霧の社

某国民的妖怪漫画に関して語るブログです。

はじめに

2040-01-01 00:00:00 | はじめに

・このサイトについて

~ここは500号が管理するブログサイトです。
 主に某妖怪漫画作品(婆・4期捏造設定中心)に関する活動を目的としております。
 色々とマニアックです。
 公式の関係者様には一切関係ございません。
 マナーを守ってお楽しみ下さい。

 ※捏造設定に関してはカテゴリの「設定解説」を参考にして下さい。
 
 サイト名:霧の社(きりのやしろ)
 管理人:500号
 URL:http://blog.goo.ne.jp/kjapart
 ※同人サイト様に限りリンクOKです。

 何かございましたらこちらへどうぞ。
 
メールアドレス:kjapart3730☆gmail.com
  (☆を@に変えて下さい。)

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砂子大活劇! 第3話「破戒地蔵・小児郎丸」⑤

2017-12-29 21:45:54 | 捏造作品(小説)
その集団は見るからに悪どそうな者達だった。
顔形、目玉の数、体の色は十人十色。
姿形はバラバラだが、揃って良からぬ真似をしそうなのは不思議と理解出来た。
店内の客は皆、彼らに注目している。
「ちょ、ちょい!マスター!」
砂子姫がマスターに近寄り、連中に聞かれぬよう小声で話し始める。
「あいつら誰?誰なん!?」
「知らないよ!」
冷や汗をだらだらと流しながら、マスターは怪しい集団の人相を伺う。
「常連客みたいなこと言ってたけど!俺あいつらと初対面だから!全然知らん顔!」
手を左右にぶんぶんと振り、マスターは必死で否定する。
二人の会話には気付いてないようで、『自称』常連客の一人がリデルに話しかける。
「聞こえなかったか?」
重い低音でドスの効いた声である。
「そこは『俺ら』の席だっつの」
「・・・ここ、僕が先に座りました」
陰険な脅しにも怯まず、リデルは自分の正当性を主張する。
「坊主、舐めてんのか!」
「僕、女です」
「女ぁ?」
仲間の一人が話に割って入る。
「何野郎の振りしてんだ、あぁん?」
「あなた達には関係ないでしょう・・・」
相手は引き下がる様子は無い。
長引きそうないちゃもんにリデルは苛立ちを募らせていく。
砂子姫も加勢に乗り出す。
「こら、オッサン達」
おとなしいリデルと違い、こちらは最初から臨戦態勢である。
「女子相手によってたかって何さ、みっともない」
「砂子ちゃーん!穏便に済ませてー!」
カウンターの陰から恐る恐る顔を覗かせ、マスターが懇願している。
「ケッ、イキの良い女だな」
「そこまで言うならよ、ちょっと付き合ってもらおうか」
そう話す男の手が無遠慮に砂子姫へと伸ばされる。
「触るな!」
か細い手は思い切り力を込めて、自分に突き付けられた腕をはね除ける。
「っ痛ぇ!やりやがったな!」
「表出ろや!可愛がってやる!」
憩いの場の和やかな雰囲気は完全に消え去り、殺伐とした戦場と化す。
成り行きをただ見ていた客達もようやく状況を理解し、慌て、怯え、逃げ始める。
「砂子姫・・・」
「砂子ちゃあああん!!穏便にって言ったのにいいい!!」
この先の展開に不安を感じるリデル。
文字通り頭を抱えるマスター。
その二人の陰鬱な思いを打ち消すように、別の声色が店の中に響き渡る。
「姉ちゃーん!いるかー!?」
「ジロ!」
不良集団にひたすら敵意を向けていた姉の元へ小児郎丸が駆け寄ってくる。
「良かった!姉ちゃんもリデルも無事だな!」
「小児郎丸!」
「馬鹿!今までどこほっつき歩いてたんだ!」
姉からの理不尽な叱責に小児郎丸は軽快なノリで返す。
「ダチが二人のこと教えてくれたんだ。遅れて悪ぃ!」
突然の乱入者に店内がどよめく。
主に件の連中を中心として。
「何だいきなり!」
「生意気なガキだな」
「あ?え?あの女と同じ顔・・・」
驚きの声が目立つその中で、一人冷静を保つ者がいた。
ゆっくりと歩を進め、砂子姫達三人に近付いていく。
「おい」
聞く者の耳を震わせる低く響く声。
男は三人をじろりと睨む。
仲間達より一際目立つ、ガタイの良い大きな体格。
連中のリーダー格であることは見て取れた。
「てめぇら、良くも俺らをコケにしてくれたな」
「コケにしたのはどっちだい」
砂子姫がリデルを後ろに退かせながら突っ跳ねる。
「姉ちゃんの言う通りだ」
小児郎丸も加勢する。
「女相手に手を出すとは男の風上にも置けないな」
「・・・いきがるなよ」
リーダー格は自分より小柄な小児郎丸を見下し、吐き捨てる。
「家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろ、チビ助」
その背後からどっと笑いの嵐が起こる。
「ママのおっぱいだと!」
「傑作!」
「あのガキにはお似合いだな!」
下劣と侮蔑の入り交じった嘲笑。
あまりに不愉快な音が青年の耳に届く。




