先日の記事で言及したスタロバンスキーの文学芸術論集 La beauté du monde(『世界の美しさ』)の巻頭に置かれた Martin Rueff によるスタロバンスキーの知的伝記 « L’œuvre d’une vie » の中に、スタロバンスキーにおける文学と医学との連続性のいわば理論的支柱として、カンギレムの医学思想史とビンスワンガーの実存的精神医学とが挙げてあった(p. 68)。
日本ではもうビンスワンガーはあまり読まれなくなっているのだろうか。みすず書房から刊行された五冊の翻訳のうち現在新刊で入手可能なのは『夢と実存』だけで、あとの四冊は品切れのようである。その『夢と実存』も、ビンスワンガーによる本文によってよりもそれに倍する長さのフーコーによる「序論」のおかげで売れているのだろう。
ビンスワンガーといえば、フロイト、フッサール、ハイデガーからの影響を深く受けつつも、そこから打ち出した独自の現存在分析でその名が知られているわけだが、フランスにはその流れを汲む Ecole française de Daseinsanalyse という学会があって、現在もその研究活動を続けている。私自身その研究会で一昨年五月に発表したことがある(そのときの顛末についてはこちらの記事で話題にした)。
そんなこともあって(これって何となく話を繋ぎたいときにめっちゃ便利な表現ですよね)ビンスワンガーのことはずっと気になっており、現在入手可能な仏語訳は全部手元に揃えてあるし、2009年に Les Éditions de la Transparence 社から出版された Caroline Gros のモノグラフィー Ludwig Binswanger も書棚に並んでいるのだが、いずれもなかなか手に取る機会がなかった。
今日、先日話題にした「上がりなき双六」的読書の流れで、スタロバンスキー、アビ・ヴァールブルク、ビンスワンガーと来たので、Gros 女史のモノグラフィーを手に取って読み始めたら、止められなくなってしまった。
明日から何回かところどころ摘録していく。