天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

天童荒太『ムーンナイト・ダイバー』

2017-04-06 03:48:19 | 


おおまかな内容は、
東日本大震災の津波にさらわれて海底に沈んだ故人の物でその遺族にとって大切な記念の品をを潜って探すダイバーの話。
ダイビングのプロ舟作は秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げ作業を非合法で行う。依頼者グループの会は金、貴金属、金庫など火事場泥棒疑われる行為は慎むというルールを作る。これにそむき直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げる……。透子の新しい男との生活、性的魅力に富む透子への舟作の衝動。

『家族狩り』(1995年)、『永遠の仔』(1999年)、『あふれた愛』(2000年)、『悼む人』(2009年)。本書は2016年、文藝春秋刊。

ぼくが読んだこれらの天童作品と比べて大きく変わったと思うのは、情交シーンがたっぷりあることである。肉の喜び、情愛、やすらぎ、救いといった、太陽を目指す健康感を書けない作家だと思っていた。
従来の作品のイメージを裏切っているところが見どころ。
「天童さんにしては明るい、未来がある感じでよかったです」という感想をucchiyさんが寄せたのは納得できる。

枝葉末節であるが本書の基調となっている重要な部分は、
舟作はこの仕事を終えると肉をがつがつ食い、妻をがむしゃらに抱く。以下はラブホテルでの情交場面。妻をラブホテルへ連れ込むという設定もおかしいくらい健康。

ベッドまで連れていく気持ちの余裕がもうない。
舟作は浴槽の縁に腰かけ、満恵の脚を広げさせ、彼の腰をまたがせた。パパ、ちょっと痛い、と、満恵がかすれた声で訴える。
彼女の腰に腕を回して支え、彼女のからだの内側が、彼の形に合わせる準備ができるのを待つ。
彼女のほうでも互いのからだがまっすぐつながる向きに身を移し、やがて頃合を見て、舟作は彼女のなかに彼のすべてを埋めるつもりで入った。


馬鹿馬鹿しいくらい健康でほっとする。病的でもアブノーマルでもないふつうの男と女の行為。女に寄せる情愛がほほえましい。
いままでの心にずっしり重い鉛を抱えたままの作者をぼくは憂いていた。どの作品も精度は高く内容は深刻で傑作なのだが、天童さんは精神が耐えうるぎりぎりまで苦しんで足掻いているのが見て取れた。
情交は苦しみからの解放である。
この情交シーンに関しては読者の反発がある。
「どうしても性欲のくだりはそうなんだろう、そうあっていい、とわかっていながらも嫌悪感」というのがrockvalleystudioさんの意見。

「性的な描写が多いのにびっくりしたけど、冷たく暗い海の中と、生きた人間のぬくもりの対比が強烈で、これこそが生き残った自分と亡くなった人との間で苦悩する被災者の気持ちを表現しているんじゃないかと思った。」とayumiさんは小生同様、情交シーンを支持する。
本書も「悼み」の気持ちが強いが前作までの暗さを払拭するように再生へ向かっている。
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