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「壺石文」 上 20 (旧)七月十日(つづき)

(庭の松の木のセッコクが花盛り)

庭の松の木のセッコクが花盛りで、年々その勢力範囲を広げて、株が大きくなっているのを感じる。

午後、掛川図書館の文学講座に出席する。今年度の、今日が初回である。テーマは年間を通して、「井上靖と静岡県」というような課題である。今日は、その幼少期から15歳位までの話であった。その時代のことを描いた、井上靖の「しろばんば」「夏草冬濤」などの作品を読んだのは、もう30年も40年も昔になる。この機会に再読してみようかと思う。

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「壺石文 上」の解読を続ける。

堅住大徳の語る、白川の里の近村で起きた事件の話。2時間ドラマの筋書きのようにはいかないが、かなりシリアス。

この白川の里より二里ばかり離れて、辰巳の方に当りて山里あり。小松村となん云うなる。こゝに世離れたる一つ家あり。この家、刀自(とうじ)まめなる本情にて、(みさお)なるが、一年哀れなる事侍りき。
※ 刀自(とうじ)- 一家の主婦。
※ 操(みさお)- 精神的に上品で立派なこと。


年の程、三十ばかりにて、けしうはあらざりけるを、近き村の博奕など良からぬ業して、浮世渡らう男(おのこ)むくつけきが、一日ゆくりかに来けり。その折しも、夫(つま)の家にあらざりければ、如何(いかが)はせん。このむくつけ男(おのこ)うちつけに逼り寄りて、気色ばむ
※ けしうはあらず - それほど悪くない。まあまあよい。
※ むくつけき - 無骨な。無作法な。
※ ゆくりかに - 思いがけなく。突然に。
※ うちつけに - ぶしつけに。露骨に。
※ 気色ばむ(けしきばむ)- 怒ったようすを表情に現す。むっとして顔色を変える。


わりなしとて、いなみにければ、腹立ちて、眼居(まなこい)鋭どに、熊鷹の猿(ましら)、兔(うさぎ)などを掴めるが如(ごと)、掴みつきて、腰刀の剣頭取り縛りければ、この賢し女気色取りて云うよう、さらばせんし(す)べなし。御心に従いてんとて、遂に、本意にもあらで、嘆く/\寝てけり。
※ わりなし - むやみやたらだ。道理に合わない。
※ いなむ(否む)- 断る。
※ 眼居(まなこい)- 目つき。まなざし。
※ 剣頭(たかみ)- 剣の柄。
※ 賢し女(さかしめ)- 賢くしっかりした女。賢女。
※ 気色(けしき)- きざし。けはい。


さりける後は、この男(おのこ)何の良き事と思いて、男のあらざる時をうかがいて、二、三度詣で来て、本意遂げてけり。はて/\は、あるじだちて言いけらく、近きほどに人知れず、なれ(汝)を誘(いざな)いて、諸(もろ)ともに走りてん。急ぎし給いてよ、と言いけるを、否みなば、悪しかりなんと思いとりて、すなわち、肯(うべな)いしけり。
※ だち(立ち)- 名詞の下に付いて、そのつくりのさまを表す。ここでは、「あるじのような顔をして」の意か。
(つづく)
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