Business Media 誠 2月10日(金)10時58分配信
南日本新聞Web版によると、第三セクターの肥薩おれんじ鉄道について、鹿児島県が経営安定基金5億円の全額取り崩しを決定したという。同鉄道の乗客減少傾向が止まらず、赤字が増え続けているためだ。2012年度までに3億7500万円が赤字補てんのため拠出される見込みで、残り1億2500万円は災害など不測の事態のために留保していた。これにも手を付けなくてはいけない事態になってしまった。
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一方、徳島新聞Web版によると、四国の第三セクター、阿佐海岸鉄道の沿線自治体は経営安定基金を積み増すと決定した。同鉄道の開業にあたり、自治体は5億円の経営安定基金を保有していた。しかし毎年5600万円以上の赤字の補てんに使ってしまい、2011年度末の残額は1500万円まで減る見込みだ。このままでは鉄道を維持できないので、経営安定基金を追加することになった。沿線自治体の積み増し予算は合計で4億2000万円。赤字を理由に取り崩しても数年はもつ。
画像:阿佐海岸鉄道の車両ASA-100形、ほか(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1202/10/news004.html)
経営安定基金を止めた肥薩おれんじ鉄道と、続ける阿佐海岸鉄道。赤字ローカル線問題についての判断が分かれた。その違いは何か。
●経営安定基金とは何か
企業が赤字決算となった場合、銀行からお金を借りるか、新たな出資を要請するか、どちらかを選択することが多い。最悪は倒産、解散だ。地方自治体が経営参加する第三セクター会社にとって、赤字が出た場合は、自治体が保証して金融機関から借りるか、自治体の一般会計から補てんするか、という選択になる。保証や補てんというと、いかにも自治体が自立しているように見えるが、保証の中身は不動産などではなく「地方税を徴税する活動」であり、補てんの原資も税金である。つまり、第三セクターが赤字になれば税金が投入される。これは分かりやすい仕組みだ。
ところが、鉄道のローカル線問題になると、第三セクターのおサイフと自治体が管理する税金の間に「経営安定基金」という仕組みが登場する。これはいったい何なんだろう。「基金」というからには「運用の原資」とみるのが自然だ。実際、経営安定基金は運用基金として設計された……時期もある。しかし、いまや運用どころではなく、単なる赤字補てん用の金庫になってしまった感がある。
鉄道の赤字ローカル線問題について、経営安定基金という言葉が登場したのは、1980年に国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)が成立してからだ。37兆円にも及ぶ国鉄の赤字を削減するため、全国の赤字ローカル線を廃止すると決定した。
このとき、政府は国鉄から赤字ローカル線を切り離すために、沿線自治体に次のような条件を出した。
・バスや第三セクター鉄道に転換する場合は、その路線の距離1キロメートル当たり3000万円までの転換交付金を付与する。
・転換から5年間は政府が赤字を補てんする。ただし、バスの場合は全額、鉄道の場合は半額まで。
・転換に対する対策協議会が2年後に結論を出さなければ、鉄道は廃止とする。
廃止対象となった路線の沿線自治体は、廃止を受け入れるか、自分たちで運行するかの選択を迫られた。ほとんどの自治体は、民間企業にも出資してもらって「第三セクター」という形態で鉄道を残す選択をした。
さて、第三セクター鉄道を作った自治体には、国から転換交付金が付与されるわけだ。そのお金をどうすればいいのか。出資割合に応じて分配して、一般財源で管理するというわけにはいかない。そこで、転換にあたって車両を購入したり、設備を改造する費用の残りをもとに基金を結成し、運用益で赤字を補てんしようと考えた。これが「経営安定基金」である。路線の長さが20キロメートルだったら、交付金は6億円。この8割を基金として、年利3%で運用すれば1440万円を得られる。5年間は赤字の半額を国が面倒みてくれるし、なんとかなるだろう、という目算だ。
