東アジア歴史文化研究会

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金正男暗殺と北朝鮮問題 トランプはどのような対応を展開するのか(経済評論家・渡邉哲也)

2017-05-14 | 北朝鮮関係

南北統一で瓦解するアジア経済

私は、日本で朝鮮半島に対して、議論する際にその根底となるものが大きく間違っているように思われる。それは北朝鮮と韓国がともに統一を望んでいるという前提である。実は、冷静に利害関係で分析すると、北朝鮮にとっても韓国にとっても半島統一は悪夢でしかないのである。

ご存知のように、韓国は民主主義の国であり、情治主義と呼ばれるポピュリズムが強い国である。今回の朴槿恵大統領弾劾においても、連日大規模なろうそくデモが発生し、様々な路上パフォーマンスが繰り広げられ、それが大統領弾劾への導いたことは間違いのないところである。また、保守勢力の側も地べたの保守と呼ばれる勢力が太極旗を振りかざして、大統領の正当性を唱え続けたわけである。そして、裁判所の弾劾決定の際には、衝突も発生し、悲しいことに死者も出してしまったのである。

それに対して、北朝鮮は世襲による金一族の独裁国家であり、国民に対して、正当な人権や自由を与えていない。だからこそ、現体制が維持できるわけであり、国民が飢えていても軍事に対して富を投入できるわけである。であるがゆえに、権力を維持するためには恐怖政治を採り、金政権に反対するものを粛清することでその権力を保ってきたわけである。つまり、金政権が続く限り、人権や自由こそが政権にとっての最大の敵なのである。

そのように考えると、この二つが一緒になることはありえないという答えが出てくるわけである。北朝鮮が韓国を併合したとして、金正恩氏にとっての敵は民主主義であり、それは韓国の国民を意味するものになる。また、韓国が北朝鮮を併合したとして、2500万人の飢えた民に対して、どのような対処ができるかという話である。韓国人の多くは自らの経済的犠牲を払ってまで北朝鮮を併合したいとは考えていない。だからこそ、長い間38度線が維持されてきたわけであり、それは韓国北朝鮮だけでなく、周辺国すべての利益でもあったわけである。

北朝鮮という国家が存続する限り、北朝鮮は国民を国内にとどめ続けていてくれる。なぜならば、北朝鮮は、国民が他国の豊かな生活や自由を知らないことで国家が維持されているからである。北朝鮮は北朝鮮が世界一の楽園だと国民に植え付けてきた。そして、それは首領様のおかげであると金一族を神格化してきたわけである。北朝鮮人が自由往来を始めればこの幻想が壊れてしまうのである。

日本と違いロシアも中国も同じ大陸上にあるため、国境は線でしかない。このため、北朝鮮が鎖国政策をやめた場合、ロシアも中国も大量の飢えた難民に苦しむことになるためである。また、日本にとっても、北の崩壊はボートピープルなどの大量発生を生み出し、日本海側の治安悪化要因なのである。また、朝鮮戦争で韓国側を支援して戦い、未だに韓国の統制権を持つ米国も同様であった。北朝鮮があったからこそ、対北朝鮮を理由に中国やロシア向けの最前線基地を維持し続けることができたのである。つまり、現状維持こそが周辺国にとっての最適解であったわけである。

冷戦終結と朝鮮半島

冷戦時代、日本にとってもアメリカにとっても韓国は反共の壁として、自由社会のショーケースとして非常に有効なカードであった。韓国が存在するからこそ、共産主義国との対立点が38度線まで引き上げられ、日本海が直接的な戦場になることを免れることができたのである。また、北朝鮮も同様であり、北朝鮮があったからこそ、自由主義陣営が大陸に入り込むことを阻止できたわけである。

