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岩崎俊夫「地方自治体の行政評価と統計活動」『立教経済学研究』第61巻第2号【その2】

2016-10-13 00:06:18 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

岩崎俊夫「地方自治体の行政評価と統計活動」『立教経済学研究』第61巻第2号,(『社会統計学の可能性』法律文化社,2010年,所収)【その2】

  最初に,1990年代半ば以降に始まった地方自治体の諸改革(行政評価)が紹介されている。発端は三重県の「事務事業評価システム」(1996年度以降)であった。他に例として,北海道の「時のアセスメント」,静岡県の「業務棚卸評価」,青森県の「政策マーケティング」があげられている。

  行政評価とは,政策(施策)評価,事務事業評価を内容とする行政運営の評価である。それらには幾つかの特徴がある。
 第一は,多くの自治体が中・長期の総合計画をもち,改革がそれらの作成の一環として進められたことである。そこには,いくつかの共通性がある。それは総合計画の全体が上層から下層へと三角形状に配置される「基本構想」「政策」「施策」「基本事業」のシステムとなっている点などである。筆者は例として北上市の「北上市総合計画(2001-2010)」を取り上げ,この計画の構成を示している。

  第二は,これらの総合計画が濃淡の差はあれ,新公共経営(NPM:New Public Management)理論をベースにしていることである。NPM理論とは1980年代半ば以降,イギリス,ニュージーランドなどの諸国で行政に採用された「革新的な」行政理論で,具体的には民間企業の経営諸手法の行政現場への導入として特徴づけられる。そこでは各層で政策,施策,事務事業のPDCA(Plan, Do, Check, Action)サイクル,PDS(Plan, Do, See)サイクルが組み込まれ,数値目標が設定されたそれぞれのアウトプット(活動指標)とアウトカム(成果指標)に対して評価が与えられ,その評価にもとづくそれぞれの進行状況が点検される。

  第三は,計画策定プロセスにいろいろな工夫が講じられたことである。市民アンケート,パブリックコメントの採用,地域での意見交換会の実施などである。知事選挙におけるマニュフェストとの調整には,固有の難しい問題がある。マニュフェストを優先させてそれまで走っていた総合計画を廃止した県もあったようである(新潟県)。    

 以上のような自治体の行政改革が一挙に進んだ背景として筆者があげているのは,次のような要因である。すなわち(1)深刻な財政危機,(2)行政に対する住民の信頼の不信,(3)従来から叫ばれていた地方分権化の促進である。そこに行政評価が積極的に採用された契機としては,概略のところ,(1)地方公共団体による政策裁量の拡大,(2)住民による政策評価の結果や進行過程の開示要求,(3)上記のNPM理論の試験的遂行の要請などがあったと考えられる。

 筆者は本稿でさらに,数値目標の設定の仕方を埼玉県の「ゆとりとチャンスの埼玉プラン(埼玉県5カ年計画)」で点検している。それによると,数値目標の設置は,(1)理想数値としての設定,(2)政策的配慮にもとづく設定,(3)過去の趨勢を外挿した設定,(4)全国水準,他の地域との比較による設定,などがある。

  統計活動を政策と立案と結びつけることの重要性という判断をもったと思われる一部の自治体では,統計セクションの位置づけに変化がみられた,という。統計室が政策部に属するようになった三重県,また統計係が企画部企画経営室のなかにある三鷹市などは,その好例である。      

 いくつかの自治体の政策関係,統計関係の部署をまわって,そこでの聞き取り調査から得た情報を基本に,その後の若干の資料による裏づけを行って執筆された論稿なので,全体がやや断片的な事実の記述になっているきらいはあるが,筆者はそれでも努力して当時の地方自治体の改革の動きの「核となるもの」を掴もうと努力している。くわえて聞き取り調査という実践的活動を背景に書かれているので,内容がリアルであり,ルポルタージュ的な気分も感じられる。   (終わり)

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