旅とエッセイ 胡蝶の夢

亜細亜の旅日記、オリジナルエッセイ。投稿では万年佳作か特別賞。
まずはアンコール遺跡群

スペック過剰 

2016年09月15日 17時46分29秒 | エッセイ
スペック過剰   

 戦時中の一般人は、戦艦大和・武蔵の存在を知らなかった。軍国少年は戦艦長門・山城の絵は画けるが、大和の写真は見たことがない。名前も知らない。超国家秘密にしていたのだ。だが両艦ともさほどの活躍はしていない。秘密兵器、決戦兵器とはほど遠い。大和だ、武蔵だと国民が口にするようになったのは、戦後世の中が落ち着いてからだ。
 しかしあれはいらなかった。あの2隻、空母に改装した信濃も含めれば3隻の代わりに、航空隊を増やすか駆逐艦を増産したら、戦局にはるかに有利に働いていただろう。戦艦群の大砲撃戦など、太平洋戦争では起きなかった。捷一号作戦で、栗田艦隊があと1~2時間前進していたら、米x7、日x4の戦艦の撃ち合いが勃発していたのだが、栗田艦隊は直前で反転してしまった。世界一の巨砲(46サンチ砲)は、結局ほとんど何の役にも立たなかった。
 軽巡大井もオーバースペックだった。何しろ魚雷発射管が10基40門もあるのだ。これは大艦隊ががっぷり組んで砲撃戦を展開するなか、高速を活かしてスルスルと前進して行き、放射状に魚雷を放つ。又は夜戦で、敵味方の配置がはっきりしている初期段階で魚雷を放つ。このような使い道以外は考えられない。そんな日露戦争のような海戦は起きなかった。大井は結局戦場で魚雷を放つチャンスは無く、高速輸送船(これはいくらでも必要で、喉から手が出るほど欲しい。何しろ潜水艦が追い付かないのだ。)に改装され、兵員輸送等で活躍した。最後は潜水艦の魚雷によって沈められた。同じく重雷装艦の北上も輸送船となり、こちらは空襲で損傷したが、生き延びて戦後復員船となった。
 日本の駆逐艦は優秀で太平洋で大活躍したが、戦闘だけでなく護衛や輸送にまで使われて、次々に沈んでいった。海軍は初期の優れた性能の駆逐艦が足りなくなり、スペックを大幅に落とした安直な駆逐艦を日本としては大量に製造した。排水量は半分から1/3、時速も33から28ノットへ、高角砲と機銃といった防空能力だけを強化し、大砲は除去した。名称も「雪風」「不知火」といった2-3文字から「松」「楓」といった1文字に縮小した。それでもオーバースペックだったかもしれない。安価、短工期といった大量生産の得意なアメリカが造った護衛駆逐艦などは、21ノットしか出ないが500隻も造られた。彼らが製造した護衛空母も、張りぼてのような安直な造りだが、船団の護衛や航空機の輸送に活躍した。
 日本の一文字駆逐艦は、タイムリーに戦場に出て活躍した。戦地では高性能な駆逐艦3隻よりも、低スペックでも10隻の方が遥かに望ましい。何しろ護衛が間に合わずに、輸送船団が次々と潜水艦に食われていたのだ。

