天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

乙川優三郎『脊梁山脈』

2017-05-19 16:34:23 | 


ユニークな恋愛小説『ロゴスの市』で第23回島清恋愛文学賞受賞した乙川優三郎。
彼の作品で以前読んでよくわからなかった『脊梁山脈』を読みなおした。

太平洋戦争を終えて引き上げた23歳の少尉が戦後をどのように生きたかという話。
上海留学中に応召し、日本へ復員する列車の中で、矢田部信幸(少尉)は偶然出会った小椋康造に窮地を救われる。
小椋姓が木地師であることを矢田部知り興味を持ったがこの小説のポイント。

朝鮮半島からの渡来人が元祖とされる木地師集団はまず近江に拠った。次第に木を求めて東進し、信州売木村を経て奥州の山へ移動した、と考えられる。こういった彼らの生活や歴史を取材して図録にしようと矢田部は思い立つ。
木地師たちの家紋が菊でありそれは現天皇家のそれと同じである。
人知れぬ山中に菊の紋章の墓を発見するあたりが作者ならではのかの戦争への渋い批判ないし揺さぶりとなっている。
木地師の出自を仔細に検証してゆくと大化の改新あたりに行きつく。
軍部は万世一系の天皇の御名のもとに国民を戦争に動員したわけだが、木地師の存在が万世一系の天皇制と日本成立のからくりに疑問を投げかける。
作者は主人公に木地の素朴な美を与えこころを和ませるとともに、日本のいう国の成立事情にやんわりゆさぶりをかけ、日本人のアイデンティティを考えようとする。

女二人が効いている。
東京で居酒屋を営みながら画家を志す堀佳江は、性根をすえて戦後を生きる新しい時代の女性。
木地師の娘、小倉多希子は三絃(さんげん)にひいで、温泉場の芸子になる、古風でひかえめな女性だ。対照的な2人に矢田部は心ひかれる。
どちらとくっつくのだ、所帯を持つ気があるのかという下世話な興味を読者に与えつつ、日本の脊梁とはなんぞやという問題を考えさせる。

受賞第40回 大佛次郎賞。
まあこの世評があって読み直したのだが、小技を用いて大きく展開する巧妙な作品である。


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