●実態は延命予算に
しかし、この胸算用はあっさりと崩れてしまった。1985年のプラザ合意(※)で政府が低金利政策に転じたため、資金の運用益は目論見通りにならなかった。バブル景気のお陰で、多少は営業収入も良かったかもしれないが、なにしろ元々は赤字で国鉄がさじを投げた路線なので、簡単には黒字にならない。そしてバブルが崩壊すると景気対策でゼロ金利政策が始まり、基金の運用どころの話ではなくなってしまう。
※プラザ合意:1980年代のドル安に対して、G5が決定した協調介入。これにより円高傾向となり、日本政府は内需拡大策を講じた。
仮に5000万円の赤字が出れば、とりあえず財源は安定化基金で賄うしかない。安定化基金の6億円から5000万円ずつ切り崩せば、単純に計算しても12年は延命できる。まだ12年あるから、その間になにか手を打とう、という考えに変わっていった。
しかし、なにか手を打とうとして、本当に手を打った第三セクターはあっただろうか。結果をみれば、成功した第三セクターはほとんどなかった。JRから特急列車が乗り入れて線路使用収入を見込める智頭急行、伊勢鉄道、北越急行などのほかは悲惨な結果となっている。どの会社も運行本数を減らしたり、観光キャンペーンなど努力はしただろうが、少子化やクルマの普及など時代の流れには抗えなかった。
そしてもうひとつの問題は、第三セクターならではの特徴である。自治体の出資が多い第三セクターでは、その自治体の首長が社長を兼務する場合も多い。多忙な自治体首長にとって、第三セクターの社長業務にどれだけ力を注げるのか。そもそも企業人、経営者の資質はあるのか。そして市町村長には4年の任期がある。任期がすぎれば社長引退。そんな人に10年、20年先を見据えた経営ができるのか。
「とりあえず、任期中は基金があるから廃止しない。次の市長がなんとかするだろう」
そうした「問題の先送り」状態になっていた可能性も大いにある。経営安定基金は、第三セクター鉄道の経営に取り組む予算ではなく、問題を先送りするための金庫、これが実情ではないだろうか。まるで不治の病の“末期医療”である。薬がなければ死んでしまう。薬のストックがあるうちは投与を続けて延命しよう。そのうちに特効薬が出るだろう……と根拠のない楽観論だったのかもしれない。
2009年に筆者がある第三セクターを訪れた時、当時の市長が「交付金を使って途中駅に列車交換設備を作れば、運行本数を増やして利用者増加を狙えたはず。しかし私が就任したときは、すでに資金が底を付いていた」と悔しそうに話していた。「経営安定基金=延命予算」という考えでは、設備投資をすれば命を縮める。なので安易に手をつけることは難しかったようだ。
●経営安定基金を前向きに使おう
それでも経営安定基金にはメリットがあるのかもしれない。単年度決算の自治体予算で赤字を補てんすれば、1年単位で第三セクター鉄道の経営評価が必要になり、毎年のように廃線問題が浮上する。経営安定基金を積んでおけば、自治体の予算のサイクルから分離され、複数年度に渡る事業計画を立てられる。いま中学生が何人いて、何年後に高校通学利用者がどのくらいあるのか、2年間で住宅を開発し通勤需要を掘り起こそう、などという展望のもとで設備投資や改善の計画を立てられる。
しかし、基金として運用益が見込めない以上、すでに経営安定基金のメリットは少ない。結局は自治体が補てんしなくてはいけない。そう考えると、肥薩おれんじ鉄道沿線自治体が経営安定基金を取り崩したという判断は英断だといえる。そこには「問題を先送りせず、単年度の収支を見極めて対策を打とう」という強い意志さえ感じられる。
鹿児島県議会の肥薩おれんじ鉄道活性化議員連盟は、さっそく地元の人々との意見交換会を開き、対策を検討し始めたという。
経営安定基金制度を維持した阿佐海岸鉄道の沿線自治体はどういう目算があるのだろうか。低金利が続き、基金運用益は見込めないなかでの基金維持。それは末期医療の薬をストックしただけか。あるいは、経営改善のための新たな設備投資の資金か。
