内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

欧州統合の負の遺産に喘ぐヨーロッパ社会

2017-02-21 16:45:15 | 哲学

 マーストリヒト条約が調印されたのが25年前の1992年2月7日のことである。同年9月にフランスでその批准を問う国民投票が行われ、投票率69,7%、賛成51,05%で辛うじて批准された。日本にも度々来日している世界的に著名なフランス人歴史人口学者・家族人類学者エマニュエル・トッドは、この国民投票でマーストリヒト条約批准に反対票を投じている。
 その理由を彼は L’invention de l’Europe の第二版(Seuil, coll. « Points Essais », 1996年の前書きで簡潔に説明している(1990年刊行の同書の初版の邦訳はその二年後に『新ヨーロッパ大全』というタイトルで藤原書店から二巻本として出版されている)。その理由は、人類学者・歴史学者としての彼自身によるヨーロッパについての以下のような洞察に根拠づけられている。
 ヨーロッパ的価値と慣習の多様性について自覚的であれば、そこから導かれる結論は一つしかない。これほどまでに多様な社会であるヨーロッパ諸国の通貨を統合することは、それら諸国の社会それぞれの中に機能不全を引き起こし、それが引き金となってそれらの諸国間にも混乱を発生させる。「統一・統合」を金科玉条とするイデオロギーの底に見出されるのは、多様な人間的・社会的現実を破壊しようとする意志であり、それはマルクス・レーニン主義を思い出させずにはおかない。トップダウン方式の(超)国家的統合が、恒久的な平和ではなく、民族間の憎悪を生み出してしまうことは、ロシアや旧ユーゴスラビアの現実がよく示しているところである。マーストリヒト条約は、多様な社会の歴史と生活を無視した素人たちの仕業である。
 二十五年前にトッドが怖れていた憎悪の連鎖が今日さらに深刻な仕方でヨーロッパ社会を蝕んでいることはもはやだれも否定することはできないだろう。私自身、数カ月後に迫ったフランス大統領選で「まさか」の結果が生じないと、もはや断言する自信がない。
 トッドが本書第二版前書きを執筆した1995年11月の時点では、実際にEUの通貨が統合されるかどうかはまだ決まっていなかった。その前書きの最後に、もし本書の提示する学問的社会モデルに妥当性があるのなら、将来通貨統合がされるか否かそれぞれの場合によって、本書はそれぞれ次のような役割を果たすことだろうと述べている。
 もし通貨が統合されなかった場合、本書は、歴史的に不可能なことがある、ということを理解するのに一定の役割を果たすことだろう。
 もし通貨が統合された場合、本書は、二十年後、集合的意識が欠けているのに国家の名において統合を強制することは、一つの社会ではなく、一つの「ジャングル」を発生させてしまうことを理解させるだろう。












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