすであろう諸種の変化は、人間の定義の変更さえも迫ることになるだろう。科学の進歩とともに、人間はどこまで変わっていくのか、どこにその限界があるのか。Transhumanisme の信奉者であれ、その批判者であれ、これらの問いは避けて通れない。生物としてのヒトは、古生物たちと比べれば、それらとは似ても似つかぬほどに「進化」しているのだから、現在のヒトの形がそのままであるとはかぎらない(もっとも、それまで地球がもつかどうかという別の大問題があるが、今はそれは措く)。現代の私たちは、実際、 posthumanisme の時代に入ろうとしているのかも知れない。
 このような状況認識を共有したフランスとベルギーの28人の哲学者・生物学者・医学者たちが、人間そのものをめぐる現代の科学的状況をそれぞれの専門の観点から解析し、その上で哲学的・倫理的・社会科学的な考察を展開している。
 事典のような形式が採用されており、問題となる諸概念が目次を見れば一目瞭然になっている。全体が三部に分けられており、第一部が「哲学と倫理学」、第二部が「科学技術と改良医学」、第三部が「技術、芸術、サイエンス・フィクション」とそれぞれ題されている。
 第一部では、trans/posthumanisme に関わる哲学的・倫理的議論が主題的に取り上げられている。 « Trans/posthumain » という概念を積極的に肯定する立場とそれを真っ向から批判する立場とが公平に紹介されている。
 第二部では、第一部での議論が、医学・生物学・遺伝子工学の現場で、さらにはスポーツの分野で、どのような問題として提起されているか、これからされうるかが通覧されている。そして、それらの現場での現実(近い将来の現実も含めて)と空想的思弁(それが楽観的であれ悲観的であれ)とを区別することに特に注意が払われている。
 第三部では、科学技術と芸術的創造との相互作用が主題とされている。とりわけ、trans/posthumain に関わるテーマが頻繁に取り上げられれるサイエンス・フィクション(漫画やアニメも含まれる)と科学技術との関係に多くの頁が割かれているのが注目される。
 この夏の東洋大学大学院哲学科での集中講義で取り上げるテーマとも密接に関連しており、私自身の現在の哲学的問題関心にとって重要な示唆を与えてくれる貴重な文献の一つである。











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