その阿佐海岸鉄道では現在、DMV(※)の実証実験を行っている。DMVがローカル線の特効薬かどうかは疑問が残るが、基金を維持するというのであれば、延命予算だけではなく、どうか前向きな設備投資に振り向けてもらいたい。
※DMV:デュアル・モード・ビークル。JR北海道が開発した車両。タイヤと鉄輪を装備し、道路と鉄道の両方を走行できる。ローカル線から周辺地域へ乗り換えなしで利用できると期待されている。
[杉山淳一,Business Media 誠]
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画像:阿佐海岸鉄道の車両ASA-100形、ほか(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1202/10/news004.html)
経営安定基金を止めた肥薩おれんじ鉄道と、続ける阿佐海岸鉄道。赤字ローカル線問題についての判断が分かれた。その違いは何か。
●経営安定基金とは何か
企業が赤字決算となった場合、銀行からお金を借りるか、新たな出資を要請するか、どちらかを選択することが多い。最悪は倒産、解散だ。地方自治体が経営参加する第三セクター会社にとって、赤字が出た場合は、自治体が保証して金融機関から借りるか、自治体の一般会計から補てんするか、という選択になる。保証や補てんというと、いかにも自治体が自立しているように見えるが、保証の中身は不動産などではなく「地方税を徴税する活動」であり、補てんの原資も税金である。つまり、第三セクターが赤字になれば税金が投入される。これは分かりやすい仕組みだ。
ところが、鉄道のローカル線問題になると、第三セクターのおサイフと自治体が管理する税金の間に「経営安定基金」という仕組みが登場する。これはいったい何なんだろう。「基金」というからには「運用の原資」とみるのが自然だ。実際、経営安定基金は運用基金として設計された……時期もある。しかし、いまや運用どころではなく、単なる赤字補てん用の金庫になってしまった感がある。
鉄道の赤字ローカル線問題について、経営安定基金という言葉が登場したのは、1980年に国鉄再建法(日本国有鉄道経営再建促進特別措置法)が成立してからだ。37兆円にも及ぶ国鉄の赤字を削減するため、全国の赤字ローカル線を廃止すると決定した。
このとき、政府は国鉄から赤字ローカル線を切り離すために、沿線自治体に次のような条件を出した。
・バスや第三セクター鉄道に転換する場合は、その路線の距離1キロメートル当たり3000万円までの転換交付金を付与する。
・転換から5年間は政府が赤字を補てんする。ただし、バスの場合は全額、鉄道の場合は半額まで。
・転換に対する対策協議会が2年後に結論を出さなければ、鉄道は廃止とする。
廃止対象となった路線の沿線自治体は、廃止を受け入れるか、自分たちで運行するかの選択を迫られた。ほとんどの自治体は、民間企業にも出資してもらって「第三セクター」という形態で鉄道を残す選択をした。
さて、第三セクター鉄道を作った自治体には、国から転換交付金が付与されるわけだ。そのお金をどうすればいいのか。出資割合に応じて分配して、一般財源で管理するというわけにはいかない。そこで、転換にあたって車両を購入したり、設備を改造する費用の残りをもとに基金を結成し、運用益で赤字を補てんしようと考えた。これが「経営安定基金」である。路線の長さが20キロメートルだったら、交付金は6億円。この8割を基金として、年利3%で運用すれば1440万円を得られる。5年間は赤字の半額を国が面倒みてくれるし、なんとかなるだろう、という目算だ。
●実態は延命予算に
しかし、この胸算用はあっさりと崩れてしまった。1985年のプラザ合意(※)で政府が低金利政策に転じたため、資金の運用益は目論見通りにならなかった。バブル景気のお陰で、多少は営業収入も良かったかもしれないが、なにしろ元々は赤字で国鉄がさじを投げた路線なので、簡単には黒字にならない。そしてバブルが崩壊すると景気対策でゼロ金利政策が始まり、基金の運用どころの話ではなくなってしまう。
※プラザ合意:1980年代のドル安に対して、G5が決定した協調介入。これにより円高傾向となり、日本政府は内需拡大策を講じた。
