平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
第3回古文書に親しむ「寺子屋規則」


(西の空の夕焼けと東の天空に架かる虹)
夕方、息子が虹が出ているという。表に出てみると、西の空に夕焼けが空を染めて、東の天空には半円の虹が掛かっていた。昼間の真夏の暑さも夜には涼しくなって、秋が近いことを感じさせる。昼間はツクツクホウシが鳴き、夜は虫がすだき始めた。今年は梅雨が長く、梅雨が明けたと思ったら、もう秋が立ち残暑となった。あっけない夏であった。
昨日午後、みんくるに「古文書に親しむ」に出席した。講師から受講生のYさんが亡くなられたと話があり、一同で黙祷した。年齢の高い受講生も多いので、当然そんなこともある。先月の第2回と今月の第3回で善正寺というお寺の「寺子屋規則」を読んでいる。以下に書き下したものを示す。前半部分で、後半は次月になる。
相守るべき條々
それ手習稽古の道たる、先ず柔和にして行儀を正し、万事長(おさ)しき師匠を敬ひ、手本を大切にいたし、たとえ破れ候反古たりといえども、不浄のところへ捨てるべからざる事。
一 毎日早朝より来て、先ず机に向かい、硯箱並びに文庫を明け、手本、双紙を取直し、これまで上げ候手本を相習わるべく候。早書、世上の咄(はなし)をまじえ、浮(うわ)の空なる儀は甚だもって無益の至りに候。
附り 手本の読み、毎日懈怠有るまじく候。これまた高からず下からず、差別分明に読まるべき事。
※ 双紙 − 字の練習用に紙を綴じたもの。
※ 早書 − 手習い帳のようなもの。
※ 懈怠 − なまけること。おこたること。
一 読書は随分静かに読まれるべく候。はた又大音を揚げ、文庫硯箱の蓋抔(など)にて拍子を取り、大勢一度に相読み候儀、無用たるべく候。覚束(おぼつか)なきところ、そのまま差し置かれまじき事。
※ 抔(など)− など
一 読み書き相習い候みぎりは、師匠並び兄弟子の前に向いて、行儀を正し、昨日習い候ところ、一二返、くりかえさるべく候。一処にても忘れこれ有り候わば、無精(ぶしょう)の咎として、その日習い候儀、無用たるべき候事。
一 午飯過ぎ来て、まず早朝習い候書物二三返、くりかえさるべく候。相忘れ候歟(か)覚束(おぼつか)なきところ、早速相尋ねらるべく候。
附り 当前習い候手本、数返念入り稽古有るべく候。もっとも世上の雑談いたし、就中、子供の悪口、食事の咄は聞きづらきものに候事。
※ 午飯過ぎ来て − 寺子屋では昼食は出ないから、家に帰って食べる。
※ 歟(か)−(疑問、推測、反語、感嘆の意を表わす助字)
※ 就中(なかんずく)−その中でも。とりわけ。
一 清書の節は随分心を鎮め、入念申さるべく候。墨薄くあるいは字を消し、継ぎ筆などを致し候儀、反古同じ事に候。
一 毎晩宿に帰り候いて開け候書物、くりかえさるべく候。なお又忘れこれ有り候わば、附紙いたし翌日来て相尋ねらるべき事。
※ 附紙 − 書籍や文書中、必要なところや不審なところに目じるしとしてつける紙。付箋。
一 客来たりこれ在り候時、雑言並び高声に、時に花小歌の類い、急度相嗜まれるべく候。
附り 戸障子閉開作法ならば、跪(ひざまずき)候えども、腰を屈めて致されるべく候。もっとも敷居並び畳の縁り踏み候儀は不(無)礼の至りに候事。
※ 花小歌 − 鼻歌の小唄
※ 嗜む − つつしむ。気をつける。用心する。
一 寺へ金銀は申すに及ばず、一文の銭並び小刀、魚釣針などの殺生の具、持参有りまじく候。なお又竹弓を拵え、筆の軸にて吹矢、押鉄砲などの塵芥になり候事、相慎まれるべき事。
附り 借貸、諸勝負、壱銭の売買も急度停止(ちょうじ)せしめ候事。
※ 停止(ちょうじ)− さしとめること。
一 相傍輩(ほうばい)懈怠の内、文庫硯箱猥りに明けられまじく候。勿論、一枚の紙、一管の筆、墨屑などに至るまで、取り盗むの輩は吟味せしめ、急度申し付くべき事。
※ 傍輩(ほうばい)− 同じ先生についたりしている仲間。同輩。
※ 急度(きっと)− きびしく。
一 相傍輩は兄弟の親しみに候間、平生相互に致し、喧嘩口論は申すに及ばず、腕押し、枕引きなどの児童に似合わざる仕業(しわざ)沙汰の限りに候。
附り 往来の道筋にて、石打ち合い、水掛け合い、相撲り打擲(ちょうちゃく)などの儀は極悪の至りに候事。(次月に続く)
※ 平生 − ふだん。いつも。つね日ごろ。
※ 腕押し − 腕相撲。
※ 枕引き − 1個の木枕を両側から二人が指先でつまんで引き合う遊戯。
※ 沙汰の限り − 是非を論じる範囲をこえていること。論外。また、言語道断。もってのほか。
※ 打擲(ちょうちゃく)− 打ちたたくこと。なぐること。
規則を読んでいると、当時の寺子屋の風景が目に浮かんでくる。講師の話では当時の寺子屋は生徒が飽いてしまって、今なら学級崩壊と言われかねないほど、生徒は勝手なことをやっていたらしい。
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