東アジア歴史文化研究会

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『中国はなぜ軍拡を続けるのか』阿南友亮著(新潮撰書)

2017-08-31 | 日本の安全保障
西側は中国軍の実力を過大評価していないか
本当は何が目的で、実際にはどのような成果をあげたのか?

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冷徹な分析で一貫した最新の中国軍の分析である。ともすればセンセーショナリズムに流れがちな日本のチャイナウォッチャーの中国の国防力の分析に比べると、本書は徹底的に冷静なのである。なにしろ下品で醜悪な対象を、これほど上品な文章で評価すること自体、希な才能ではないかと思った。

それは語彙の選び方にあって、威嚇的な、或いは扇情的で情緒的な言い回しを抑制し、主観を加味しない。共産主義独裁をイデオロギー的に裁断しない。つまり、本書は平明に説かれているが、アカデミズムの書である。たとえば暴力沙汰に発展する労働争議や抗議デモの暴徒など一連の暴動も「群体性事件」と譬喩するのである。

さて中国の軍拡の第一目的は海外進出より、「国内平定」であり、「内戦の延長線」が続いているからである。それは国防予算より治安対策費が大きいという現実をみれば納得がいくだろう。

日本のメディアは、やれ中国軍はアメリカを超えるパワーになるとか、日中衝突あれば、五日間で日本が負けるとか楽観悲観こもごものシミュレーションがあるが、中国軍の過大評価する予測という側面がある。

卑近な例でもシリアがある。アサド政権は自国民に容赦ない暴力行使は、周知の通り、シリア国内に地獄絵を出現させ、膨大な数のシリア人が難民となったが、現在の中国は「そこまで逼迫していない」ものの、「天安門事件でも、民衆の鎮圧に(人民解放軍が)多数の戦車、装甲車、自動小銃が用いられた」。

つまり「独裁国家の軍隊というものは、外国に対抗するという役割とともに『国内平定』という役割を果たすことを政権側から期待されており、国内情勢の不安定性が増せば、必然的に後者の比重が増すことになる」(27p)。チベット、ウィグル、南モンゴルへの軍の布陣をみても、国内平定が中国政治の主題である事実が浮かぶ。

ところが「一部のチャイナウォッチャーは、共産党がその手駒である解放軍や武装警察の増強に邁進している姿から、『中国台頭』、すなわち中国が経済発展とともに軍事力を強化し、やがて米国の地位を脅かす超大国に成長するというシナリオを連想する」わけだが、「こうした類の未来予測には違和感を禁じ得ない」とするのが筆者の立場である。そう、中国の軍事力の脅威を言いつのるキャンペーン、じつは米国が仕掛け人である。

共産党の人事が均衡を欠くのは歴史的体質であり、おどろくことはないが、最近の傾向はGDP神話が絡み合って、新型の趣がある。

「『改革・開放』路線下の共産党は、GDPをどれだけ上昇させたかという指標を地方幹部の人事査定の際に重視してきた。このため、不動産開発は、GDPを押し上げ、幹部を出世させるための道具という側面を持つようになった」(153p)。次々と中国全土に幽霊屋敷、ゴーストタウンをつくっても平然としているのは、このためである。

改革開放は解放軍にサイドビジネスも解放した。江沢民時代にはむしろ奨励された。ホテル経営から武器輸出まで、最大の軍需産業商社の「保利集団」はトウ小平一族の利権の巣ともなった。

『開発』という名の下に大プロジェクトが幾つも組まれた。一例が喧しく言われた『西部開発』だった。「資金の多くは三峡ダム建設、重慶などの大都市再開発、チベット鉄道などに象徴される大型開発プロジェクトに投入され、それらによって日雇い労働者に一時的な現金収入の機会を提供しつつも、もっぱらプロジェクトに関与した国有企業と内陸部の地方党委員会の懐を潤したとみるべきであり、中国社会における富の偏在の是正に貢献したとは言えない」(192p)。

かくして改革開放は一部階級の富の肥大を産んだが、多くの中国人は貧困のまま捨て置かれ、胡錦涛のいった「小康社会」『和偕社会』は実現できなかった。それどころか、さらに醜悪な独裁体制が拡大し、GDP拡大のため「一帯一路」「AIIB」「BRICS」の登場となり、「愛国主義による中華民族の復興」が「中国の夢」という虚言を習近平が弄するのである。

本書は最後に中国人民解放軍の「実力」を客観的に評価していて、読み応えがあった。

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