しかし、中国が改革開放路線を選択、ソビエトが崩壊し冷戦が終結を迎えたことで、この力関係が大きく変わり始めたのであった。東西の戦争リスクが一気に低下し、同時にそれは朝鮮半島そのものの地政学的価値を暴落させてしまったわけである。1980年代、アメリカは当時のソビエトに働きかけ、北朝鮮をNPT(核拡散防止条約)に加盟させ、国際原子力機関 (IAEA)の監視下に置くことで核開発を止めようとした。しかし、ソビエトの崩壊により、ロシアの北朝鮮への強制力が低下し、ハンドリングが不能になってしまったのである。結果、北朝鮮は2003年1月にNPTから脱退を通告、唯一の軍事同盟国である中国との関係を深めていったわけである。しかし、中国もこれを抑制できない状態にあるわけだ。

韓国側も、冷戦の崩壊により米国に強い庇護が受けられなくなり、それが韓国経済を自壊へと導いたわけである。それが1997年の東アジア通貨危機であり、これにより韓国のほとんどの銀行と財閥が破たんし、大量の中小零細企業の倒産を生み出した。その結果として、外資の支援を受けた一部の財閥のみが支配する経済が生まれ、国内で生み出された利益が国内に還流しない経済構造になってしまったのだった。そして、この国民の不満は韓国内での左派勢力を拡大させ、金大中、盧武鉉と続く、親北、反米、反日政権を生み出すことになったわけである。

そして、このような状況の中で、北朝鮮は核開発をどんどん推し進め、ミサイル開発にも成功しつつあるわけである。北朝鮮の核開発は国境を接する中国やロシアにとっても大きな脅威であり、見過ごすことができない問題であることは間違いない。北朝鮮のミサイルの多くは北京やロシアにも向けられており、日本やアメリカだけを対象としたものではないからなのである。距離が近い分、そのリスクは中国の方が大きいともいえるかもしれない。しかし、現在、中国は北朝鮮をコントロールできない状況にあり、これが大きな問題にもなっているわけである。

金正男暗殺と中国

2017年2月12日朝 日米首脳会談後のゴルフ外交の最中、北朝鮮は日本海にミサイルを発射した。それに対して、日米両首脳は滞在先の大統領の別荘で記者会見し、「北朝鮮のミサイル発射は断じて容認できない。北朝鮮は国連決議を完全に順守すべきだ」と表明した上で、日米同盟を緊密化し、対応を強化することで大統領と一致した」としました。さらに安倍総理は「先ほど大統領との首脳会談で米国は常に100%日本と共にあることを明言された。大統領はその意思を示すために私の隣に立っている」と語りました。大統領も「米国は偉大な同盟国、日本を100%支持する」と明言したのであった。そして、日本政府は北京ルートを通じて、北朝鮮に対して強い抗議の意思を示した。その翌日、2月13日 マレーシア・クアラルンプール国際空港で中国政府の擁護下にあるとされてきた金正男がVXガスにより暗殺された。この二つの出来事は、全く別の出来事ではあるが、北朝鮮を中国がコントロールできないことを国際社会に知らしめたものであり、中国のメンツが大きく傷つけられた形になったわけである。

そして、このような状況は、米国の自由度を引き上げる結果になっているわけだ。米国としては、北朝鮮の脅威をできるだけ早い段階で叩き潰したい。すでに核爆弾は開発済みとみられているが、小型化に成功しておらず、輸送手段である長距離弾道弾ミサイルも完成していない。このため、今の段階であれば、米国本土への直接的な脅威になりえないからである。しかし、米国としても、北朝鮮と軍事同盟関係にある中国を刺激するのは得策でないという判断だったわけである。しかし、中国が北朝鮮をコントロールできないのであれば話は別であり、米国の判断による北朝鮮の制圧が可能になるわけだ。そして、4月3日 米国トランプ大統領は、米国単独でも北朝鮮問題に対処すると意思表明を行ったのであった。