「・・・てみろ」
「あん?」




「もう一度言ってみろ!!!!」


(続)
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砂子大活劇! 第3話「破戒地蔵・小児郎丸」④

2017-11-08 22:52:54 | 捏造作品(小説)
翌日。
外の景色が赤く染まり始めた頃。
砂子姫、小児郎丸、リデルの3人はある場所に辿り着いていた。
「ここだね!」
「うん、ちょうど良い時間かな」
時の移り変わりを砂子姫が観察している。
目的地に踏み入るには頃合いだと踏んだようだ。
「よし、思い切り楽しむぜ!」
小児郎丸は腕を振り上げ、歓喜の意思を見せる。
彼女達がこれから訪れるのは人間の足が届かない世界。
砂子姫達妖怪だけの憩いの土地なのである。


人間界と妖怪界の狭間にあたる空間を通り抜けると、静寂はいつしか喧騒へと変わる。
コンクリートで製造された道路や塀は暗闇と交わり続け、徐々に消えていく。
そして、道の先の光に導かれるままに進めば、新しい世界が開き始める。
微弱ながらも、力強く、暖かい光が住民を照らす、程良い夜の町が3人を迎え入れた。


「おおー!砂子か?」
「オッス!元気してるー?」
元気な挨拶が砂子姫に向けられる。
「知り合いがいるの?」
「私ら、ここの常連だかんね。顔見知りはそこらへんにいるよ」
話に耳を傾けながら、リデルは町中をじっくりと眺めていた。
大勢の妖怪達で溢れており、全員が二言三言交わすだけで途端に騒がしくなる程だった。
「ヘェーイ!そこの彼女!俺と遊ばない?」
小児郎丸が弾けた調子の良い声を飛ばす。
どうやら年頃の異性を見つけ、心を奪われたらしい。
連れの二人から離れ、助平男はふらふらと遠ざかっていく。
「あ、小児郎丸が」
「いいのいいの」
心配するリデルに対し、砂子姫は余裕の態度である。
「あいつもここには来慣れてるから。どこに行っても迷いはしないよ」
小児郎丸はひとまず置いておき、二人はそのまま町中を進み続けた。


