社会統計学論文ARCHIVES(人生という森の探索)

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Ⅹ 日本の統計事情(10-1)(社会統計学の伝統と継承)

2017-02-20 12:09:52 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

10 日本における統計事情(調査統計の沿革と旧統計法)

 日本の統計事情の沿革を知るための文献はそう多くはないが,相原茂・鮫島龍行編著『統計 日本経済 』(1971年)[1],日本統計研究所編『日本統計発達史』(1960年)[2]は入手が容易で重要な文献である。他に山中四郎・河合三良『統計法と統計制度』(1950年)[3]がある。総理府統計局編『総理府統計局百年史資料集成(第1巻~第3巻)』(1973-84年)は,大部の資料である。また分野別でそれぞれの統計の歴史についての文献があるので、目配りしておく必要がある[4]

本論で述べることになるが,明治維新以降,日本の統計とくに政府統計の整備の歩みは,調査統計の要である国勢調査立ち上げの経緯をみても緩慢であり,家計調査のそれにしても前近代的思考方法を内包するなど,多くの問題点をもっていた。それでも遅々としてはいたが,近代国家としての政治・社会制度の構築にともない統計調査業務の網がゆるやかにひろがり,業務統計報告のシステムが徐々に理解されていった。この歩みは太平洋戦争と敗戦によって中断し,結果的に統計制度の整備は止まった。ゼロからの再建となった戦後では,その制度的展開はアメリカ占領軍の,とりわけライス統計使節団の指導のもとで実施された。端的に言えば,統計調査と利用の方法の「近代化」であり,より具体的には標本理論と数理統計学の導入である。

 概括的な言い方をすれば,戦前における統計界の視線は専らドイツを中心とするヨーロッパに向けられていたのに対し,敗戦後はこれと質的に異なるアメリカ仕込みの統計学の輸入に血眼になるという流れである。この特徴はそのまま統計学関係の様相にもあてはまる。すなわち,1931年に設立された日本統計学会が当初,社会統計学の研究者が中心に構成されていたのが,戦後,この学会の中心的部分が数理統計学者によって占められるようになった。もっともその萌芽は戦前からあり,1930年代に佐藤良一郎,北川敏男,増山元三郎らによってフィッシャー理論が輸入され,1941年4月に統計科学研究会(北川敏男委員長)が誕生した。さらに1944年6月に文部省に統計数理研究所が作られ(表向きには学術研究会議における統計数学を中心とする統計科学に関する研究所の設立について建議によるとされているが,軍部の支持があったと言う見解がある[5]),戦後における推測統計学あるいはより広義の数理統計学の隆盛の布石となった。

 本章の目的は日本における統計の歴史をたどることであるが,上記のプロセスを仔細に綴る余裕はない。またその方法は当該テーマの歴史を編年体で綴るという形式をとるのはやめ,社会統計学の分野の研究者によるモノグラフから調査統計と統計法に関わる代表的な成果をピックアップし,それらを並べておおまかな流れを掴むという形式をとる。約150年にわたる統計の歴史を知るには大胆すぎる試みであるが,概略を理解する手掛かりにはなるであろう。

 最初に明治初期の統計に関する諸事情を,次いで国勢調査の実施に関わる過程と家計調査が定着する経緯を,最後に統計に関わる法律事情に関して戦前と戦後とに分けて紹介する。



[1] 相原茂・鮫島龍行編著『統計 日本経済 』筑摩書房,1971年。構成は次のとおり。「Ⅰ 総説」「Ⅱ 税制改革と経済諸統計の発端:1.地租改正と全国土地調査,2.消費税体系の整備と「物産表」,3.「農産表」と農林統計の起源,4.明治維新と物価調査の意味」「Ⅲ 明治初期における人口統計の成立過程:1.壬申戸籍編成の経過と背景,2.明治5年「戸口調査」の概要,3.明治12年「甲斐国現在人別調」の検討.(a)「甲斐国現在人別調」による人口の性質,(b)人口の年齢別表章,(c)杉亨二の「職業分類」とその解釈,(d)「甲斐国現在人別調」における工場数」。
[2] 日本統計研究所編『日本統計発達史』東京大学出版会,1960年。
[3] 山中四郎・河合三良『統計法と統計制度』統計の友社、1950年。
[4] 例えば、及川章夫『日本農業統計調査史』農林統計協会、1993年。
[5] 大橋隆憲「日本における統計学の発達・現状・課題」『経済評論』1960年12月号,22頁。
[6] 壬申戸籍,およびその後の戸籍法と寄留手続きを中心とした静態人口の把握が統計調査によらずに人口把握が可能とした経緯を指摘し,このことが日本で国勢調査の成立が遅れる理由となったことについては,金子治平「日本における戸口調査と静態人口調査-国勢調査の前史として-」『近代統計形成過程の研究』法律文化社,1998年3月,参照。
[7] 薮内武司「日本における民間統計団体の生誕-「表記学社」とその系譜-」『経済論集』(関西大学)第26巻4・5号, 1977年1月(『日本統計発達史研究(第1章)』法律文化社, 1995年)。
[8] 薮内武司「日本における中央統計団体の軌跡-「東京統計協会」の結成とその展開-(第2章)」『経済論集』(関西大学)第36巻5号, 1987年2月(『日本統計発達史研究』法律文化社, 1995年)。

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