仮に5000万円の赤字が出れば、とりあえず財源は安定化基金で賄うしかない。安定化基金の6億円から5000万円ずつ切り崩せば、単純に計算しても12年は延命できる。まだ12年あるから、その間になにか手を打とう、という考えに変わっていった。
しかし、なにか手を打とうとして、本当に手を打った第三セクターはあっただろうか。結果をみれば、成功した第三セクターはほとんどなかった。JRから特急列車が乗り入れて線路使用収入を見込める智頭急行、伊勢鉄道、北越急行などのほかは悲惨な結果となっている。どの会社も運行本数を減らしたり、観光キャンペーンなど努力はしただろうが、少子化やクルマの普及など時代の流れには抗えなかった。
そしてもうひとつの問題は、第三セクターならではの特徴である。自治体の出資が多い第三セクターでは、その自治体の首長が社長を兼務する場合も多い。多忙な自治体首長にとって、第三セクターの社長業務にどれだけ力を注げるのか。そもそも企業人、経営者の資質はあるのか。そして市町村長には4年の任期がある。任期がすぎれば社長引退。そんな人に10年、20年先を見据えた経営ができるのか。
「とりあえず、任期中は基金があるから廃止しない。次の市長がなんとかするだろう」
そうした「問題の先送り」状態になっていた可能性も大いにある。経営安定基金は、第三セクター鉄道の経営に取り組む予算ではなく、問題を先送りするための金庫、これが実情ではないだろうか。まるで不治の病の“末期医療”である。薬がなければ死んでしまう。薬のストックがあるうちは投与を続けて延命しよう。そのうちに特効薬が出るだろう……と根拠のない楽観論だったのかもしれない。
2009年に筆者がある第三セクターを訪れた時、当時の市長が「交付金を使って途中駅に列車交換設備を作れば、運行本数を増やして利用者増加を狙えたはず。しかし私が就任したときは、すでに資金が底を付いていた」と悔しそうに話していた。「経営安定基金=延命予算」という考えでは、設備投資をすれば命を縮める。なので安易に手をつけることは難しかったようだ。
●経営安定基金を前向きに使おう
それでも経営安定基金にはメリットがあるのかもしれない。単年度決算の自治体予算で赤字を補てんすれば、1年単位で第三セクター鉄道の経営評価が必要になり、毎年のように廃線問題が浮上する。経営安定基金を積んでおけば、自治体の予算のサイクルから分離され、複数年度に渡る事業計画を立てられる。いま中学生が何人いて、何年後に高校通学利用者がどのくらいあるのか、2年間で住宅を開発し通勤需要を掘り起こそう、などという展望のもとで設備投資や改善の計画を立てられる。
しかし、基金として運用益が見込めない以上、すでに経営安定基金のメリットは少ない。結局は自治体が補てんしなくてはいけない。そう考えると、肥薩おれんじ鉄道沿線自治体が経営安定基金を取り崩したという判断は英断だといえる。そこには「問題を先送りせず、単年度の収支を見極めて対策を打とう」という強い意志さえ感じられる。
鹿児島県議会の肥薩おれんじ鉄道活性化議員連盟は、さっそく地元の人々との意見交換会を開き、対策を検討し始めたという。
経営安定基金制度を維持した阿佐海岸鉄道の沿線自治体はどういう目算があるのだろうか。低金利が続き、基金運用益は見込めないなかでの基金維持。それは末期医療の薬をストックしただけか。あるいは、経営改善のための新たな設備投資の資金か。
その阿佐海岸鉄道では現在、DMV(※)の実証実験を行っている。DMVがローカル線の特効薬かどうかは疑問が残るが、基金を維持するというのであれば、延命予算だけではなく、どうか前向きな設備投資に振り向けてもらいたい。
※DMV:デュアル・モード・ビークル。JR北海道が開発した車両。タイヤと鉄輪を装備し、道路と鉄道の両方を走行できる。ローカル線から周辺地域へ乗り換えなしで利用できると期待されている。
[杉山淳一,Business Media 誠]
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最終更新:2月10日(金)10時58分