砂子姫に連れられて、リデルは一つの飲み屋に入った。
店内では話し声が響きながらも不思議と静けさが残っており、気楽に酒の味を楽しめそうである。
周囲を見渡してみるとリデルと同じ年頃の人々が多く、若者向けの店だと分かった。
「お、砂子ちゃん」
一人の人物が砂子姫に声をかける。
カウンターの中に留まり、エプロンを身に付けた姿から店の関係者だとすぐに気付いた。
「よぉ、マスター」
「ありゃ、知り合いかい?」
相手と目が合い、リデルが会釈する。
「うん。リデルって言うんだ。リデル、こちらはこの店のマスター」
砂子姫の紹介の後、お互いに「よろしく」と挨拶する。
リデルはマスターを一目見やる。
頭に獣の耳を生やし、背後では尻尾が見え隠れしている。
動物の気性を備えた妖怪のようだった。
「その名前・・・、外国の子かい?」
「はい、最近日本に来ました」
「まぁまぁ、話が長くなる前に座りなよ」
砂子姫に急かされ、リデルはカウンター席に腰を置く。
二人にメニューを見せつつ、マスターが話の続きを始めた。
「今日はジロちゃんいないのかい?」
「あいつはそこらへんで女引っかけてるよ」
「相変わらずだなー」
器用なもので、マスターは会話をしつつ食器をさっさと磨いていた。
「どちらかと言えば引っ掻かれる方だよ、あれは」
「それもそうだな!」
マスターがリデルの方に顔を向ける。
「君も気を付けなよ。ジロちゃん良い奴だけど、女の子にはだらしないから」
「は、はい。ありがとうございます」
昨日自分に見せた態度より、酷かったりして。
小児郎丸との今後の付き合いに不安を覚えるリデルだった。
「ところで注文はまだかい?」
「あぁ、悪り。じゃあ私この酒で。リデルは?」
「砂子姫と同じもので」
「了解。じゃ今すぐ・・・」
急にマスターが静かになる。
先程までの気持ちの良い表情は、一転して強張っていた。
二人が声を掛けようとして、すぐに止める。
マスターの変化の理由は、本人に聞く前に理解した。
背中で感じる威圧感に体が震える。
「おい、そこ」
声の主を知るため、恐る恐る振り返る。
厳つい、不穏な雰囲気を纏った連中が店内に集まっていた。
「俺らの席なんだけどよ」


(続)

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砂子大活劇! 第3話「破戒地蔵・小児郎丸」③

2017-10-17 10:57:23 | 捏造作品(小説)
一時間後。
浴室でのボヤ騒ぎは完全に終結した。
消火活動に用いた大量の砂も一通り片付き、事件現場は落ち着きを取り戻していた。


現在、アパートの一室。
関係者一同がここに集まっていた。
「・・・・・・」
「むー」
あられもない姿を見られたためか、赤い顔で俯くリデル。
先程までの怒りはどこへやら。ただ黙って主人に抱かれるサラマンダー。
「ねぇ、リデル」
砂子姫がかねてからの疑問を口にする。
「・・・何?」
「あんた女だったの?」
リデルの表情が一気に驚きの色に染まる。
「分からなかったの!?」
「だって自分のこと『僕』って呼んでたじゃん」
「一人称は関係ないもん・・・」
リデル自身は問題ないと考えていたらしい。
たしかにそれで良いと言えば終いなのだが。
「いや、リデルの言う通りだ」
ここで小児郎丸が会話に入る。
「女みたいに振る舞う男がいる。男みたいに振る舞う女がいる。自分を僕って呼ぶ女がいてもいいはずだぜ」
理屈抜きにリデルの意思を尊重している。
小児郎丸は心の広い男らしい。
「小児郎丸・・・」
「俺は全く気にしないぜ?」
リデルをしっかりと見つめて粋な笑みを浮かべて小児郎丸。
目の前にした者を全て魅了しそうな風貌と心意気である。


ーーやましい所が無ければ、だが。
「ん?」
突如、全身に走る悪寒。
その元を辿ってみると、腰に回された手に目がいく。
いつの間にか小児郎丸はリデルの目前まで迫っていた。
「リデル、聞いてくれ」
彼の瞳はキラキラと輝いている。
「さっきは無粋な真似をしてすまない・・・。相当怖かっただろう。分かるよ、君の気持ち。これでも女性の心理は深く理解するよう常に努力している。だから俺のことも良く知ってほしい。二人の親睦を深めるために!今日は一晩中俺と語り合お・・・」
「まぅ!」
「あ、熱っ!」
再びサラマンダーの怒りの洗礼。
「これ、小児郎丸!!」
大家からも怒号が飛ぶ。
「リデルさん!無事かえ?」
「は、はい。何とも・・・」
いきなりの事態に頭が追い付かないリデル。
「見境無くよその娘さんに手を出すなと!何度言うたら分かるんじゃ!」
「母上、その言い方は酷いな・・・」
無駄に格好良くキメている小児郎丸。
「愛があれば、何も問題はないんじゃないのかい?」
「知るかアホ」
辛辣な砂子姫のツッコミ。
続けざまに彼女はリデルに助言する。
「あいつには気を付けなよ。女相手なら遠慮無く手を出すから」
「・・・分かった」


