東アジア歴史文化研究会

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天津事故に見た習近平体制の綻び 「上海株防衛戦」も敗色濃厚(石平のチャイナウォッチ)

2015-08-31 | 中国の歴史・中国情勢
2015.08.31

中国発の株安が世界経済にパニックを引き起こした。中国経済の自壊が始まるなかで、私が注目したのが、今月12日に起きた天津市の大爆発事故の処理に当たっての政権側の混乱ぶりである。

たとえば「神経ガス検出」の一件、中国中央テレビは現場に出動した北京公安消防総隊幹部の話として、「爆発が起きた付近の大気から神経ガスの成分が検出された」と伝えたのに対し、天津市環境保護局は「検出されていない」と否定した。さらに、新華社通信は専門家の話として「爆発現場では神経ガスは生成できない」と報じた。

中央テレビの報道に対する天津市当局および新華社の否定と反論は、「不都合な情報」に対する隠蔽(いんぺい)工作の疑いもあるが、問題は「不都合な情報」であるなら、同じ政権側の中央テレビがなぜそれを出してしまったのか、である。結果的には共産党宣伝部直轄の中央テレビが伝えた重要情報を、同じ宣伝部管轄下の新華社が否定し、打ち消すという前代未聞の異常事態が起きたのである。

政権内部の乱れが見えてきた別の出来事もある。

爆発事故直後に、中国政府(国務院)は「事故対応チーム」を編成し、楊棟梁・国家安全生産監督管理総局長をチーム責任者として現場に派遣した。楊氏は天津市の副市長を長く務めた人物で国家の「安全生産」の総責任者だから、この人事は妥当と見るべきであろう。そして楊氏は実際、17日まで現場で事故処理の指揮をとっていた。

ところが18日になって共産党中央規律検査委員会は突如、楊氏に対し「重大な規律違反と違法行為で調査している」と発表した。楊氏はただちに現場から連れ去られ、拘束されたという。

規律検査委が楊氏の「違法行為」を調べているなら当然、天津事故以前から始まっているはずだ。つまり事故発生後、国務院が彼を責任者として現場に派遣したということは、規律検査委の調査が中国政府の中枢であり、楊氏所属の国務院にすら知らされていないということだ。

そして、事故処理の最中に現場の責任者をいきなり失脚させるとは、あたかも政府が急ぐ事故処理を、党の規律検査委が横から妨害しているようにも見える。

習近平国家主席が自ら「事故の迅速かつ円満な処理」を指示したにもかかわらず、規律検査委はなぜこのような唐突な「妨害行動」に出たのか。

真相は不明だが、少なくとも、「国家的危機」ともいうべき天津爆発事故への処理に当たって、党の機関と政府が歩調を合わせず、むしろバラバラになって互いを邪魔し合うような状況となっているのは明らかである。

共産党政権成立以来、何事に当たっても中央指導部の「一元的指導下」で党と政府、宣伝機関などが一枚岩となって行動することは「優良なる伝統」であった。習近平政権になって、習氏自身が指導部に対する全党幹部の「無条件従属」を求め、毛沢東並みの権限集中を図ってきたことも周知の事実である。

しかし、今回の天津爆発事故の処理に際し、中央テレビや新華社、そして国務院と規律検査委の取った一連の行動には「一元的指導」のかけらも感じられない。むしろ、政権内部の乱れと習氏自身の統率力の欠如が露呈されているだけである。

こうした中で、政権が全力を挙げて展開してきた「上海株防衛戦」も既に敗色濃厚となっている。習氏肝いりで政権の浮揚策としていた「9月3日反日行事」も世界の主要先進国からソッポを向かれそうな状況である。

成立から3年足らず。一時に強固な権力基盤を固めたかのように見える習近平体制は早くも綻(ほころ)びを見せて、転落への下り坂にさしかかっているようである。

【石平プロフィール】1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

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