天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

馳星周の沖縄 その1

2017-02-09 11:43:18 | 


馳星周『弥勒世(みるくゆー)』上巻を読んだ。
テーマはおおまかにいうと、沖縄の怒り。時期は昭和47年の沖縄返還間近、佐藤首相とニクソン大統領のころ。
ストーリーは、
施政権返還直前の沖縄、那覇。英字新聞リュウキュウ・ポストの記者・伊波尚友は、ある日ホワイトとスミスと名乗る2人のアメリカ人から反戦活動に関するスパイ活動を迫られる。離島出身ゆえに幼少の頃から差別を受け、沖縄にも日本本土にも憎悪を募らせる尚友は、グリーンカードの取得を条件に承諾。コザに移り住み、反米反基地活動に身を投じながら情報を集めていく―。 (「BOOK」データベースより)

【主要登場人物】
伊波尚友(いはしょうゆう)――昭和15年、奄美大島生れ。30歳くらい。米人にショーンと呼ばれる。
元の姓「平」を父、正嗣が捨てて戸籍を改竄して「伊波」を名乗る。奄美生れの不利を隠す父の知恵。父は米軍物資略奪をなりわいとし熟練者にて「戦果あぎゃー」とその世界で崇められた。

比嘉政信(ひがせいしん)――尚友と同じ施設に育つ。尚友がその頭脳の明晰さ、洞察力、感性の鋭さなどすべてにおいて仰ぎ、嫉妬する存在。三線とエレキギターの名手。

照屋仁美(てるやひとみ)――尚友、政信と同じ施設に育つ。黒人兵と奄美女性とのハーフ。アメリカ基地反対運動に身を投じるとともに、尚友に激しい恋心を抱く。

沖縄を描くのにこの3人の主要人物を奄美大島出身と設定したのが優れている。
すなわち、本土(やまとーんちゅ)やアメリカから虐げられている沖縄と括ってしまうのが一般的だが沖縄の中にも差別がある。ここを見据えたことで厚みを持った。

沖縄の人間は本土の人間の差別に晒されてきた。沖縄の人間はその鬱屈を離島の人間を差別することで晴らしてきた。宮古、石垣――離島の人間はさらなる離島の人間を差別してきた。途切れることのない連鎖。生きとし生きるすべての人間は、他者を差別するという一点で共犯者だ。
(本文より)
「うちなんーちゅ」といっても実際は那覇や首里のことであって沖縄本島にしても「やんばる」(北部)は宮古、石垣、奄美のように低く見られている。差別というのはどこにも水が高いところから低いところへ流れるように存在する、と切り込んだことで、沖縄の底をさらうような見解を示す。

さらに納得させられるのは、南国沖縄ならではの人のよさである。
祭りがはじまるのだ。理性などうっちゃって本能にすべてを委ねればいい。体力が尽きるまで三線を弾き、歌をうたい、カチューシャーを踊る。うちなんーちゅはそうやって生きてきた。そうやって現実をおざなりにし、夢の世界に生きてきた。その結果がこれだ。薩摩と大和に翻弄され、戦争で生き地獄を味わわされ、アメリカーに尻尾を振る生活を余儀なくされる。
(本文より)
どうせ日本に復帰したところで、支配者がアメリカーからやまとーんちゅに変わるだけだ。支配され、搾取され続ける構造はなにひとつ変わらない。
(本文より)
作者は琉球王国が薩摩に攻められてたいした抵抗もせず屈服してしまった事実に沖縄人というものの性情、人のよさ、情けなさを見る。沖縄に対しての諦めの気持ちである。

沖縄の内なる差別、沖縄への諦念という根幹が本書の序盤でしっかり述べられるので、沖縄の怒りなる抽象的なものがとてもよくわかる。
沖縄の怒り、もがき、懊悩が抽象ではなく、伊波尚友、比嘉政信、照屋仁美といった人物に具体的にリアルに托されていて、ぐいぐい引き込まれる。

ちなみに、「弥勒世」は、仏教における弥勒菩薩のこと。沖縄では古来のニライカナイの信仰と合体して、海の彼方の楽土から豊年を運んでくる五穀の神と考えられている。
昔は信じていたのだ。魂を。魂込めを。そうした信仰を生んだ島々を。……おれの成長と共に、沖縄からありとあらゆるものが喪われていった。
(本文より)

魂をどこかに落としてしまった男二人(尚友と政信)と、望まれて生れなかったが信じることのできる仁美が沖縄を象徴する物語である。
作者は「弥勒世」という題に叶えられぬ沖縄の希望を夢想したのではなかろうか。
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