部屋の外から大声が聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。
「たっらいま~!」
声量も発音もデタラメな響きである。
「「「あ」」」
砂子姫達家族三人が一斉に反応する。
リデルだけが付いていけず、置いてきぼりだった。
「え?何なの?」
質問から間を置かず、部屋のふすまがバァン!と勢い良く開いた。
「イエエエェェイ!やっとるかーい!」
非常に高揚しており、部屋に入って早々ダプルピースを決めている。
その人物は珍妙な格好をしていた。
藁の束を一まとめにしたような上着を羽織り、真ん中に「金」と大きく書かれた一張羅を纏っている。
顔に刻まれた皺と生えた髭から、男性の老人だと分かる。
本日二度目、見知らぬ人物の登場。
そして初めて見る奇抜な姿に、リデルが自然と疑問を口にする。
「今度は誰?」
「わしかい!?」
「うわ、お酒臭い・・・」
リデルの苦情も物ともせず、老人は極めて快活に名乗り始めた。
「わしは子泣き爺!そこにいるイサちゃんとジロちゃんのパパでぇーーーーっす!!」
「お・・・お父さんですか」
双子の父親。
つまり自動的に双子の母親である大家の夫。
妻同様、かなり年月を経た風貌である。
ここで砂子姫が助け船を出す。
「父上、もうやめたげなって」
「そうじゃ、もうよさんか!」
大家の方は怒り心頭らしい。
「毎度毎度浴びる程の酒をがぶ飲みしよって!節操と言うものが無いのか己は!」
「いやん、いやん!やめてぇ~!反省しとるんじゃ~」
完全に夫の立場が下に回っている。
妖怪アパートの大家一家はかかあ天下らしい。
「父上、またいつもの店でやらかしてきたな」
呆れ顔の砂子姫。しかし突如、弾けるように態度を変えた。
「そうだ、リデル」
「何?」
サラマンダーの頭を撫でながら、リデルは彼女の声に耳を傾けた。
「あんた酒飲める?」
「うん。大丈夫だけど」
「それじゃ明日観光がてら飲みに行かない?」
砂子姫の表情はいきいきとしている。
「妖怪だけ出入り出来る場所だから人間は一人もいないし。思い切ってハメを外そうじゃんか」
「俺も行くぞー!」
小児郎丸も盛り上がっている。
「一日中エスコートしてやるぜ!」
既に行った気になっている双子。
二人の様子を見ていると、リデルも自然と楽しくなっている。
「それじゃあ、行こうかな?」
言葉では不確定でも、気持ちはもう決まったようなものだった。


(続)
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砂子大活劇! 第3話「破戒地蔵・小児郎丸」②

2017-09-19 23:04:36 | 捏造作品(小説)
リデルは自分が何を見ているのか、分からなくなっていた。
そうして固まるしか無い訪問者に、声が掛けられる。
「あり?どしたの?」
砂子姫、に生き写しの人物がリデルに近寄る。
反応を見せない相手を不思議そうに覗き込む。
しかし、それを快く思わない一匹がいた。
「むあぁ!!」
サラマンダーが雄叫びを上げて炎を吐く。
おそらくリデルの混乱を察し、それを招いた人物に敵意を抱いたと考えられる。
「うぉっ!?」
かなり至近距離。
避けることも出来ず、怒りの爆撃は対象に見事に命中した。
突然の発火。
「あ・・・」
リデルは意識を取り戻し、驚愕する。
「た・・・大変!どうしよう!」
「あー、ほっといて良いよ」
砂子姫の口から出た言葉は信じられないものだった。
「何てこと言ってるの!」
「落ち着け。あれ良く見な」
砂子姫に促され、移した視線の先。
「ひゃー、今のはビビったね」
「・・・あれ?」
耳に届く余裕の声。
リデルの心配を余所に、火災の被害者は全くの無傷だった。
残り火も無く、火傷の痕も見られない。
「あー、ちょっと良いかい?」
事の成り行きを見守っていた大家が、ここで口を出してきた。
彼女にもこの結果が見えていたらしい。
「ジロや、そろそろお客人に挨拶しなさい」
「あ、忘れてた」
攻撃の勢いで倒れたままのその人物は、素早く起き上がり体勢を立て直す。
胡座をかいてリデルと真正面に向き合う。
「俺は小児郎丸。よろしく」
気持ちの良い笑顔を向けて、青年・小児郎丸は頭を下げた。




