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鮫島龍行・石川邦男「労働者問題の発生と統計」相原茂・鮫島龍行編著『統計 日本経済 』筑摩書房,1971年【その1】

2017-03-07 20:24:12 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

 本論稿の構成は次のとおり。「Ⅰ 大正期の統計史的意味」「Ⅱ 生活調査の系譜:1.明治期の生活研究, 2.近代家計調査の発端,3.家計調査ブーム時代,4.統一的家計調査-ブームの終焉」「Ⅲ 労働統計の確立;1.労働問題の進展と労働統計体系の確立,2.賃金統計の整備,3.失業統計調査,4.労働争議統計」。(Ⅰ,Ⅱは鮫島が執筆,Ⅲは石川が執筆)
 筆者は日本における統計の発達の段階区分を,元号にそって行っている。納得できないが,ここでは筆者に従って説明する。大正期の統計史の特徴は,筆者によれば,家計調査の熱狂的流行期であったこと,労働統計の体系的確立を準備した時代であったこと,である。

 筆者はまず生計調査の史的展開を概観する。明治期の生活調査で,3つの時期区分(?)が示されている。第一は貧農や都市貧民の生活実態を個人が探訪調査し,家計の個別的事例をあげて救貧対策の必要を説いた明治30年代までの前史的時期である。鈴木梅四郎の「大阪名護町貧民社会の実況紀略」(1888[明治21]),横山源之助の「日本の下層社会」(1898[明治31])が例として挙げられている。第二は40年以降明治末年までで,「農業小作人工業労働者生計状態に関する調査」(農商務省農務局;1909[明治42]),「細民調査」(内務省地方局:191112[明治4445]),「農家経済調査」(農事試験場技師斎藤万吉による;189599190811[明治28324144])などである。筆者はここで横山が聴取した家計の一例,「農業小作人工業労働者生計状態に関する調査」の方法,この調査における「工業労働者生計調査」と「農業小作者家計調査」の結果,内務省地方局による2回の「細民調査」の内容(実施概要)に関わる資料を示している。この時期の調査の特徴は,調査の方式が聞き取り調査であること,家計収支項目の合理的構成はまだ試みられていないこと,調査対象が社会の底辺にある貧困者世帯であること,「細民調査」にみられるような社会調査的側面が打ち出されたことである。

 大正期に入ると,高野岩三郎による「東京に於ける二十職工家計調査」(1916年[大正5年]5月),高野の指導のもとで権田保之助らが調査員として参画した1919年(大正8年)の「月島労働者家計調査」が実施された。筆者は「東京に於ける二十職工家計調査」における高野の設計構想と調査結果(含家計支出費目分類),また「月島労働者家計調査」の調査内容を紹介している。後者は統計調査というよりは社会調査的実態調査を志向したものであるが,家計調査に相当する部分を含んでおり,後に権田が『実地調査報告』所収の報告論文のなかで「労働者の家計状態」をまとめている。なお,高野は「月島調査」と並行して「小学校教員家計調査」を実施している。
 高野が企画,設計した生活調査を範として,1919年(大正8年)ごろから空前の家計調査流行期に入る。筆者はその一覧表を掲載し,これらのなかからとくに1921年(大正10年)の農商務省工務局「職工生計状態調査」,同じ年の協調会「俸給生活者職工生計調査」,社会局計画案「給料生活者及労働者の全国生計費調査」1926年(大正15年)をとりあげ,その実施要領資料を引用している。これらのうち社会局計画案「給料生活者及労働者の全国生計費調査」は関東大震災で中止となったが,同局所管の労働統計の事務が内閣統計局に移管されたのを機に,統計局が引き継ぎ実施することとなった。この政府施行の全国的規模の家計調査が実施に及んで,大正期の生計調査ブームはおさまった。(続く)

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