元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

あっしは、kippleってぇケチな野郎っす! 基本、自作小説と、Twitterまとめ投稿っす!

「やって来た男」:kipple

2005-07-05 19:31:00 | kipple小説


      「やって来た男」


               1年後の未来。

 オレは最後の人類だ。人類はオレ一人を残してあっさりと壊れやがった。オレは荒野の中で一人で隠遁者を決め込んでいる。でかい基地のような小型原子炉付きのリゾートホテルに住んでいる。食料は何百年分も冷凍庫に保存してある。電力もオレが生きている間は尽きることは無いだろう。

 さんざん、にぎわって地球上をくまなく覆い尽くした情報ネットワークも何の意味もない。一人じゃ何の意味もない。ざまぁみろってんだ。オレは人間が大嫌いだった。ネットワークを駆使して現実に接しなくとも同じ事だった。裏で操作してるのは人間であることには変わりないんだ。人間はイヤだ!

 そう、オレは人間嫌い。そのオレ様が、たった一人、この惑星で生き残ったってぇんだから、まさに思うつぼよ。どっかの神様は粋な事しやがるって訳だ。

 “うん?”

  “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 何だ?この音は。警報装置が何かを捕らえたぞ!何だ、人間だ!まさか。世界中の生命感知装置を駆使して、また衛生からも地上の生命反応を分析して生き残りの人間がオレしかいない事を確認したはずだ。何かの間違いじゃないのか?

  “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 やはり人間だ。オレには分かる。いたんだ。砂漠の中に落としたコンタクトレンズを探し出すより、もっと執拗にオレ以外の人間全滅を確認したはずなのに。

  “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 何故だ?どこでどうやって生き延びやがった。あらゆるシェルターは壊滅したはずだ。ここだけが奇跡的なエアポケットだったはずだ。

  “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 しかし間違いない。これは人間の反応だ。しかもオレには分かる。凄く嫌な奴だ。嫌な奴がやって来る時、千里先からの足音も聞こえるって言うじゃないか。それだ。

  “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 あああ、凄く嫌な奴がやって来る。人間の中でも特別に嫌な奴だ。オレ以外に生き残った、もう一人の人間。あああ、せっかく一人になれたのに。


       オレは高性能の望遠鏡で、遙か荒野の果てを見つめ続けた。

      長い長い土の道を、その男は遠く地平線の向こうからやって来た。

         オレは近づいて来る男を、じっと見つめ続けた。

       彼は案山子のような男で、黒いサングラスをしていた。

         オレは震えて身動きできずに見つめ続けた。

         ずっとずっと呆けたように見つめていた。

        気づくと望遠鏡に超アップで彼の顔が映っていた。

         彼は、とっくにオレの目の前に来ていたのだ。

        そしてオレが望遠鏡から顔を離すと彼は言った。

「世の中にはなぁ、嫌な奴がたくさんいるぜ。オレが知ってる人間には4種類あるんだ。頭が良くて現実的な奴、頭が良くて空想的な奴、頭が悪くて現実的な奴、頭が悪くて空想的な奴。
 嫌な奴ってのは現実的な奴らだ。こいつらは得てして利己的で打算でしか決して行動しやしないのだ。それと人をいたぶるのが、こいつらにとって快感なんだ。
 嫌な奴ってぇのは、しばらく会っているだけで分かるもんさ。何かにつけ、こっちにちょっかい出してきやがる。そしてこっちの弱点を見つけると、ずうずうしくチクチクと、それをつつき出すんだぜ。
 耐えず自分を優越させておきたいんだよ、奴らはな。ちくしょう。」

 オレは固く拳を握りしめて、目を丸くしながら言った。

「全く、その通りだ。オレも同じ事を思っている。だから人間どもの存在する現実には耐えられないんだ!」


 すると彼は、親しそうに、ニコリと笑って、こう言った。

  「君となら、うまくやれる。」

 傾いた陽射しの中、オレは暴れ出した。暴れて暴れて暴れて暴れて、彼を追い出した。オレは一人で暮らしたいんだよ!せっかく完全に一人になれたと思ったのに何で又、人間と暮らにゃならんのだ!

 彼は不満そうに顔を斜めに歪めて出ていった。再び、彼は遠くへ遠くへ、去って行った。オレは、それを再び高性能の望遠鏡で見つめ続けた。

   “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 嫌な奴の音が、次第に小さくなっていく。ちぇっ!あれが可愛い女の子だったらなぁ。事もあろうに、オレの一番嫌いな人間、オレ自身がやって来るとはなぁ。

   “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

 オレはオレなんかと暮らしたくねぇんだよぉ~!

 オレはオレと暮らしたくないので小型原子炉の温度を上昇させ炉心溶解を起こして自爆した。

 荒野には汚染された空っ風が吹いた。


   “ドンガラガッター!ドンガラガッター!どんどんどんどん!”

                
            

    ドンガラガッター!ドンガラガッター!

     どんどんどんどん!



            めでたし、めでたし


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)



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