 ドイツはV号ロケット弾やジェット戦闘機といった新兵器を次々に開発した。ユダヤ系の頭脳集団を追い払って、ドイツ人だけで開発をした。ベルリンをいち早く占領したソ連赤軍は、ドイツ人科学者集団を真っ先に探し出し、ゴソっと祖国に連れ帰った。その為宇宙開発において、アメリカを20年は先行出来た。アメリカも残ったドイツ人科学者を探し出して連れ帰っているから同類だ。何かジンギス汗のモンゴルのようだ。彼らは城砦都市を占領すると、職人と美女だけは殺さずに連れ去った。
 ドイツは大戦初期に、電撃戦で最初はポーランド、次いでフランスに於いて英仏軍をいとも簡単に打ち破った。ドイツの3号軽戦車及び4号中戦車は、速力こそ勝ったが打撃力、装甲共に英仏の戦車より劣っていた。しかしドイツ軍は急降下爆撃機の先導で進路をこじ開け、戦車隊が無線で連絡を取り合い、
水雷艦隊のように進撃した。たちまち前線を突破して敵の後方に出るため、連合軍は手を打つ前に分断、孤立して各個撃破されていった。
 英仏軍の戦車は歩兵と連携し、撃つ時は停車する決まりだった。ところがドイツの戦車は砲弾を撃ちつつ、チームになって押し寄せてきた。しかしこの電撃戦論を最初に提唱したのは、イギリス人の将校であった。本国では見向きもされなかったこの理論を注目して取り上げ、勝利をもぎ取ったのはドイツのグデーリアン将軍であった。
 そのドイツ軍はバルバロッサ作戦(ソ連侵攻)で、BT戦車が相手の時は良かったが、暫くしてお目見えしたソ連の戦車T-34に自軍の主力4号戦車が、全く太刀打ち出来ないことが判明した。そのショックは相当なものだった。劣等民族スラヴ人が造った戦車が、我がゲルマン人の戦車よりもはるかに優れているとは。彼らのプライドはズタズタにされ、広大なウクライナの大地は雨が降るとドロドロの湿地と化し、ドイツ軍は果てしない消耗戦に引きずり込まれた。
 T34に対抗する為にドイツが開発した戦車が、ティーガーとパンターであった。ティーガーは当時最強の傑作戦車で、1対1なら無敵だった。T34の砲弾を装甲で弾き飛ばし、ティーガーの砲弾はT34を吹き飛ばす。それでも接近すればT34でもティーガーに損傷を与えられる。また頑丈で製造も修理も実に容易なT34に較べ、ティーガーは精密機械だった。製造コストは高く生産性は上がらず、整備は困難。特に初期型では故障が頻発した。ドイツ軍が前線で失ったティーガーは、戦闘よりも故障によるものの方が圧倒的に多い。勝って前進を続けるなら修理も出来るが、敗走するドイツ軍は故障車を破壊するしかなかった。
 史上最大のクルスク大戦車戦で、ドイツ軍のエース、ミハエル・ヴィットマンはティーガーに乗り敵戦車30輌と対戦車砲28門を撃破したが、T34は倒されても倒されても、地から湧くように現れた。結局数の差、物量の勝負でドイツは敗れ去り、その後は敗戦まで防戦一方となった。
 アメリカ軍のシャーマン中戦車は、傑出した戦車とは言えなかった。シャーマンが道でティーガーと正面から出会えば、10回中10回負ける。出くわせば一巻の終わりである。シャーマンの75mm砲ではティーガーの正面装甲には歯が立たない。しかしティーガーやパンターは数が少ない。いざという時には、空軍の支援を呼べばよい。バルジの戦いで苦戦したのは、戦いの中盤まで曇天が続いて空襲が出来なかったからだ。また米英軍は、車体はシャーマンのまま砲身を換え、ティーガーを撃ち抜ける戦車を少数開発した。普通のシャーマンだと思って近づくとやられる。ただし換装シャーマンは少数で、機能性は落ちた。
 こうしてみると少数エリートを集めたドイツよりも、能力はそこそこでもフットワークの良い連中を大量に使ったソ連とアメリカが勝利を収めている。
なおソ連は重戦車 IS-2(ヨシフ・スターリン)を開発した。122mm砲という凄い破壊力だが、狭い車内で25kgの弾頭を装てんするという無理があって、一弾撃てば再装てんに時間がかかり、時速37km/hという低速では戦車戦において脅威にはならなかった。完全に失敗作だ。大きければ良いというものではないことは、これまでの戦訓で分かっているはずなのに。それでも指導者は敵よりも大きく、より分厚い装甲をと考える。
 末期のヒトラーは身体がボロボロで、頭も錯乱していたのか。史上最大の戦車、陸上戦艦を欲した。その結果が超重戦車「マウス」だ。クルップ社とポルシェ社に、100トン級の重戦車の開発と設計を二重に命じた。結局設計はポルシェ博士、部品の生産と組み立てはクルップ社、砲を含む最終組み立てはアルケット社により行われた。マウスはヒトラーの度重なる口出し、生産計画の中止・延期・再開、資源の不足、エンジンの不十分な性能にも拘わらず、試作1,2号が完成した。
 全長10m、全幅3.67m、全高3.63m、重量188ton、速度20km/h(整地)、13km/h(不整地)、主砲12.8cm、副砲7.5cmと機銃。でかい。現在でも188トンもある戦車はない。しかし12.8cmは駆逐艦の主砲だ。陸上戦艦とは言い過ぎである。
 この戦車、気が遠くなるほど燃費が悪い。ベルリン攻防戦に試作2号機が出撃したが機関が故障、燃料切れで立ち往生し、赤軍に渡ることを避けるために爆破処分された。しかし試作1号機は試験場で無傷で捕獲され、現在モスクワ近郊のクビンカ戦車博物館に展示されている。
 なお名称は、「マンムート(マンモス)」又は「レーヴェ(ライオン)」の案があったが、あえて逆のイメージにより秘密を保持する意図でマウスになった。役立たずの化け物にはいっそ相応しい。皮肉を感じて哀愁すら漂う。戦争とはどこまで愚かしいのか。マウスは重過ぎて橋を渡れない。車体は完全防水でシュノーケルが収納されている。渡渉するには2輌が必要で、片方が陸上で発電して電気を送り、もう片方がその電気で渡渉するそうだ。
 ヒトラーと共にマウスのモックアップを見たグデーリアンは、重量過多で接近戦闘能力の低い超重戦車が役立たずなことを直ぐに見抜いた。同時にドイツ大三帝国の終焉も見抜いたことだろう。
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