社会統計学論文ARCHIVES(人生という森の探索)

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Ⅻ 統計学説史③(社会統計学の伝統とその継承)

2017-05-03 20:56:24 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

2 学史展望

(1)発展段階区分

 松川七郎「統計学史研究における5つの時期-政治算術・国状学を中心として-」(1967年)[1]は,比較的早い時期に統計学の通史をまとめたものである。執筆時期の制約により記述は1960年頃で終わっているが,松川の主張,すなわち「統計学史の方法は,統計学そのものの研究対象たる社会の歴史的発展との関連と,その重要な隣接分野をなす諸科学および諸思想の歴史的発展との関連との,すくなくともこの両者を根幹とすべきであろう」[2]という主張が貫かれている。

   本稿は, 17世紀のイギリス政治算術=解剖の再評価を, 17-18世紀のドイツ国状学との対比で歴史的に検討することを課題としている。この検討が18世紀末葉から第二次世界大戦後の現代までに刊行された海外の諸文献をとおして行われている。大変おおがかりな仕事である。文献を渉猟し(その文献リストが末尾に掲げられている), 通読するなかで, 2つの事実に気付いたという。一つは, この2世紀足らずの時間を, 5つの時期に大別できるとの感触があったこと。もう一つは, これらの評価, すなわち統計学史研究がドイツ社会統計学派によって担われてきたことである。そしてこれらふたつの関係について, 統計学史の5期区分は, ドイツ社会統計学派の前史を含めた形成, 確立, 解体のおのおのの時期と無理なく照応している。

 5期とは, 以下のとおりである(年次は, リストに挙げられた文献の刊行年次による便宜的なもの)。(1)国状学の対立, 混乱, 衰退期(1785­1829),(2)「社会物理学」=近代統計学の形成期(1835­65),(3)社会統計学の発展・確立期(1867­1911), (4)社会統計学の解体期(1921­-44),(5)第二次世界大戦後(1945­)

 松川はこれら5つの時期を展望する前に, 17世紀イギリス政治算術=解剖と17­­18世紀ドイツ国状学のそれぞれの特徴を次のように要約している。

 両者は17世紀の60年代に生まれた。政治算術はこの世紀の70年代に学問的形を整えたが, 国状学は18世紀の40年代に確立した。政治算術が統計学史上, 高く評価されたのは近代統計学の基軸となる数量的研究方法の先駆けとなったからである。重要なのは, この数量的規則性が「自然的」であると同時に, 「政治的(社会的)」であるとされたこと, その意味をいっそう明瞭にするために, 人口現象を土地ないし人民(労働)の問題として研究しなければならないと考えられたことである。政治算術は, 17世紀の自然科学(とりわけ数学)の発達によるところが大であったが, 経済理論を背後にもっていたのである。

 ドイツ社会統計学はどうだったのだろうか。松川によれば, ドイツ社会統計学はイギリス政治算術とくらべて, 一般に著しく低くしか評価されなかった。数量的方法の位置づけ方に問題があったからである。コンリングが創始した国状学は, 各国の国家記述を体系づけたものであり, 絶対主義的領邦国家の統治者の実務に役立つ学問であった。アッヘンワルは, コンリングのそれを生かしながら, 土地と人民をもって重要な総括的基礎概念とする「国家顕著事項」の総体としての国状に関する学問を構想した。アッヘンワルの統計学は数量的方法を否定していなかったが, 実際にはその方法を使っておらず, 数量的観察を行わなかった。アッヘンワルの統計学を全体として評価するならば, それは国家の現状について, 客観的な諸事実にもとづく正確な知識の獲得というメリットをもっていたが, 社会経済現象のその記述は平板であり, 表面的な事実の羅列に終始し, 記述を統一する経済学上の理論を欠いていた。アッヘンワルの統計学との関連で, 松川はジュースミルヒのそれに関しても, 一言している。ジュースミルヒはイギリス政治算術をドイツに移植した人物として, また数量的方法や確率論的思想に着眼した人物として, さらに人口現象に生起する規則性を発見した人物として評価され, それは確かにそうなのだが, 彼が行ったことは政治算術の数理的形骸を宗教的信念に支えられて取り入れただけであり, その本質はアッヘンワルと同様, 国状学者であった。

 17世紀イギリス政治算術と17­18世紀ドイツ国状学について, 松川は以上のように概略的な整理をおこない, これらが18世紀末葉以降, 5つの時期にまたがってどのように評価されたかを展望している。(続く)



[1] 松川七郎「統計学史研究における5つの時期-政治算術・国状学を中心として-」『経済研究』第12巻第2号,1961年4月(『ウィリアム・ペティ-その政治算術=解剖の生成に関する一研究』岩波書店, 1967年,所収)。
[2] 松川七郎「浦田昌計『統計学史(Ⅰ西欧)』へのコメント」『統計学』第30号,1976年3月,377頁。

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