また、米国は北朝鮮問題で大きなカードを握っているとも報じられている。金正男氏の息子である金漢率(キム・ハンソル)を米国内に保護しているといわれているのだ。北朝鮮の政権は世襲であり、男系がその地位を継ぐことになっている。今の将軍である金正恩氏には男の子がおらず、金漢率氏に金正恩氏の次の王位継承権があるのである。そして、北朝鮮の国民は、将軍家に敬意を払っており、金漢率氏を傀儡にして、政権を樹立することができれば、核とミサイルの脅威を排除しながら、北朝鮮の安定をはかることができるのである。

ここで問題になるのが、ロシア中国との関係であるが、ロシアとの間ではロシアは北朝鮮問題で日本側を支持すると表明しており、トランプ政権と関係を深めようともしており、米国側の関与を限定することで、合意を得ることが可能になる可能性が高い。それに対して、南シナ海問題などで米国と対立を深めている中国は、それを絶対に阻止したいと思われる。しかし、北朝鮮を制御できないとなれば中国側にそれを主張する根拠がないのである。

米国の経済カード

現在、北朝鮮はテロ支援国家の指定を受けていない。1988年、核開発などを受けてテロ支援国家の指定を受けたものの、2007年の六者会合での核開発放棄の合意を受け2008年に指定を解除されたままなのである。しかし、ここにきて、金融制裁の強化とテロ支援国家再指定の動きが出始めている。北朝鮮は核拡散条約に反する形で核保有を進めており、VXガスという化学兵器を使ったテロ行為を行ったわけであり、テロ支援国家の指定要件を整えているのである。

軍事オプションを除いた場合、米国の持つ最大の武器が金融と経済の国際支配であり、米国に逆らえば、世界の金融システムから排除される仕組みになっている。米国自由法とIEEPA法により、米国が金融制裁の対象としている人や組織や国と取引した場合、取引した人や国も制裁できるようになっているのである。これは米国の国内法ではあるが、米国の企業や銀行と取引する条件になっているため、国際法的な要素もあるわけだ。現在、世界の債権の約6割がドル建てであり、資源取引の多くもドル建てであるため、ドルを手に入れられなければ銀行業務も企業業務もできないのである。 実際に、2005年9月マカオの銀行バンコデルタアジア(BDA)は、北朝鮮のマネーロンダリングを支援していたとして、米国のブラックリストに入り、それが原因で国有化された。また、2014年フランスの銀行BNPパリバは米国の制裁対象と取引をしたとして、1兆円近い罰金を払わされているわけである。

すでに今でも一部の北朝鮮の個人と法人がこの対象になってはいるものの、国そのものはテロ支援国家になっておらず、いくつもの逃げ道が存在する状態なのである。しかし、国ごと指定された場合、この逃げ道が一気にふさがれることになる。また、これは日本においても大きな変化をもたらす可能性がある。一番の問題になるのは朝鮮総連であり、実体として北朝鮮の大使館業務を行っており、北の関連団体として制裁をしなくてはいけなくなる可能性があるわけだ。

2001年の米国多発テロ事件以降、米国は金融規制の強化を進め、関係国に順守を求めてきた。また、世界で多発するテロへの対処として、テロ関連の法整備と国際連携での対策の強化を求め続けてきた。
https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/maneron/manetop.htm

その結果、北朝鮮がテロ支援国家指定解除を受けた時と現在では環境が全く異なるのである。米国がテロ支援国家指定をした場合、日本も厳格に対処しなければ日本もその巻き添えになってしまうわけである。共謀罪やテロ三法やマイナンバーもこの一連の国際的な規制強化の流れの一部である。そして、総連の活動を完全に禁止した場合、国内でのテロリスクが大きく上がることも予想されるわけである。

