天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

亀山歌子句集『明鏡』

2017-03-20 05:08:52 | 俳句


美しき落し文あり夕日坂

この近詠に対して鷹主宰は以下の賛辞を送る。
「新しい句集を出すと決めた心の張りが生んだ秀句と言えるだろう。それにしても、米寿の記念に出す句集と言いながら、作品のこのみずみずしさはどうだろう。夕日の差す坂道で拾い上げた緑したたるばかりの落し文は、歌子さんの生きる今そのものように見える」

昭和4年、岐阜県高山市に生れた亀山歌子さん。年齢は22歳上、鷹へ入ったのは12年先輩。彼女の句をいくつかみていきたい。

逝く人に大いなる闇白鳥座
高山に住む作者の深い山々、夜空の星のきらびやかさが存分に出た句。死ぬ人に闇があるのは東京人にとって得難い至福。下五は死者へのはなむけ。

坊守を悼む雪沓十重二十重
死者を送る句に見るべきもののある作者である。雪中を駆けつけた雪沓が集まっているところに視点を当てた精度の高い追悼句。

白き象耳持て哭ける涅槃絵図
象の耳はやるせない部位であり存在そものが悲しみである。「耳持て哭ける」はいいえ得て妙。象が白いのもこの抒情を支える。

夏燕相思の羽をひるがへす
成熟した燕の美しく強い愛撫の羽が眼前に鳴っているようだ。「相思の羽」と見たのがいい。

神主の烏帽子吹つとぶどんどかな
神主登場のどんどを知らない。烏帽子をつけての登場ゆえ正式な神事でありそういう土地にいる作者を羨む。火の粉を浴びて急に動いた姿がユーモラス。聖俗の微妙な味わいがいい。

白樺に始まる夜明閑古鳥
白々と明けてゆく暁闇、白樺の幹ほど印象的なものはない。「白樺に始まる夜明」は高原の早朝を無理なく簡潔に描いている。この鳥の声もいい。

カスタネット挙げて鳴らすや春の雪
本人のことか園児等を見てのことか知らぬが米寿を迎えたという歌子さんの歌心が見事。「挙げて鳴らす」がいきいきとしている。

夏つばめ勝手知りたる通し土間
去年来た燕じゃないかと思うような動き。通し土間があるのだから大きな木造家屋で天井も高そうである。ぼくはここで昼寝させてほしい。大黒柱のわきは涼しそう。山も見える。

髪切りて自転車かろし秋ざくら
女性はすぐ髪を切ることを句にしたがる。そして類句が累々と積み重ねられていく。この句も髪切り俳句であるが、「自転車かろし」と転じたことで類句からやや脱した。俳句は転換の妙で新しくなる。

潜り戸にただよふ香や後の月
茶会か生け花か、見えない香の主の美貌を思う。冒頭に「潜り戸」をもってきたことで半ば成功。寒そうな月で美貌の主の表情ををきりりと締めた。

白南風や鳥語こぼして大楠は
寒林にこぼるる鳥語きらめける

身にしみる秀句をみてきたがこの二句はいただけない。まず「鳥語」だが俳句界にへどろのように堆積していて新鮮味がない。鳥に言葉があるという発想は言葉を持つ人間の奢りであることに気づいていいかもしれない。

なお句集の題名となったのは、この句に拠る。
明鏡に白髪覗くや二月尽

最近の歌子さんにお目にかかっていないが白髪の気品をお持ちなのだろう。
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