古木で拵えた室内に熱気が立ち込める。
並々と溜められた湯の中にリデルは浸かっていた。
お供にはサラマンダー。
小柄な生物には広すぎる人型サイズの湯船。
溺れないように慎重にリデルが抱えていた。
「それにしても驚いたね」
腕の中のサラマンダーに話し掛ける。
「砂子姫に双子の兄弟がいたなんて」
「めぅら?」


砂子姫。小児郎丸。
二人は妖怪アパートの大家を母に持つ、一卵性の双生児だと聞かされた。
男と女、性別の違いこそあるものの顔形は判を取ったように同じ。
今でも初対面の人物には戸惑われると一家は話していた。
「ところでキミ」
「むぁ?」
「今日のあれは酷かったんじゃない?」
サラマンダーは小児郎丸に重症を負わせかけた。
何らかの方法で危機は回避したらしいが、それで済む訳では無い。
彼の気さくそうな人柄を思えば、より心が痛む。
「いくら周りが怖くても、むやみに火を吹いちゃダメだよ」
「めぇー」
「これから気を付けていかなくちゃね」
「むぉー」
呑気そうに鳴き声を挙げるサラマンダー。
リデルは苦笑しながらも、優しい仕草で同居人の頭を撫でてやった。
一人と一匹の背後で不審な物音がしたのは、ちょうどその時である。




日中、リデルと大家一家が対面した部屋。
今この場には大家が一人。
「うーむ、やはり焦げてしもうたか」
敷かれた畳の一部は、本来の自然色を所々黒く染めていた。
サラマンダーの強力な火力が思い出される。
「動物のしたことじゃからあまり手厳しく言えんが」
リデルが飼う、大家が認めると宣言した手前、相手の意思を無下にする訳にはいくまい。
「とりあえずリデルさんと一緒にあやつを見守るしかあるまい。しかし小児郎丸が無事で何より。まぁ、当たり前か。何せあの子は・・・」
ここまで言いかけて、ふすまが開く。
「母上ー、いたいた」
「何じゃ砂子」
「次の風呂私入っていい?」
「あぁ、良いよ。リデルさんが上がったらな」
「え、リデル?」
砂子姫は首を傾げる。
「どうした?」
「小児郎が入ってんじゃないの?」
「違うぞ。何故そう思うた」
「だってあいつタオル持って・・・」
会話の途中、離れた場所から金切り声が耳に届いた。


妖怪アパートの浴室にて。
砂子姫と大家が駆け付けた先は修羅場となっていた。
のどかに風呂を堪能していたリデルは、先程とうってかわって狼狽えている。
「うえ~ん、砂子姫~!」
「あぁ、うん」
砂子姫の声には戸惑いの色が含まれている。
「君のね、弟さんがね、お風呂に入ってきて、僕、僕・・・」
リデルは切羽詰まって泣き出した。
砂子姫はそんな姿を繁々と見つめる。
胸部から下半身にかけて巻かれたバスタオル。
細く白い腕と脚。
自分の瞳に写る真実に砂子姫は困惑している。
大家も砂子姫と同様の感想に至ったようで、「うーむ」と唸っていた。
一方、小児郎丸。
「あっぢぃ!!あづっ、う!ぎゃあ!」
リデルに付き添っていたサラマンダー。
愛しのご主人を泣かせた張本人に怒りのままに炎を浴びせている。
「みゃあああああ!!」
「ちょ、待て!今は駄目・・・うわ!悪かった!悪かったって!!」
完全に油断したのか、小児郎丸は黙って業火に焼かれるしかなかった。
浴室、いや、妖怪アパート全体が燃えかねない勢いである。
「砂子や」
「何、母上」
「ワシらで火を止めよう。手伝いなさい」
「・・・うん」
泣き出す少女一人。
火トカゲ一匹。
焼かれる青年一人。
不思議と冷静な母と娘が二人。
妖怪アパートの夜が騒がしく更けていく。


(続)

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