そして、現在、米国の北朝鮮へのテロ支援国家指定に最も強く反対しているのは中国である。米国はクリミア問題などを受けて、ロシアの銀行と一部の個人を金融制裁の対象にした。このため、北朝鮮はロシアを利用した金融取引が難しくなり、金融を中国に依存する形になっているのだ。さすがに四大銀行など大きな銀行は直接的な取引をしていないが、中小銀行などに北朝鮮系企業の口座が多数存在するといわれており、米国がこれに制裁をかけた場合、中国の銀行が破たんする可能性も指摘されているのである。そして、北朝鮮と取引している中国企業にとってもこれは脅威になるのだ。 2017年2月以降、米国は中国に対して、北朝鮮への金融制裁強化を何度も通告しており、G20などの席でもこれが話題に上がっているのである。そして、これは表面的には北朝鮮への交渉カードであるが、実は中国向けの威嚇カードにもなっているのである。米国は現在、南シナ海問題などで中国との対立を深めており、これを中国への威嚇及び制裁カードとして利用することも可能だからなのである。

経済と政治軍事は表裏一体

冷戦終結後、評論家やメディアなどで、政治と経済は別であるという根拠のない発言が繰り返され、それが日本企業の中国進出などを活発化させる原因でもあった。しかし、今回の問題を見てもそれが間違いであり、政治と経済は表裏一体であり、金融と軍事も表裏一体であることが明確である。

米国は、北朝鮮問題への対処として、軍事オプションと金融制裁を効果的に組み合わせた対処を行うものと思われ、金正恩政権が継続しようとも金正恩が処刑されたとしても、その後の北朝鮮対応として、金融制裁と核の廃絶やミサイル破棄などを前提とした経済支援をパッケージ化して、交渉をはかるものと思われる。また、現在問題になっている南シナ海問題でも、同様の対応を行うものと思われるのである。

また、韓国への対応も同様であり、韓国で親北親中反米政権が誕生した場合、韓国に対して厳しい対応を取ることが予想され、それが韓国企業と取引する日本企業にも大きな影響を与える可能性がある。また、これは日本海の安全保障問題にも直結する問題でもあるわけだ。

現在、北朝鮮の暴走と中国の太平洋への進出により、朝鮮戦争終結以降の東アジアとアジア全域の安定構図が変化を始めており、非常に不安定化しているといってよいのだろう。そして、世界を色分けする新たな冷戦構造が生まれつつある。当然、日本も例外ではなく、その直接的な当事者であり、政治的な選択を誤れば国土や国民に大きな犠牲が出る可能性も否定できないのである。

また、これは政治だけの問題ではなく、企業経営者もここで選択を誤れば、会社と従業員を大きな危険にさらす可能性が高く、常に危険を意識し、いつでも逃げられる体制を作る必要すら出てき始めているのだと思われる。北朝鮮の問題は韓国進出企業の問題であり、南シナ内の問題は、中国進出企業とASEAN全域の問題として認識しなくてはいけないのである。危険度が高まれば水面下でそれを回避する動きが起き、目に見える問題に発展するケースは少ないが、それは見えないだけに過ぎないのだ。


渡邉哲也氏プロフィール
1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業運営などに携わる。大手掲示板での欧州経済、韓国経済などの評論が話題となり、2009年『本当にヤバイ! 欧州経済』(彩図社)を出版、欧州危機を警告しベストセラーになる。ネットを通じて発信している内外の経済・政治情勢のリサーチや分析に定評があり、さまざまな政策立案の支援から、雑誌の企画・監修まで幅広く活動を行っている。
著書に『完全にヤバイ! 韓国経済』(三橋貴明共著)、欧州危機を予言した『本当はヤバイ! 欧州経済』、『アップルvs サムスンから読み解く日本企業の戦略 日本経済の復活術』『これからすごいことになる日本経済』『儲(もうけ) 国益にかなえば経済はもっとすごくなる』『売国経済 アジアの勝者は日本だけでいい』『突き破る日本経済』『ヤバイ中国』『中国壊滅』『余命半年の中国経済』『戦争へ突入する世界 大激変する日本経済』『パナマ文書』『欧州壊滅 世界急変』『貧者の一票』(扶桑社)『あと5年で銀行は半分以下になる』(PHP研究所)『米中開戦 躍進する日本』(徳間書店)など多数。
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