社会統計学論文ARCHIVES(人生という森の探索)

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竹内啓「『推計学』以後の数理統計学」竹内啓編『統計学の未来』東京大学出版会,1976年【その2】

2017-05-14 10:34:22 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

竹内啓「『推計学』以後の数理統計学」竹内啓編『統計学の未来』東京大学出版会,1976年【その2】

  フィッシャーとネイマンとの対立点は長く注目されなかったが,フィッシャーは上記の著作でその対立点を激烈な形で明確にした。両者の対立は,基本的に統計的推論の理論そのものに内在する矛盾から生じている。すなわち確率モデルを前提とする限り,すべての推計方式の妥当性は確率計算をもとに「平均的」にしか成り立たない。しかし,必要なのは個々のデータについての適切な判断であり,多くの場合についての平均などではない。

  この問題には4つの考え方がありうる。第一は統計的推測の方法そのものの否定で,推計学批判の立場である。第二は統計的方法を「推計のルール」と考え,個々の場合については「何も言えない」とする立場である。ネイマンの「帰納的行動」の立場である。第三は「平均的な性質」は個々の場合の信頼性を表すと解釈する立場で,フィッシャーのそれである。第四はすべてを「確からしさ」の観点から解釈することで,この立場からは「平均」あるいは「頻度」は無意味である。

  純粋に論理の一貫性を考えるならば,推測理論の完全な否定か(上記の第1の見解),主観価値論か(上記の第4の見解)である。筆者によれば,この両極端の立場を回避し,C.ガウスの最小二乗法,K.ピアソンの大標本と検定論,フィッシャーの小標本理論と実験計画法,ネイマンの標本調査論,シューハートの統計的品質論などがそれぞれ現実に有効であった事実を否定しないとすれば,確率モデルにもとづく推測の方法を論理的に基礎づける課題にとりくまなければならない。しかし,現実的な道はフィッシャーとネイマンの2つの立場の中間で,妥協的立場をとらざるをえない。すなわち「統計的推測のよさはその確率的な平均的な性質によって判定されそれは証拠ない限り個々のデータにそれを適用した場合にもあてはまると考えられる」との結論である(137頁)。

  残されているもうひとつの問題に,母数についての有意味な事前の情報が存在する場合,それと客観的なデータとをどのように結びつけるかというテーマがある。これについてはベイジアンの立場と非ベイジアンの立場とでアプローチが異なるが,いずれも研究成果がみえてきていない。理論家と実際家との間の意思疎通が不十分であることが研究の発展を妨げている。

  具体的応用分野の研究では,実験計画法の発展が顕著である。筆者は工業における研究で田口玄一の貢献をあげている。標本調査法に関しては,目立った展開はなかった。工業における品質管理の抜取法も日本でよく普及し,工場における広い意味の管理法の一環に組み入れられた。これらに対し,統計的方法の普及がスムーズに進まなかった分野は,薬効実験あるいは環境汚染問題への応用である。

 経済の分野では同時方程式の推定を中心とした計量経済学体系が日本経済のモデル分析に適用された。筆者はこれらのモデルが種々の難点をもつことを認めつつ(多変量正規分布に従う誤差項を含む同時方程式モデルの基本概念の危うさ,経済理論的考察から導出されていないなど),しかし国民経済のいろいろな指標の相互連関を明らかにし,整合的予測値を示すことに,有効性をみている。確率的誤差項を前提とした理論によって,現実に正当と思われる結論が得られたことに注目している。そのうえで,同時方程式モデルに関する統計的推論への貢献によって,マクロモデルの現実の推定問題に実用上の意味を付与できること,現実にはこの方向での研究が限界に達し,より非体系的より実際的な問題への研究がのぞまれていることの2点を指摘している。

  筆者は最後に他の特殊分野として時系列解析論と多変量解析法を簡単に展望している。また統計的方法の応用される具体的な対象の分野に応じてモデルと対象の構造,統計的形式的な方法と必要とされる具体的結論の間のギャップを可能な限り小さくする研究があることを指摘している。ロバトネスの問題そしてあまり正統的でない手法の応用およびその理論的正当化の試み(リッジ推定の手法など)がこれである。(終わり)

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