社会統計学論文ARCHIVES(人生という森の探索)

社会統計学に関する論文を要約し、紹介します。
休憩タイムでは、本、映画、音楽、絵画、演劇、旅、お酒を楽しみます。

藤井輝明「社会統計学における統計的方法と統計利用」(『統計学と統計利用』産業統計研究社,2010年,所収)【その3】

2017-07-29 20:47:57 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

藤井輝明「社会統計学における統計的方法と統計利用」(『統計学と統計利用-統計利用の方法論と,集積経済の推定,地域人口動態分析への応用』産業統計研究社,2010年,所収)【その3】

 筆者は最後に山田満の「社会批評としての統計学」を詳しく紹介、検討している。山田統計学の特徴は、筆者によれば、蜷川統計学の明示的な客観化である。多くの論者が自らの理論の出発点に、あるいは批判の対象に蜷川理論を取り上げてきたが、それらは自らの統計理論に必要な限りのことであった。山田はそれらの問題構成を分析し、その延長線上に新しい知の組織化を図ろうとした。そこでは蜷川統計学の問題構成を統計理論の枠を離れて知の集合として捉えなおすことが課題とされた。その試みは、あらゆる統計理論を客観化し相対化することで、今まで見逃されてきた視点をもとめ、社会統計学的なものを総括することである。
 
 筆者は山田の意図を以上のように抑えたうえで、具体的に、言うところの蜷川統計学における客観的・必然的方法としての統計方法の叙述という側面と、独立の学問という側面の矛盾と破綻というテーゼ、また山田のいわゆる「社会批評としての統計学」という表現の中身、それを実現する条件の吟味、以上の山田見解に対する大西広の批判的論点の検討と大西のいわゆる「新実質科学説」の特徴を紹介している。山田の議論の意義は、議論の核心に定型化された統計学のもとからの解放によって成立する多元主義があること(多元主義的視点の交流、異分野のデータ処理技術の交流を通じた比較方法論の探求)であり、実質的研究で用いられる数量的方法・装置、複合領域における方法の摂取を意図していることである。科学者は科学実践をとおして、自らの視点を証明しなければならない。

 筆者が指摘する山田の限界は、次の2点である。第一は分析哲学、記号論などによった山田の自説の説明と唯物論哲学(先行研究が依拠する)との関係が不明確で、多くの誤解を生み出していることである。第二は統計の信頼性・正確性の吟味という統計利用者の視点からの統計作成論批判という枠組みの絶対性を破壊し、新しい見地を示そうという意図は見えるが、その具体的適用の内容がわからないことである。この点(具体的適用の内容)が欠けると、それは適用の可能性を見いだしにくい観念的な論理に転化する危険性がある(このセンテンスは本稿紹介者のもの)。

 筆者の「むすび」は次のようである(明快でない部分があり、主張がわかりにくいが[とくに末尾にかけて]、抜き書きする)。冒頭に掲げた2006年までの実証研究の増加、確率的手法の滲透、統計対象論、認識論の終焉などの社会統計学研究の内容の変化をもたらしたもの、あるいはそこからわかったことを、筆者は以下のようにまとめている。まず、統計を利用して社会科学的認識を得ようとするかぎり統計そのものの吟味が不可欠であることの意味が実践的に認識され、統計の作成から公開、利用さらにその前後の社会的影響にいたる全過程を視野に入れる必要のあることが理解され、統計にかかわる各過程、段階で生じる具合的問題における分析視角の有効性が結論との関係で問題とせざるをえない段階にいたっている。このプロセスで決定的であったのは、社会統計学の多元的価値軸であり、このことが論争を必然化し、統計の作成、利用に関する見解の接点を提供した。統計学そのものが統計にかかわる活動であり、それらの客観化を行えばいかなる学説も相対化される。そうだとすれば、統計学の位置、統計学上の課題は、時々の具体的な社会的課題に対し、自らの統計研究で具体的回答を示すことになる。

 統計学は経験科学から現実の具体的課題を突き付けられ、そのことが統計学の多元化をもたらし、それゆえに多くの研究者は経験に立脚する思考方法を捨て去りえない。統計学は独自の思考法であるが、対象とする現実から独立することはできない。統計そのものを理解する研究も、統計データの批判的利用・組み替えも、現に得られるデータの利用方法の工夫とそれにもとづく実証研究も、これらがもつ社会的影響の研究も、すべて統計学の範囲である。個々人が行っている研究活動が統計学のすべての性質を表現していると考えることはできない。(終わり)

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 藤井輝明「社会統計学におけ... | トップ | 大屋祐雪「反映=模写論の立... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む