宮下孝晴『フィレンツェ・美の謎空間-フレスコ壁画への旅』NHK、1999年
フレスコ絵画の技法を紹介しながら、関連するフレスコ絵画の魅力を解説したテキストです。
自由都市フィレンツェのウフィッツィ美術館を起点にイタリア各地のフレスコ画を尋ね歩き、その技法と絵画の奥に隠されたドラマを解き明かしています。
「フレスコ」は「フレッシュ」という意味のイタリア語、まだ生乾きの漆喰(新鮮な壁)に描く技法のことです。濡れている漆喰の壁に水で溶いた顔料で描くこの技法が難しいのは、漆喰が乾く前に短時間で一気に描きる完璧なデッサン力がもとめられ、そのために画家は一日に描く面積(「ジョルナータ」)を決めそれを塗りついでいく根気を要求され、実際の描画は築かれた足場のうえで挑まなければならないからです。
この本では、フレスコ絵画に関連する「ジョルナータ法」「ポンタータ法」「カルトーネ法」「インチジオーネ法」などがこと細かく(ときに化学式も使って)説明されています。
フレスコ画の爛熟期は、14-15世紀。この絵画技法の端緒となったのはジョット。以降、マザッチオ、マゾリーノ、フィリッポ・リッピ、フラ・アンジェリコなどの巨匠が続き、ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロの三人の天才で頂点をなします。
本書で取り上げられているフレスコ画は、・・・・
「イエス・キリストと諸聖人」(メリオーレ・ディ・ヤコボ)
「荘厳の聖母」(ジョット)
「聖アンナと聖母子」(マゾリーノ)
「三王礼拝」(ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノ)
「サン・ロマーノの戦い」(パオロ・ウッチェロ)
「聖母の戴冠」(フラ・アンジェリコ)
「ウルビーノ公フェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ公の肖像」「ウルビーノ公妃バッティスタ・スフォルツァの肖像」(ピエロ・デッラ・フランチェスカ)
「春」「ヴィーナスの誕生」(ボッティチェリ)
「玉座の聖母子とニ聖人」(ドメニコ・ギルランダイオ)
「三王礼拝」(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
「聖家族」(ミケランジェロ)
「ロレンツォ豪華王の肖像」(ヴァザーリ)等、多数です。
ヴァザーリの『イタリア芸術家列伝』が書かれた経緯とその出来栄えには驚かされましたが、アンニゴーニ(1910-88)がサン・ミケーネ・アルカンジェロ教会(ポンテ・ブッチャネーゼ)に描いたフレスコ画(壁画)にも感銘を受けました。後者はフレスコ画の技法の粋を現代に再現した壮大な作品です。
おしまい。おやすみなさい。
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