社会統計学論文ARCHIVES(人生という森の探索)

社会統計学に関する論文を要約し、紹介します。
休憩タイムでは、本、映画、音楽、絵画、演劇、旅、お酒を楽しみます。

伊藤セツ,居城舜子「総務庁『家計調査』勤労者世帯の収入主体の分類をめぐる問題点」『家庭管理学研究室報』第13報,1989年3月【その1】

2017-04-21 20:25:10 | 社会統計学・社会科学方法論アーカイブズ

伊藤セツ,居城舜子「総務庁『家計調査』勤労者世帯の収入主体の分類をめぐる問題点」『家庭管理学研究室報』第13報,東京都立立川短期大学家庭管理学研究室,19893月【その1】

 本稿は日本家政学会第40回大会(於日本大学)での報告原稿である(1988525日)。この報告は婦人問題企画推進有識者会議第5回調査委員会でも,「統計調査にみる家計に占める女性の経済力の表記について」というタイトルで行われた。

 報告は3点の目的をもっていた。第一は、総務庁で実施されていた家計調査で用いられていた世帯主概念が勤労者世帯の家計収入の主体の分類として、家計実態把握の阻害要因となっており、「両性の平等」を理念と相容れないことの実証である。第二は、この問題に関する国連での議論を紹介し、政府の統計調査からこの用語を追放したアメリカ合衆国での議論と実際の家計調査結果を検討することである。第三は、日本の家計調査にたちかえってこの問題と関連する改善点を提案することである。

 当時の家計調査では、勤労者世帯の収入の主体は、「世帯主」と「その妻」および「他の世帯員」に区分されていた。ここでいう「世帯主」とは、「世帯の家計費の主たる収入を得ている人」で、性別は問題にされていなかった。そうであるならば、世帯主の対概念は「配偶者」であるべきである。しかし、世帯主の対概念が実際には「その妻」となっている以上、前者は暗に男性であることが前提とされていることになる。

 筆者はここで簡単な例を引き合いにだして、上記の勤労者世帯の収入の主体の3区分がおかしいことを示している。すなわち、家計調査が対象とする勤労者世帯は約5000世帯であるが、仮にその10%500世帯が定義上「世帯主」であるとすると、それらの女性が婚姻関係上「妻」であったとしても、世帯主であるその女性の収入は「妻の収入」の欄には記入されず、またその夫の収入は「他の世帯員収入」の欄に記入される。残りの4500人の男性の世帯主のうち4000人が妻帯者であるとすると、それらの4000人の「妻の収入」の平均値、すなわち「主たる生計を得て」いない妻のみの収入の総計を無収入の妻を含めた人数で割った平均値が「妻の収入」の欄に記入されることになる。したがって、その数値は現実の妻全体の収入の平均値より低くなる。これは家計調査の統計の瑕疵である。

 筆者は次に家計調査の収入主体の分類の変遷を表にして掲げている。それによると大正5年の高野岩三郎による「20職工家計調査」では「世帯主」「妻」「子弟」「その他」、大正8年の高野による月島調査では「世帯主」「配偶者」「世帯主夫妻以外の世帯員」、大正15年および昭和6年から17年の内閣統計局「家計調査」では「世帯主」「世帯主配偶者」「家族収入」、戦後の1950年の「消費者実態調査」では「世帯主」「その他の世帯員」、1953年の総理府家計調査では「世帯主」「妻」「その他の世帯員」、同1959年改正では「世帯主」「妻その他の世帯員」、同1960年改正では「世帯主」「妻その他の世帯員」(これをさらに「妻」「その他の世帯員」に区分)、同1967年改正では「世帯主」「妻」「その他の世帯員」となっている。つまり従来、「世帯主」概念は男性である夫であることを暗黙の前提としてきたということである。(続く)

ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 森博美「指定統計調査」『統... | トップ | 伊藤セツ,居城瞬子「総務庁... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿


コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む