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森博美「政府統計体系の構造」『統計法規と統計体系』法政大学出版,1991年【その1】

2017-04-23 21:18:40 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

 筆者の著作『統計法規と統計体系』の第二部「統計法規と統計体系」を総括する位置にある論稿。構成は、次のとおり。「はじめに」「Ⅰ.わが国の政府調査統計と調査論理」「Ⅱ.業務統計とその作成論理」「むすび」。

 本稿でいう政府統計体系の構造は、旧統計法が機能していた時期のそれであるので、留意されたい。
 
 
日本の統計行政は「統計法」と「報調法」という2つの統計法規の枠組みのなかで、「統計法」の適用を受ける指定統計、「報調法」にもとづく承認統計、そして「統計法」の一部条文が適用される届出統計で編成されている。著者はこの章にいたる前に、これらの統計がいかなる調査論理にもとづいて結果数字の真実性をはかっているか、これらの統計に対する統計調整機関の調整権限の行使形態にどのような相異が見られるかを考察したが、本章では業務統計を含めこれらの統計が全体としてどのように政府統計体系を形成しているかを検討している。

 指定統計には、各種のセンサスをはじめ、各分野の基礎的情報の把握を目的とした調査が多く含まれる。統計法の各条文は、指定統計について、申告義務あるいは立入調査権などの法的強制で調査協力要請の契機を規定している。協力内容についても秘密保護規定その他の条文で獲得される統計原情報の質の確保をはかっている。統計の結果精度確保の方策を条文の形で明示的に掲げていることは、指定統計をその法令上の扱いの点で承認統計や届出統計から区別するものである。このことは、指定統計を政府統計の中心部分にすえ、統計全体の体系化をはかる統計法の制定理念の具体的表現形態である。

 指定統計に基づく調査統計で、統計原情報の授受は実査の形態をとる。そこに成立する社会的関係は一時的なものである。また指定統計は不特定多数の個人、世帯、事業所を対象とする比較的規模の大きい調査が多い。さらに指定統計では、調査内容も調査対象の利益関心なりにくい基礎的事項である。これらの指定統計に固有の性格は、実査過程での調査形態を制約する。そこでは、統計作成の全過程を規制する統計専門法規による法的強制が、調査協力要請の唯一の手段となる。

 「報調法」は統計調整の専門法規であり、その条文の大半は統計の「企画-審査-承認」過程にあてられ、統計の真実性の確保と結びつく条文をもたない。承認統計では、調査実施者が調査対象を拘束する非制度的社会関係、すなわち日常的に維持されている政策主体と政策対象の間の実体的「支配-従属」の関係が調査実施の際における協力要請の実質的な強制力として機能する。いわば日常の行政行為のなかで培われた行政指導的論理が実査過程を規定している。

 承認統計のこの調査論理は、報告要請に対する調査対象の協力度や提供される情報の質を規定する。このため各業界でその底辺部分を構成する小規模の企業と業界の指導的地位にある主要企業とでは、承認統計の協力度が異なる。前者の協力度は、後者のそれよりもおちる。

 承認統計の調査論理は、調査票の記入の質の内容をも規定する。すなわち、承認統計では企業や事業所を対象とする調査を中心に郵送・自計式が多い。一般的には郵送・自計式では調査票の回収率が低く記入内容も信頼性を欠くといわれるが、承認統計の場合にはそういうことは稀である。なぜなら、承認統計には実査の形態そのもののなかに統計の質を確保するメカニズムが内包されているからである。具体的には、調査項目が調査対象の属性や活動に密接に結びついたものが多いこと、調査員の実査過程への関与が調査実施者と調査対象の日常的な指導・管理の関係のなかで培われた信頼関係が前提とされていること、比較的短い周期の定期調査として実施されること、などである。(続く)

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