Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第19話

2016年01月16日 09時00分00秒 | 小説「パスク」(連載中)
 テオの対戦で傷ついた体を、例のごとく自作の浴場で癒やしていた。今まで負った傷も、ほぼ全回復して元の体力に戻った。フルパワーで動けるが、それだけじゃ勝てない。テオの時は運良く助けられたが、毎回そうはいかない。パワーアップを図らなければ……。

 買い出しも兼ねて、気分転換に街へ降りてみた。ここは湯治客が集まり賑わっている。石畳が所狭しと並べられて、立ち並ぶ建物もモダンでありながら古さを残している。オレの実家一帯も含めて、この辺りの雰囲気と比較したら、ここだけ異世界だ。
 そんな異世界に迷い込んできたのか、明らかに浮いた存在が朝の温泉街をうろつき、聞き慣れた固有名詞を連呼していた。
「パスクって男を知りませんか?」
 全身を銀色に輝く鎧が、動きづらそうに周辺の人に聞き込みをしていた。とっさに隠れて様子を見ることにした。背丈は低く、時折小さな段差に転げる始末。俊敏とはとてもかけ離れており、お世辞にも言いがたい。
 手当たり次第聞いてまわっているが、これといった答えはたどり着けていなかった。それもそのはず、この街でオレを知っている人間は多くいる。だが、居場所となると細かく知っているのは数が限られている。そう簡単には見つからないよ。

 全身銀色鎧をうまく交わしながら、用事を片付けていった。昼になり、知り合いの店で飯を頂こうと目の前まで来たら、あの鎧が店の前をうろついていた。これじゃ飯が食えない。
 そこで、ちょうどいいサイズの籠を温泉街の店から調達してきて、それを頭に被り近づいた。
「ちょっと、そこの人」
 あれ……? なんかこれ、以前誰かがやっていたような気がする……。まあ、別にいいか。
「パスクの居場所を知りたいのかね」
「はい。知っておられるのですか?」
 中で反響しながら聞こえてきた声から察するに、鎧の中身は二十台前半の男といったところか……。
「そうじゃな……。あの山の奥に住んでおる」
 実家がある方角とは、真逆の方向を指し示した。
「ありがとうございます。感謝いたします」
「なにゆえ、パスクとやらに用事があるのじゃ?」
「はい、ある人と立てた誓いを果たすためです。候補者の中でも特に弱いと聞いておるので、ボクでも倒せそうだからです!」
 こいつ絶対に許さねえ。しかし、煮えたぎる怒りを抑えて、平然を装った。
「気をつけていくのじゃよ」
 そう聞いて、教えたとおりの方向に向かっていった。言ってやったそばから石畳に足を取られて、大きな金属音が辺りを響き渡らせていた。起き上がり、再び歩みを進めた。これで当分、ドジな鎧男とは会うことはないだろう。
「これで、飯がゆっくり食える」

 なじみの店に入ると、そこそこの広さは誇っていたが、それでも人で一杯だった。空いているところを探して、ちょうど奥のテーブル席が空いていた。席に着くと被っていた籠を床に置いて、ちょうど良くその中に荷物を入れた。
「混んでいるな……」
「昼時だからな。パスクさん、いつものでいいか?」
 忙しいのにも関わらず、カウンターの向こうにある厨房から店主が声をかけてきた。相変わらず威勢が良く、元気そうにやっていて安心した。
「ああ。もちろん」
 この店はいろいろと揃っている。がたいの良い店主が手打ちの麺料理が得意なこともあり、それが看板メニューにもなっている。オレはそれにトッピングのアレンジを加えてもらっている。
「……にしても、籠なんで被っちゃって。なんかの真似かい?」
「確かに、そうかもな」
 あいつは、元気にやっているのだろうか。
「それにしても、随分と繁盛しているな」
 前に来たときは、昼時でもこんなに混んでなかったのに。
「へへ、お陰様で。人手が足りなくて、この通り人を雇い入れました」
 三十代の店主より、ひとまわり若い男二人が店内を忙しく動き回っていた。
「へい、いらっしゃい!」
 また一人、入ってきた客に声をかける。
「あいにく、この通り混み合っておりまして、相席になってしまいますが……」
 手伝いの一人の方が接客した。
「構いません。お願いいたします」
 すると、その客はオレの前の席に座った。
「遠い山奥に行くんだったら、まず腹ごしらえをしておかなければ」
 あの鎧男が、よりによって戻ってきやがった。まずい……。
 頭の部分だけ外すと、やや少年ぽい顔立ちで肌が茶色く焼けた坊主頭の男だった。子供っぽさで言ったら、コトミといい勝負だ。……いや、コトミの方が子供っぽいか。
 しかし、何度も視界に真向かいに座るオレの顔が入っているはずなんだが、気にとめる様子は全くなかった。せっかく苦労して逃げ回ったのだが、まさか……?
「へい。パスクさん、おまち!」
 店主が、余計な単語と一緒に注文の品を持ってきた。
「あ、あなたが、パスクさん?」
 ほら、気づいちゃったじゃないか!
「ああ。確かにそうだが……」
「ええぇぇぇ……!」
 こいつ。候補に入りながら、やっぱりオレの顔を知らないのか。
 でも、まあいい。

――こいつなら絶対に勝てる!


≪ 第18話-[目次]-第20話 ≫
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↓今後の展開に期待を込めて!
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